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なぜディズニーにはサービスマニュアルがないのか?

プレジデントオンライン / 2014年12月3日 11時15分

『ディズニーを知ってディズニーを超える顧客満足入門』鎌田洋著(プレジデント社)

マニュアル対応からは顧客を感動させるサービスは生まれない。ディズニーの“感動サービス”はどのようにして生まれるのか――。

■感動サービスを生む情報共有の仕組み

いかに顧客に感動をもたらすか。この問題を考えるとき、大いに役立つのが「情報」です。たとえば顧客から何かリクエストがあったとき、「どうすればリクエストに応えられるか」(ノウハウ)、「似たようなケースは他にあったか」(事例)、「このお客様とは、これまでどのような関係だったのか」(履歴)といった情報があると、ゼロベースで考えるより最適な答えにたどりつきやすくなります。

おそらくどの企業でも、ノウハウや事例、履歴といった情報は蓄積しているはずです。ただ、情報が組織的に管理されておらず、現場のキーマンが一手に握っている企業が少なくありません。「あの件についてはAさんがすべて知っている」というように、特定の人が情報を握りこんでしまうのです。

Aさんはオープンな人だから大丈夫、という考えは危険です。Aさんに情報を独り占めするつもりがなくても、病気で突然入院したり、他社に転職してしまったらどうなるでしょうか。Aさんが握っていた情報はそのまま消えてなくなり、活用できなくなるおそれがあります。

情報をCS向上につなげるには、情報を組織的に管理して、従業員が気軽にアクセスできる仕組みを整える必要があります。具体的にいうと、現場に溜まったノウハウはマニュアルに落とし込む、過去の事例は事例集としてまとめる、顧客情報はデータベースをつくるといった対応が必要です。こうした仕組みが用意されていてこそ、現場は情報を使いこなすことができます。

また、自社の想いを一つの情報として見なすと、想いを共有するための仕組みも情報の仕組みと考えられます。たとえば社内メールで経営者がメッセージを送ったり、社内報の職場紹介で従業員が想いを語ったりするのも、情報の仕組みの一つといえるでしょう。

■感動を生むサービスの極意とは

情報に関する仕組みの中でもとくに重視したいのは、事例を共有する仕組みです。マニュアルを整備している企業は多いですが、事例を共有する仕組みを持っている企業は案外少ないものです。私はその差がCS優良企業とそうでない企業の分かれ目になると考えています。ちなみにディズニーには作業手順書としてのマニュアルはありますが、サービスのマニュアルは存在しません。

なぜサービスのマニュアルが存在しないのか。それは、マニュアル対応からは顧客を感動させるサービスが生まれないからです。

ディズニーランドには、毎年約3000万人のゲストがやってきます。3000万人いれば、その数だけ感情も存在しています。それを無視して一律でサービスを提供しようとすると、ゲストの感情とズレが生じて、感動を生むどころか不満足につながります。

「家族連れのお客様には、こう対応する」、「カップルには、あのサービスを」というようにマニュアルをきめ細かく決めていけば、顧客の感情に多少は対応できるかもしれません。しかし、それでも限界はあります。実際に現場に立てばわかりますが、顧客の感情は、いくつかのパターンに類型化できるほど単純なものではありません。

たとえばひとくちにカップルといっても、2人の関係にはさまざまな違いがあります。初デートなのか、つきあってから長いのか、普通のデートなのか、喧嘩中で仲直りのためにやってきたのか、それとも何かの記念日なのか。そうした違いを無視して、「カップルだから写真を撮ってあげると喜ばれるはず」とマニュアル的な対応をすると、そっとしておいてほしかったカップルは「余計なことをして」と不満を感じるでしょう。

サービスは想像力です。目の前のお客様はいまどのような状況にいて、無意識のレベルも含めて何を求めているのか。一人一人違うニーズに想像をめぐらせて、その都度、最適と考えられるものを提供していく。それが感動を生むサービスの極意です。

では、一人一人違う感情を想像するには、どうすればいいのか。そこで役に立つのが過去の事例です。目の前の状況とまったく同じではないものの、「以前、似た状況でこうしたら喜ばれた」、「前に似た状況だったときは、女性ゲストのほうが積極的に関心を示してくれた」などの事例があれば、今回の状況にもっともふさわしいサービスを推測する助けになります。

■事例共有で「暗黙知」を豊かにする

なぜ事例が有効なのか、もう少し説明しましょう。目の前の顧客に想像をめぐらすときに必要なのは、マニュアル的な「形式知」ではなく、勘や直観としてあらわれる「暗黙知」です。暗黙知は、論理的に説明するのは難しいが、これまでの経験からなんとなくそう思える知識をいいます。言葉でうまく説明できなくても、相手の微妙な表情や口調、全体の雰囲気から感情が読み取れることがありますが、このときは自分の中の暗黙知に照らして判断しています。つまり暗黙知が豊かな人ほど、多種多様な顧客の感情に対して直観が働くといえます。

では、どうすれば暗黙知を豊かにできるのでしょうか。暗黙知を磨くには、経験を積み重ねることが一番です。ただ、一人が経験できる量はたかが知れています。そこで過去の事例を通して他人の経験を自分のものにして、暗黙知を厚くしていくわけです。

事例を共有するための具体的な仕組みとしては、事例集を作成して配ったり、顧客からの手紙などを回覧させる仕組みが考えられます。ディズニーではゲストリレーションという専門部署が、ゲストから届いた手紙をすべてファイリングしています。そこから参考になりそうなものをユニバーシティ(教育部門)が選んで、社内報に掲載します。それを見て現場のキャストは、「同じようなことを私もできないだろうか」と考え、実際のサービスに活かしていきます。

今回は事例の大切さを強調しましたが、誤解がないようにつけくわえておくと、私はマニュアルを否定しているわけではありません。ディズニーにもオペレーションに関するマニュアルがあり、たとえば掃除はどこからどうやるのかという手順が細かく決められています。掃除の手順は、マニュアルで伝えたほうがわかりやすい。ヘタに事例で伝えようとすれば、最低限やらなくてはいけないところが曖昧になって、清掃のクオリティを保てなくなるおそれがあります。

事例集は最高のサービスを目指すための情報ツールであるなら、マニュアルは最低限のレベルをクリアするための情報ツールといえます。両方の特徴をよく理解して、サービス向上に役立ててください。

(ヴィジョナリー・ジャパン社長 鎌田 洋)

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