健康保険制度見直しがさらけ出した「アベノミクス」の正念場
プレジデントオンライン / 2014年11月17日 16時15分
■保険料アップで手取り収入が減る
デフレ経済脱却を最優先の政策課題に据える安倍晋三政権下で、会社員などの手取り収入が目減りしかねない、デフレ脱却の方向と“真逆”な医療制度の見直しが進みつつある。
厚生労働省が来年1月開会の通常国会に提出を目指す法案に、財政難に陥っている国民健康保険(国保)の高齢者医療負担を、大企業の社員が加入する健康保険組合などによる肩代わり分を一段と重くする仕組みを盛り込もうとしているからだ。健保組合の負担増は保険料率上昇を招き、会社員の手取り収入減にもつながる。
異例の政治介入で民間企業に賃上げを迫り、「経済の好循環」の実現を目指す「アベノミクス」に相矛盾する点は否めず、「自民党一強」下での安部政権に擦り寄る経済界さえもさすがに反発を強めている。
厚労省が社会保障審議会(厚労相の諮問機関)に提案した見直し案は、健保組合に加え、公務員が加入する共済組合に対して、社員、職員ら組合員の月収に応じて国保の75歳以上の後期高齢者分の仕送り金を分担する「全面総報酬割」の導入が最大の特徴だ。
社員の月収が高い大企業の健保組合ほど負担は増し、労使折半の保険料は上昇しかねない。厚労省はその上、前期高齢者(65~74歳)の加入比率が低い健保組合ほど国保への仕送りを増やす新たな仕組みの導入も目指している。厚労省としては、健保組合と共済組合のほか、同じく高齢者支援金を負担している中小企業が加入する全国健康保険協会(協会けんぽ)の負担額を今回の見直しで減らし、その分を国保の赤字の穴埋めに転用する腹づもりだ。
■健保組合の8割が赤字に陥っている
しかし、全国に約1400を数える健保組合の現状は、単年度の財政収支で全体の8割が赤字に陥っている。さらに保険料率で協会けんぽの10%の水準を既に上回る健保組合も100を超えるなど、その多くがすでに財政難に窮している。さらなる負担増は、健保組合に保険料率を引き上げるか、解散して協会けんぽに鞍替えるかを迫りかねない。
安倍政権は、デフレ脱却を目指す上で、今年の春闘で企業に賃上げを迫る異例の政治介入に踏み切り、大企業を中心にベースアップ(ベア)を含む賃上げにつなげた。さらに、この10月に再開した政府による政労使会議でも、安倍首相自ら来春闘での賃上げを再び経営者側に迫ったばかりだ。これには、今年の春闘での賃上げが4月の消費増税で帳消しとなるなか、再度の政治介入で賃上げにつなげ、「経済の好循環」をなんとしても実現させたい安倍政権の強い意向が透けてくる。
しかし、今回の健保制度見直しにより保険料の引き上げが避けられなければ、企業の負担は増え、会社員らの手取り収入も目減りする元の木阿弥となり、経済の好循環の実現は遠のいてしまう。この事態には経済界もさすがに反発を強め、経団連など経済三団体が足並みをそろえ、10月23日に「社会保険料の増加で、安倍政権が目指す経済の好循環が頓挫しかねない」との提言をまとめ、反対を表明したほどだ。
高齢者医療をめぐっては、これまでもほころびを繕うだけで、抜本見直しが見送られてきた。今回の厚労省案にしても、健保組合に加入していない後期高齢者を健保組合などが肩代わりする付け焼き刃の域は出ておらず、保険料を負担する現役世代にとって納得できない仕組みとなっている。確かなことは、12月に迫る来年10月に予定される消費税率再引き上げの決断ともども国民の痛みを伴う点であり、まさに経済の好循環の実現を目指す安倍政権の真価が問われる正念場だ。
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