『男と女は誤解して愛し合い理解して別れる』島地勝彦・三橋英之著
プレジデントオンライン / 2014年1月9日 16時15分
読後感のいい1冊だ。「週刊プレイボーイ」の名物編集長として名を馳せた著者が、かつて自分が担当した柴田錬三郎、今東光、開高健が憑依したかの勢いで吠えまくる。語り口はとことん直截で、何を根拠にと突っ込みたくなるような個所もあるが、妙な説得力で押し切った。
本来、人生相談ほどいい加減なものはないと思う。学生に何か助言した後、今のでよかったのだろうかと自問してしまう小心者の私にとって、短い質問文やちょっとしたインタビューだけで、「ああしなさい、こうしなさい」と断言できる神経がどうにもわからない。
本書が抵抗なく読めたのは、相談者が(例外もあるが)あまり切羽詰まっておらず、むしろ回答者・島地勝彦とのやり取りをただ楽しんでいる風情があるからだ。「シマジ」なら何て答えるだろう? 相談というよりもお題を出す感じである。
上司からの評価の低さを嘆く相談者には、こんな回答。
「才能や努力が評価されない。人生はそういう恐ろしい冗談に満ち溢れている。だが、こればっかりは仕方ないと思うしかないね。正しいことが報われない。だから『神も仏もない』と恨むのではなく、恐ろしい冗談のような世界だけど、神様は俺のことを見守っていると感謝して、自分を律して前向きに生きることが大切だ。『1人の時間を慎む』というやつだよ。他者ではなく、自分あるいは神様が評価する時間こそ大切にしなければならない」
……今のは意図的に教訓的な回答を取り上げた。書名からもわかるように、相談内容の8割方は男女関係がテーマで、いわゆる下ネタも多い。「40代でぶり返した性欲をどう処理したら良いか」という問いには、「朝立ちしない奴には金を貸すな」という明治時代の俚諺を引いて、相談者の精力をまずは称賛。そして、「その気持ちを明るく元気にカミングアウトすれば、いつか興味を持ってくれる女性が現れるはずだ」と結んだ。おおむねこんな感じなので、何か役に立つ情報を求めて本書を読むとガッカリするだろう。シングルモルトへの傾倒、パンツや靴へのこだわり。興味のない人にはどうでもいいような話も多い。伊集院静氏に「作家の血を全部吸い取ったドラキュラ」と評された怪人物、最後の無頼の咆哮をただ面白がり、楽しむのが正しい読み方だと思う。
ところで、本書では「ミツハシ」なる話の聞き手が重要な役割を果たしている。元になるウェブでの連載を編集したのもこの人物だ。脱線するシマジを上手に制御し、時に話題を変え、要所では異論もはさむ。そこがまた掛け合い漫才のような面白さを演出している。実際は超気くばりの人であることが透けて見える島地勝彦は、あえて暴走老人を演じ、調整役をこのミツハシに託した。約20歳年下の三橋英之(前「日経レストラン」編集長)に、かつての自分の姿を見ているのかもしれない。
(東京工芸大学教授 大島 武)
この記事に関連するニュース
-
なぜ一流の経営者は神社に行くのか…パナソニック創業者・松下幸之助が熱心に祈っていた"2つのこと"
プレジデントオンライン / 2024年4月15日 9時15分
-
漫画家・冬野梅子さん「ゴールに辿り着けるわけではないけれど、迷路の中にいることを気付かせてくれる漫画が好き」 | TVプロデューサー小山テリハの漫画交感 #2
Hanako.tokyo / 2024年4月8日 18時0分
-
世界各地に存在する「男女に区別されない性」が当たり前にある民族
PHPオンライン衆知 / 2024年4月1日 11時50分
-
【漫画】引っ越してきた隣人の不審な行動に恐怖…家族を守りたい主婦 驚きの真相とは?【作者インタビュー】
マグミクス / 2024年3月31日 20時50分
-
高学歴の新入社員ほど“繊細”なのはなぜか? 「怒られ慣れていないので自分の過失を認めなかったり、逆に攻撃的になったりする」
集英社オンライン / 2024年3月28日 11時0分
ランキング
-
1リッチモンド、顧客満足度1位に「なっちゃう」神髄 目指さずとも…要因は"委ねる"から生まれる主体性
東洋経済オンライン / 2024年4月23日 10時30分
-
2新Vポイント「残高確認できず」 サービス開始初日、運営会社陳謝
共同通信 / 2024年4月22日 23時28分
-
3「会社の飲み会」を避ける人は大損している…飲み会は無駄という若手が知らない"お値段以上のリターン"
プレジデントオンライン / 2024年4月23日 6時0分
-
4常識覆す「豪華すぎるマイクロバス」が登場!座席は「ほぼ全て窓側」特別仕様
乗りものニュース / 2024年4月23日 9時42分
-
5今から家買う人は知らないとマズい「耐震」の真実 過去の大地震の被害データを分析してわかること
東洋経済オンライン / 2024年4月23日 13時0分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください