精神科医 被災者の亡くなった家族の「記念日自殺」を懸念

NEWSポストセブン / 2012年3月26日 16時0分

 人口6万弱の宮古市は死者・行方不明者あわせて600人以上の犠牲者を出した。その宮古市で昨年12月から日曜日ごとに仮設住宅を回って被災者の声に耳を傾けている精神科医がいる。

 岩手県宮古市で「たかはしメンタルクリニック」を開業する精神科医の高橋幸成氏はこう話す。

「患者さんや被災者の話を聞いて、何度も何度も涙を流しています。彼らの悲しみを『受容』しようとするのですが、悲しみが大きすぎるのです。精神科医になって30年以上経ちますが、こんなことは初めてです」

 高橋氏が12月から仮設住宅回りを始めたのには切実な理由がある。

「実は自分が診察し、薬も処方した患者さんが、10月に海で入水自殺してしまいました……」

 津波で妻を亡くし、店を流されてしまった60代の電器店店主の告白によるものだ。途方に暮れ、不眠の日々が続き、うつ症状に悩まされ、高橋氏に相談にきた。「一人で考え込まないで下さい」「頑張らないでいいですよ」……そんな話をすると、「残った倉庫を改装して店を始めたい」といった前向きな言葉が返ってきた。

「その時は、この人は立ち直れるだろうと思いました。ところが、その数日後、警察から電話があり、自殺を知りました。ショックでした。大失敗です。自殺を防ぐのが私たちの仕事なのに、それができなかったのですから。それで、二度と自殺者を出すまいと思い、仮設住宅を回って被災者の心のケアを続けることにしたのです。症状は薬で治せますが、感情を薬で癒すことはできません。溜まっている感情を少しずつ吐き出してもらうことが大切です」(高橋氏)

 全ての仮設住宅を一巡したら終わり、とは考えていない。二巡、三巡するつもりだし、隣接する大槌町、山田町の仮設住宅も回るつもりだ。

「今後気をつけなければいけないのは、震災や家族の死から1年、自分や亡くなった家族の誕生日といった区切りの時の『記念日自殺』です。急に喪失感が高まったり、妙な安堵感に包まれたりするからです」

 高橋氏は被災者のケアを5年間続けるつもりでいる。そのための移動に使う車を5年契約で借りた。

「心のケアはマラソンのように長いのです」

 高橋氏にとって復興作業はまだ始まったばかりである。

※SAPIO2012年4月4日号



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