「パートのおばちゃん」の存在が新人育成に効果的な理由

NEWSポストセブン / 2018年4月23日 7時0分

 会社だけではない。家庭でも同じような「失敗」をしがちだ。ノーベル文学賞を受賞した作家、大江健三郎は著書『あいまいな日本の私』(岩波新書、1995年)のなかで、次のような体験談を述べている。

 大江が痛風で動けなくなり1週間、居間の長いすに寝そべり何もできずにいたことがあった。すると障害をもち当時子どもだった息子の光さんが、喜んでそばを駆け回り、大江のためにいろいろと役立とうとしてくれた。

 ところが大江の痛風が治ると、もとの静かな光さんに戻り、喜んで走り回ることもなくなったそうだ。それについて大江は、自分と息子の間に一時的に上下関係の逆転があったのではないかと解釈している。そして、自分は子どもを理解し、子どもの側に立って生きていこうとしてきたが、知らず知らずのうちに自分が家庭のなかで子どもより優位に立っていることがあったのではないか、と反省している。

◆自己効力感、自己有用感を得る機会が大切

 対照的なのが次の例である。かつて別々の会社で、まったく同じエピソードを耳にしたことがある。作業現場や店舗などの職場に「パートのおばちゃん」がいると、新人の離職がまったくないのだという。しかも新人が早く自立するそうだ。

 正社員ばかりの職場では、新入社員はいつも指導されたり、助けられたりするばかりだ。つまり、つねに受け身で、自分から行動したり、自分の個性を出したりする余地がない。そのため人間にとって大切な「自己効力感」(自分の能力に対する自信)や、「自己有用感」(他人の役に立っているという感覚)も得られない。すると、だんだんと仕事に行くのが嫌になり、しまいには辞めていくのだ。

 一方、そこに「パートのおばちゃん」がいると、様相が違ってくる。新入社員にとって「おばちゃん」たちは自分より年上だし、職場の人間関係も仕事のコツもよく知っている。しかし制度上は正社員の自分が上で、彼女たちに指図することもある。そこに交差的な人間関係が生まれる。

 おばちゃんたちは新人に、「店長は気分屋のところがあるから気をつけたほうがいいよ」とか、「暇な時間はちょっとくらいサボっても大丈夫だから」などとアドバイスをしてくれる。さらに、「しっかり食事をとらないと体力がもたないよ」とか、「だらしないかっこうをしていると女の子にもてないよ」などとお節介をやかれる。

 逆に新入社員のほうは、「オレ、こう見えても力はあるから重たい荷物は運んであげるわ」と手助けしたり、「おばちゃん、早く帰って子どもを迎えに行ってあげなよ」と気を遣ったりする。

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