【著者に訊け】木下昌輝氏 『敵の名は、宮本武蔵』

NEWSポストセブン / 2017年3月2日 16時0分

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木下昌輝氏が『敵の名は、宮本武蔵』を語る

【著者に訊け】木下昌輝氏/『敵の名は、宮本武蔵』/KADOKAWA/1600円+税

 二刀流、とはいっても、あの大谷クンではない。その元祖代名詞的存在、宮本武蔵玄信、幼名弁助が、本書の主人公たちの、さらに敵役という趣向である。

 木下昌輝著『敵の名は、宮本武蔵』は、弱冠13歳で有馬喜兵衛を破って以来、約60戦全てに勝利したとされる武蔵に、討たれた側の物語。先述の有馬や、通称〈クサリ鎌のシシド〉、京の名門道場主・吉岡憲法こと源左衛門や巌流小次郎との死闘まで、計7編の敗者の生と死を通じてかの剣聖の実像に迫る、連作短編集だ。

 剣や書画にも才を発揮した武蔵に関しては、小説や漫画等々、エンタメ作品も数多いが、本書では敗者の視点や小次郎戦にまつわる衝撃の新解釈、さらに〈憲法黒〉なる染物技術の誕生秘話や、弁助時代の若さが、最大の読み処といえよう。

 人を斬れば斬るほど強く、そして遠くなる武蔵が人の子なら、斬られる側もまた人の子だった。それを「命のやり取り」と言うは易く、闘いの背後には決して小さくはないドラマが潜む。

 見る、視る、観る──。本書では剣や画に秀でた武蔵の孤高や洞察力に迫る上で、3つの「みる」が効果的に使い分けられている。

 例えば、人を斬る場合。相手の体軸や心の隙を一瞥にして見抜くのが「視る」力だとすれば、書画の核心をなす魂までも看破するのが「観る」力。まさに剣は画に、画は剣に通ず。その類稀なる能力を分かち得た1人が、武蔵と立ち合い後、剣を捨てて染物屋に転じた、3話の主人公・吉岡憲法だ。

 巻末の取材協力者欄には「染司よしおか」5代目当主の名があり、この憲法黒との出会いが構想に繋がったと、以前は関西で情報誌の仕事をしていた著者は言う。

「といってもメインはラーメン屋とか飲食店の取材で、実は『宇喜多の捨て嫁』でデビューした時、僕は将来を考えて就活中だったんです。憲法黒というのは発色のいい京都の水に鉄を混ぜ、あえて色を濁した茶に近い黒染のこと。再就職のためにDTPの勉強をしていた僕はそれが武蔵に唯一勝ったともされる男が作った色と知り、ぜひ吉岡憲法を書いてみたいと思ったんです」

 処女作『宇喜多の捨て嫁』がいきなり直木賞候補となるなど、目下注目の気鋭は、筒井康隆作「ジャズ大名」のような、「史実に根ざした面白い嘘」に憧れるという。

「ラーメンで言えば、歴史的事実も、現代的でアッと驚く展開も両方楽しめる、ダブルスープですね(笑い)。例えば武蔵が常に弟子を連れて試合をしていたのは文献にもある事実で、それを1対1の勝負として描くエンタメの方程式を、僕は凄い発明だと尊敬する一方、元に戻してもみたかった。そこで斬られる側に視点を移してみると、弟子といる武蔵に挑む人だって十分カッコよく見えたんです」

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