ニート株式会社のその後 ~「まとまらない組織」から学ぶ民主主義
プレジデントオンライン / 2014年8月22日 15時15分
■9時間に及ぶ株主総会
昨年11月に設立したNEET(ニート)株式会社では、ニートが1時間1000円で一緒に遊ぶ「レンタルニート」が話題になるなど、収益性は限りなく低いながらも、少しずつ独自の動きが出始めてきました。その裏で、組織のあり方を巡っては日々喧嘩や衝突を繰り返し、まさに荒野を耕すような試行錯誤が続きました。大げさに言えば、文明の創世記であり、戦国の時代。去る6月末には、設立からの半年を省みながら、今後の会社のあり方を考えるべく、臨時株主総会を開催しました。
NEET株式会社は、全員がニートで取締役という実験的な会社です(詳しくはインタビュー記事 http://president.jp/articles/-/12263 を参照)。株主総会には、取締役160人超のうち首都圏近郊に住むメンバーを中心に約50人が集まり、残りのメンバーはインターネットから動画中継を見てチャット参加というスタイルです。事前に提案された議題は、報酬の支払い方法や代議制の導入についてなど7つ。各議題に1時間、休憩1時間、予備時間1時間……、総会には計9時間を想定しました。
なぜこれほどの時間が必要なのか。論理的に議論すれば済むというものではないのが、彼らの面白いところであり、面倒くさいところ……。合理性や妥当性以上に、十分な情報共有や多角的な議論、そして何よりもみんなの「納得感」が必要です。そもそもこの会社は、集まった若者たちの「疑問」や「違和感」から出発しているのです。どんな細部であれ、ちゃんと納得できなければ、何時間でもグルグルと議論をやり直す。決まりかけたこともひっくり返す。まぁこれでは、世の中をうまく渡っていけるわけがありません……。不器用なほどに素直すぎる。だからこそ、世の中からはみ出した少数派の存在になるわけです。
案の上、すべての議題を決議するのに予備も含めた9時間をすべて使い果たし、なんとか会場を撤収できました。とりわけ時間を要したのが、「代議制を導入するかどうか」についての議論。これ一つの議論に要した時間は、実に約3時間でした。
■民主主義の「原始的プロセス」
代議制の導入が検討されるようになったのには、次のような経緯がありました。この会社は全員が取締役であり、さらに全員が平等に株を持つため、全員に等しく発言権や議決権があります。これはつまり、組織を統治できる機能が“全員参加”の直接民主制しかないということであり、事実上の「まとまらない組織」です。これは、一般的な組織ルールやヒエラルキーを一度撤廃して全部リセットしたところから始めてみたい、という思いから、あえて実験的に行ったことです。
僕自身にも、そして彼らにも、「自分の知らないところで枠組みが議論され決定されているという構造は嫌だ」という強いアンチテーゼがあったのだと思います。小さなことでも、当事者として関わりあっていたい。非常に非合理で、ある意味破壊的だと分かりつつも、まずは全てオープンで対等だという条件からスタートしてみたのです。
実際に直接民主制で物事を決めて進めていこうとするのは、めちゃくちゃに大変です。経験や価値観の全く違う若者同士、意見はバラバラだし、合意のポイントも人によって様々。日常的な会社業務を進めていくのは、現実的にほぼ不可能な状態です。しかし、いくつか仕事が形になってきたり、外部との連携などによってこれから会社の活動を活発にしていこうとしたりしている時に、会社としての意志決定がすぐにできず、衝突を繰り返しているのは、そろそろマズイ……という声もあがるようになってきたのです。
そこでメンバーへのヒアリングなどを重ねた結果、信任・信頼を得たメンバーによる間接民主的な代議機関を設置してはどうかと、僕から提案してみることになりました。この提案に興味があるメンバーで2カ月の準備期間を設け、どのような形態がいいのかを話し合い、いくつかのモデル案を出して、株主総会当日3時間に渡る議論の末、彼らはそれなりに納得したうえで6人の信任選出メンバーによる執行部を設け、試験的に運用していくことに決まったのです。
だったら、なぜ初めから代議制を導入しなかったのか、と思うかもしれません。小学校のクラスでさえ学級委員やクラス委員会なるものが存在し、委員による代議制を採用しているではないか。価値観の違う多数のメンバーが一斉に議論すればまとまるものもまとまらないのは、分かり切ったことではないか……、と。
でも僕たちには、この「原始的プロセス」が必要でした。心をすり減らすような体験や遠回りな議論があったからこそ、選出メンバーに求める役割や期待が明確になり、その他のメンバーに求められる態度や関わり方なども、それなりの納得感をもって会社全体で共有されるようになってきました。これは大げさに言えば、まさに近代において民主主義が発展してきた過程そのものだったのだと思います。
「民主主義」という言葉を調べてみると、「国家など集団の意思決定権をその構成者が個々に有し、その構成者の合意に基づいて執り行われる体制のことである」とあります。その歴史は、メンバー全員が意思決定し合意する、ということから、まずは全員が等しく意見し参加する直接民主制を理想として試行錯誤しながらも、意思決定や執行の効率を高め、次第に間接民主制などを効果的に採用することで、体系的に発展してきたようです。
大事なのは、その結果にたどり着くまでの「試行錯誤」の段階になにがあったのか、ということだと思います。当然、妥協したり淘汰されたりするものもたくさんあったわけです。その過程をなにも知らずして、体験せずして間接的な権利を与えられても、「民主的制度の構成者の1人」になどなれるわけがありません。当事者として主体的に関わる、なんていうのは、それくらい難しいことだと思うのです。
■1割の「新しい何か」を求め、破壊する
僕たちは、例えば間接民主制や、貨幣制度、社会保障制度など、様々な社会の仕組みを「当たり前」のものとして受け入れていますが、その成り立ちや意義を十分に理解している人はどれだけいるのでしょうか。大事なことは、分からないなりに右往左往しながらも、自分たちで時間をかけて試行錯誤し、一つひとつ納得するというプロセスを体験することなのではないでしょうか。それがあれば、社会の仕組みや体制に対してただ不満だけを垂れるようなことも減るはずです。そして自分たちなりに悩み、考え、納得できるようになれば、その環境や制度を自分たちのものとして楽しむことができるようになり、当事者として深くコミットすることもできるようになるはずです。
価値観が交錯し環境が激しく変化する現代社会、時にはゼロから自分で考えなおし、枠組みに縛られることなく柔軟に対応しなければなりません。安易な結論や目先の安定よりも、絶え間ない変化や広がりのプロセスを楽しめる、ゆるさとしなやかさが必要です。そのためには、不格好でも、砂場の城は自分たちでゼロからつくらないと意味がない。この実験的会社に集まったメンバーたちともがきながら、学びました。
このような試行錯誤の過程を見て、「結局は社会一般の会社組織と同じようなものに落ち着くのでは?」と言う人もいます。直接民主制から始めてみたけれど、代議制を採用してみるようになった、というのもその一例でしょう。もしかすると、僕たちがたどり着く結論の9割近くは、既存のものとそう変わらないかもしれません。
そもそも、すべてが新しければいいということでもありません。ただし、残りの1割くらいは、その試行錯誤を経てこれまでには全くなかった「新しい何か」が生まれるはずです。それが何かはまだ見えていません。事前には見えないからこそ、やってみなければ、どのタイミングでどこから生まれてくるかも絶対に分かりません。一見ムダなようでも一度全てを破壊的にリセットし、みんなと時間をかけてゼロからつくりなおしてみようという気持ちに、迷いはありません。
(慶應義塾大学特任准教授/NewYouth代表取締役 若新 雄純)
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