「萌え」を現代語に再生させたオタクの言語感覚に女性作家脱帽

NEWSポストセブン / 2012年1月28日 16時0分

「萌え」といえば「オタク特有のスラング」と思うかもしれないが、実は、1000年以上も前から日本人の生活の中に息づいてきた言葉だという。その言葉を、微妙な心の揺れを表現する現代語として、いきいきと再生させたオタクの言語感覚に、作家で五感生活研究所の山下柚実氏は脱帽する。以下は、山下氏の解説だ。

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オタク用語として知られる「萌え」。その言葉に、私は以前からなにか不思議な響きを感じとってきました。先日、その答えに、茶席で出逢ってしまったのです。

日本人は昔から刻々と移りゆく季節感をとらえて表現することが上手でした。食べ物も例外ではありません。とりわけ、色、形、ネーミングでみごとに季節を表現するのが和菓子。その繊細な美しさは、世界に誇ることのできる、まさしく日本の伝統美です。

最近は、有名パティシエたちが活躍する洋菓子・スイーツの勢いに押され気味の和菓子ですが、日本文化の再発見ブームとともに、その魅力にあらためて気付く人も増えてきたようです。

和菓子の特徴は、何といっても季節感にあります。刻々と変わっていく自然界とつながりながら、お菓子の姿・形も次々に変化する。たとえば極寒の1月、茶席に出される和菓子には「花びら餅」「寒紅梅」などがあります。

桃色の味噌餡を、ぎゅうひで包んだ「花びら餅」。練りきりを梅の花の形に仕上げ、梅の淡い紅色を模した「寒紅梅」。お菓子そのもの姿の美しさに見とれるとともに、優雅な名前の響きに、うっとりとしてしまいます。

そして、都会に雪が降り積もる今日この頃、登場してくるのが「下萌え」というお菓子。色は白と緑。白は、雪に覆われた大地を示し、緑は新芽を現す。それが暗黙の決まりです。

雪の下で春が萌え出ているということを、お菓子そのものが表現しています。まだまだ寒さが続く中、ひたすら春を待つ心が生んだ、和菓子の傑作でしょう。

この「下萌え」という名前に注目していただきたいのです。「萌え」という言葉は、1000年以上も前から「芽が出ること」「きざすこと」を現し、人々の生活の中に息づいてきました。

今、「萌え」といえば「オタク特有のスラング」と決めつけて考える人が多いようですが、いやいやどうして。心の中で何かがきざす、微妙な心の揺れ、その瞬間をとらえる感覚、願いや想いまでを含みこんだ言葉の使い方は、まさしく伝統に通じています。日本古来の繊細な感覚的表現を、正当に引き継いでいるとも言えるのです。

何といっても驚かされるのは、オタクの方々が膨大な言葉の海から「萌え」という言葉を選び出し、微妙な心の揺れを表現する現代語として、いきいきと再生させたことでしょう。

必ずしも自覚的ではなく無意識のうちに選び取ったのかもしれませんが、使い続けることで、言葉にもう一度、魂を吹き込んだ。その鋭いセンス・伝統を引き継ぐ言語感覚には脱帽です。

「萌え」という言葉の登場とともに、「オタク文化」はこの世の春を迎えたのかもしれません。



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