「尊厳死宣言」が8か月で1000件超、急増の背景は

NEWSポストセブン / 2018年10月22日 7時0分

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「尊厳死宣言」申告マニュアル(専門家への取材をもとに作成)

「生命を維持するために、点滴で栄養や水分を送り続けると、体がだぶだぶの状態になるんです。お医者さんの中には、『溺れる』と表現する人もいるそうです。たしかに父の命はつなぎ止めましたが、果たして最善の選択だったのか……。答えは見つかりません」

 そう話す50代のAさんは、昨年、父親をがんで亡くした。病床で何本も管につながれた父の最期の姿が、今も脳裏から消えないという。

 病気や事故で回復の見込みがなくなった場合、無理に延命治療を施さず、自然な最期を迎えるのが「尊厳死」だ。文字通り、人間としての尊厳を保ったまま旅立たせるという考え方だ。

「尊厳死の基本は“望まない医療を受けない権利を守る”ことにあります」

 日本尊厳死協会関東甲信越支部理事で杉浦医院院長の杉浦敏之氏は、そう話す。

 どんな最期を迎えたいかは、それぞれの人生観によって異なる。最後まで病魔と闘い抜く考えの人もいれば、経管栄養と人工呼吸器をつないで生き続けることに抵抗感を示す人もいる。

 2025年には65歳以上の人口が全体の3割に達するといわれる。超高齢時代に、人生をどう締めくくるかは現代人にとって大きなテーマだ。そんな中、日本公証人連合会が、ある調査結果を発表した。今年1~7月に、公証役場で作成された『尊厳死宣言公正証書』(以下、尊厳死宣言)の数が、983件にのぼったという。

◆尊厳死宣言の文例は?

 そもそも、公正証書とは、法務大臣に任命された公証人が作成する文書のことだ。金銭貸借を含む各種契約や、遺言などの内容を公証人が証明することにより、法的な紛争を未然に防ぐことを目的としている。

 そこで作成される尊厳死宣言には一体どんな役割があるのか。優オフィスグループ代表で、行政書士の東優氏が解説する。

「尊厳死宣言は、終末期に延命治療を望まない意思を、公証人の前で宣言する文書です。法的な拘束力はありませんが、家族や医療機関などに対して自分の意思を表明できるものです」

 これまでも、一般財団法人である日本尊厳死協会が延命治療を望まないことを表明する「終末期医療における事前指示書(リビング・ウイル)」の普及活動を続けてきた。エンディングノートをはじめ、自分の人生の終わり方を考え、文書として残そうとする風潮も広がりつつある。

 だが、そういった文書は、あくまで“私的”なもの。“公的”な意味合いのある尊厳死宣言にまとめることで、よりはっきりと周囲に意思を伝えることができるという。

 東京都にある公証役場がホームページに公開しているオーソドックスな尊厳死宣言の文例には、

「延命治療を行なわないこと」
「苦痛を和らげる措置は最大限行なうこと」
「医療従事者の免責」
「自身の精神状態の健全性」

 といった項目が綴られている。日本公証人連合会の向井壯氏が解説する。

「確認したところ、古くは1993年に尊厳死宣言が作成された記録がありました。尊厳死という言葉の広まりとともに相談件数および作成数が増えています。それで今年、初めて統計を取りました。データ発表の翌月となる今年8月には145件作成されており、合わせて1000件を超えました。

 家族に迷惑をかけたくない、という考えの人が多いと思います。実際に身内の方を看取って、自身の最期をイメージした時に尊厳死という結論に至ることも多いようです」

※週刊ポスト2018年11月2日号

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