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「20年読み継がれる」入門書【経営・経済】

プレジデントオンライン / 2015年1月10日 14時15分

一橋大学大学院教授 楠木 建氏 ●1964年、東京都生まれ。一橋大学商学部助教授、同イノベーション研究センター助教授などを経て、2010年より現職。著書に『ストーリーとしての競争戦略』など。

仕事の専門分野でなくても、一流のビジネスマンになるために学んでおきたいことがある。各界の第一人者たちが長く読み継がれる入門書を厳選してくれた。

■スキルと違って自ら磨くしかない経営センス

経営を勉強するといっても間口は広い。実は「経営学」という言葉に対応する英語はない。しいていうなら、「Manage ment Studies」という複数形になる。経済活動から会計、マーケティング、人材マネジメントなど、幅広い領域にまたがって勉強しなくてはならないからだ。

企業の各部門の担当者を念頭に置けば、日常の仕事に生かせる実務的な専門スキルの習得がまずは大切だ。個別分野のスキル一つひとつを足し算していくことで、経営知識を獲得できる。その意味で『はじめての経営学』は、経営分野を一通り俯瞰することができる好著といえよう。

しかし、スキルをマスターしたからといって、優れた経営者になれるわけではない。経営は個別専門分野のスキルの足し算だけでは対処できない。自然科学であれば「こうすれば、こうなる」という普遍の法則があるが、経営に「絶対」はありえない。経営の現場ではスキルよりもセンスがものをいう。

そのセンスはスキルと違って自ら磨いていくしかない。それには経営センスに富んだものに触れることが最も大切だ。可能なら名経営者の“鞄持ち”をするのが一番なのだが、そんな機会はまずない。

そこで最も効果的で、コストパフォーマンスもいいのが読書。拙著の『戦略読書日記』では、これまで私が読んできた本のなかで経営センスを磨くのに役立ったものを厳選した。

次に紹介する3冊も、そこから取り上げたものである。

まず『プロフェッショナルマネジャー』。著者のハロルド・ジェニーンはすでに故人で、登場するITTという会社も今はこの世に存在しない。しかし、この本ほど「経営者とはこういうものだ!」ということを、まとめて記述したものはないだろう。経営は終わりから始めて、そこに到達するためにできる限りのことをするものである――など、経営の本質を淡々と語ってくれる。『「日本の経営」を創る』で経営学者の伊丹敬之氏と対談を行っている現役経営者の三枝匡氏は、経営者を育てることが経営者の最大の仕事と考え、部品商社のミスミの会長としてそれを実行している。

とはいえ、実際には「経営者は育てられない」というジレンマが存在する。そこで三枝氏は「直接的には育てられないが、育つ土壌は耕すことができる」と発想を転換させ、個々のビジネス・ユニットの経営を幹部社員に任せることで、経営者を育てる土壌づくりを行っている。そうした自身の考えを教えてくれる。『直球勝負の会社』の著者の出口治明氏は、経営者であり起業家。読み進むうちに、愚直なまでに自分の理想の実現に突き進む姿が浮き彫りになる。ITベンチャー経営者がもてはやされ、ロックスターのような経営者に憧れる若者は、出口氏の本を読んで、企業という仕事がいかに骨太の哲学とそれに裏打ちされた構えを必要とするかを学んでほしい。

■経営・経済――経営者の頭に一歩近づく厳選の書

■生き生きとした職場を再生

『「日本の経営」を創る』
  三枝匡、伊丹敬之/日本経済新聞出版社

かつて日本的経営は米国からも絶賛された。しかし、1990年代になると立場は逆転。日本企業は米国流マネジメントへ舵を切る。そして、今も混迷のトンネルを抜け出してはいない。米国流でもなく、旧来の日本流でもない、独自の新しい「日本的経営」の構築が求められている。企業の現場で、事業再生や人材育成に携わってきた三枝氏と長年にわたり経営の本質を追究してきた伊丹氏は「今が好機」だという。2人は、社員が目を輝かせながら、生き生きと仕事に取り組む独自の経営スタイルを編み出せと語りかける。

■必修分野のビジネススクール

『はじめての経営学』
  野中郁次郎ほか/東洋経済新報社

経営戦略や組織論、マーケティングなど経営学の主要9分野について日本を代表する経営学者が、わかりやすく解説。文字通り「誌上ビジネススクール」で、各ジャンルの基本的な考え方からトピックまで、ビジネスの実務との関連に触れながら初心者に理解を促す。各節の終わりに、読者のための必読書ガイドブックが数冊ずつ紹介されているのもありがたい。

■カリスマ経営者の金言集

『プロフェッショナルマネジャー』
  ハロルド・ジェニーン、アルヴィン・モスコー、田中融二(訳)/プレジデント社

30年近く前の本だが、内容は古びていない。著者は、かつての巨大コングロマリットだった米国ITTの最高経営責任者として、58四半期連続増益を達成した実績を持ち、「経営はまず結論ありき」と説く。現実的な目標を定めることでゴールがはっきりする。そこへ行き着くためにできる限りのことを行う。そうしたカリスマ経営者の金言が随所に盛り込まれている。

■経営・戦略の本質を探究

『戦略読書日記』
  楠木建/プレジデント社

江戸時代の大ベストセラー『日本永代蔵』から米国の経営者の自伝、本格的学術書まで、幅広いジャンルをカバー。だが、書評や読書法の本ではなく、著者が経営や戦略の本質を探究するために、本と対話し続けた軌跡が述べられていて読者の興味を刺激する。巻末には「僕の読書スタイル」と題するロング・インタビューも収録され、読書とは何かが理解できる。

■創業者が掲げる崇高な理想

『直球勝負の会社』
  出口治明/ダイヤモンド社

世界一生命保険料が高いといわれる日本。そこに風穴を開けようとしたのがライフネット生命だ。大手生保を退職後、60歳で日本初のベンチャー生保を起業した著者の出口氏は、何を考え、いかに行動したか。創業ビジョンに、(1)保険料を半額にする、(2)不払いをゼロに、(3)他社比較可能を掲げた。「自分に正直に理想の保険会社を目指したら、こうなった」という。

(一橋大学大学院 国際企業戦略研究科教授 楠木 建 岡村繁雄=構成 澁谷高晴、早川智哉(本)=撮影)

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