辻村深月、6年前に断った映画ドラえもん脚本手がけた理由

NEWSポストセブン / 2019年2月28日 11時0分

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ルナ役・広瀬アリスと脚本・辻村深月のスペシャル対談(撮影/田中智久)

 春休みの風物詩として、子供からお年寄りまで幅広い層から支持される『映画ドラえもん』シリーズ。今回その脚本を執筆したのは、直木賞作家の辻村深月さんだ。ドラえもん映画の持つ最大の魅力である「時空間を超える」設定を最大に生かし、冒険の舞台を月の世界に。月に住む子供・エスパルのルナ役を演じた広瀬アリスと今作の魅力について語った──。

 3月1日に全国公開が始まる『映画ドラえもん のび太の月面探査記』。シリーズ39作目となる今作は「月」が舞台だ。

『映画ドラえもん』は4年連続で興行収入が右肩上がり。昨年の『のび太の宝島』ではシリーズ最高興行収入記録を樹立した。近年の盛り上がりを支えているのは大人たちだ。シリーズ映画とは異なるが、特に2014年公開の映画『STAND BY ME ドラえもん』以降は、ドラえもんをいったん卒業した世代が回帰し、祖父母・親・孫の3世代で鑑賞するなどファン層も広がりを見せている。

 来年、50周年を迎える漫画『ドラえもん』の劇場映画が生まれたのは、1980年。のび太と恐竜ピー助の絆を描いた『のび太の恐竜』を皮切りに、過去から未来を自由自在に行き来し、宇宙から地底、大海原までロマンあふれるさまざまな舞台で繰り広げられる冒険スペクタクルに心を揺さぶられる。

 1997年公開の『のび太のねじ巻き都市冒険記』の執筆中に藤子・F・不二雄さんがこの世を去るが、藤子プロや映画スタッフが製作を継続し、現在に至る。

 近年注目されているのは脚本家だ。昨年は『君の名は。』を世へ送り出した東宝の映画プロデューサー・川村元気さんが手がけ、今年は辻村さんが担当している。辻村さんは幼少期から『ドラえもん』や『パーマン』など藤子・F・不二雄作品の大ファン。2005年には章のタイトルをすべてドラえもんのひみつ道具にした小説『凍りのくじら』(講談社文庫)を書いたほどだ。

 辻村さんが「ある共通点」を見つけ、“いつか会ってみたい”と楽しみにしていたのが今作にゲスト声優として参加する広瀬アリス(24才)だ。そして広瀬もまた辻村さんのファンだったという。映画ドラえもんを通じて運命的な出会いを果たした2人の対談が実現した。

◆仕事としてかかわってしまうと、好きなだけではいられない

辻村:ドラえもんは物心ついた頃から大好きで、ストーリーはもちろん、書店で父にコミックを買ってもらったり、家族や友達と映画に行ったりと、思い出がたくさん詰まった大切な作品なんです。こうして作家になってドラえもんの話をすることも夢でした。ドラえもんの素晴らしいところは、どれだけ年齢差があっても同じ熱量で愛を語れること。世代を超えて愛され、みんなの日常と結びついた存在であることが大きな魅力です。

 だからこそ、映画の脚本を引き受けることはとても悩みました。6年ほど前に、最初にお話をいただいたのですが、本当に好きで幼い頃から見ていたので、仕事としてかかわってしまうと、ただ好きなだけではいられなくなってしまうだろうな、と。それがすごく怖くて。一生ファンでいたいからとその時は辞退したんです。

広瀬:わかります! 私もドラえもんは大大大好きだけど、自分の仕事とは縁のないことだと思っていたので、お話をいただいて本当に驚いてしまって。アフレコはものすごく緊張して無我夢中だったので記憶があまりないし(苦笑)、初めてマイクの前で足がガクガク震えちゃったんです。

辻村:えぇーっ! 声を聞くとそんなふうには全然聞こえませんでしたよ。私は脚本を一度お断りしてしまった以上は一生やらないと決めていたんです。ですが、その後も藤子プロさんが私との関係を大切に育ててくださったんです。藤子・F・不二雄先生(以下、藤子先生)の奥さまやお嬢さま、アシスタントをされていたむぎわらしんたろう先生たちからお話を伺う機会を作っていただいて、「藤子先生って本当にいらしたんだ」と実感することができました。

 私は『のび太の恐竜』が公開された1980年生まれ。気づけば幼い頃からずっと当たり前のようにドラえもんの映画がありました。

 むぎわら先生は藤子先生が亡くなられてから大長編を引き継がれたのですが、当時のエピソードを聞くと壮絶なんですよね。ドラえもんを描きながら「先生の絵はこんな絵じゃない」とか「ごめんなさい。描けません」と葛藤して、「先生これでいいですか」と心の中で何度も何度も問いかけながら最後まで描かれた。ドラえもんの映画は毎年そうやって誰かが大切につないできてくれたから、自分もファンでいられたんだと思ったんです。

 6年前は自分が作家として何ができるのかと考えてお断りしてしまったけれど、そうではなく、脚本の依頼は、「次の1年へつなぐためのバトンをもらってほしい」ということなんだと考え方が変わりました。今年の映画を送り出すことがこれまでドラえもんに育ててもらった作家としての恩返しになるのではないかと、思い切ってお引き受けすることにしたんです。

広瀬:私もやっぱり幼い頃からドラえもんはずっと身近にあって、テレビアニメも毎週楽しみにしていましたし、映画も見ていました。思い返せば、友情や家族の大切さって、自然とドラえもんから学んだ気がします。

【広瀬アリス(ひろせ・ありす)】
1994年生まれ。静岡県出身。2008年映画『死にぞこないの青』で女優デビュ-。以降、連続テレビ小説『わろてんか』や映画『新宿スワンII』、『旅猫リポート』、『銃』など数々の話題作に出演。ファッション誌『with』のレギュラーモデルも務める。2020年には映画『AI崩壊』の公開が控える。

【辻村深月(つじむら・みづき)】
1980年生まれ。山梨県出身。千葉大学教育学部卒業。2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞し、デビュー。2012年『鍵のない夢を見る』で第147回直木三十五賞を受賞。2018年『かがみの孤城』で第15回本屋大賞の大賞を受賞。

※女性セブン2019年3月14日号

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