柳家小せんと三遊亭天どん 肩に力の入らない爽やかさ

NEWSポストセブン / 2018年9月18日 16時0分

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熱演だけが良いわけではない

 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、飄々とした柳家小せんと、引きの芸風の三遊亭天どんによる、肩に力の入らない2人の会についてお届けする。

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 飄々とした語り口のサラリとした芸風で古典落語をゆるりと楽しませてくれる柳家小せん。斜に構えた「引き」の芸風でトボケた噺を聴かせてくれる三遊亭天どん。7月31日、この「肩に力の入らない」2人の会を観に神保町らくごカフェに行った。この会場では「らくごカフェに火曜会」という二ツ目の会が開かれているが、この日はそのOB会。小せんはこの9月で真打になって丸8年、天どんは丸5年だ。

 まずは天どんが『鰻の幇間』。圓丈門下の天どんは新作派と見られがちだが、実は新作と古典ほぼ同じ数のネタを持っている。『鰻の幇間』は「いかに酷い鰻屋か」に力点を置く演者が多いが、天どんの場合、可笑しさの中心はむしろ一八(幇間)のキャラそのものにある。騙されたとわかった一八が店の酷さを糾弾する場面でも、店のダメさより、語尾が上がるアクセントで投げやりに応対する女中と一八との掛け合いのバカバカしさで笑わせる。

 続いて高座に上がった小せんが演じたのは、井上新五郎正隆という落語作家の原作を小せんがアレンジした『御落胤』。江戸の長屋を舞台にした擬古典の新作で、小せんは6月にこの噺をネタ下ろししている。

『御落胤』は、大家の女房に頼まれてカラクリ仕掛けの隠し箱を開けた八五郎が「三つ葉葵の御紋」付きの短刀を発見する、という噺。短刀を持っている姿を目撃された八五郎が、大家の物であることをあえて隠し、自分が将軍の御落胤だと咄嗟に嘘をついたことで騒ぎが大きくなる。次々にいろんな人物が登場するワイワイガヤガヤの中で、暴走する糊屋の婆さんが印象的だ。

 小せんの2席目は入船亭扇橋の十八番『茄子娘』。山寺の和尚が畑で丹精込めて栽培した茄子に「大きくなったら菜にしてやるぞ」と言ったのを「妻にしてやる」と誤解した茄子の精が美女となって現われ、一夜を共にして子供ができる、という民話のような噺で、小せんの語り口によく似合っている。不邪淫戒を破った身を恥じ修業の旅に出た和尚が5年後に戻って娘と出会う場面では、山間の情景が目に浮かぶ。

 トリの天どんは『寝床』。「今日の私は芸人だ、ボエー」が口癖のヘンな旦那のどこか投げやりな感じが天どん本人に通じていて、そこがまた何とも可笑しい。この旦那がヘソを曲げ、とりなす番頭に「どうしても聴きたいのならお前が『ぜひお願いします』と言え」と意地悪な顔で強要、番頭が「心が折れる……」と苦悶する場面が傑作だ。

 猛暑の中、「熱演しない」2人の組み合わせが爽やかな一夜だった。

●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。

※週刊ポスト2018年9月21・28日号

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