「教育虐待」を生む「親子共依存」にご用心!
プレジデントオンライン / 2015年9月6日 10時15分
■「生きづらさ」を生きる「アダルト・チルドレン」
教育熱心過ぎる親がつい子供を厳しく叱りすぎてしまったり、過度な期待を背負わせてしまったりということならよくある話。そのような場合、親の心がけ次第で、状況を変えていくことはできる。しかし「教育虐待」には一筋縄ではいかないケースもある。親が育った家庭環境に起因する、家族の機能不全が、根本に潜んでいる場合だ。
近著『追いつめる親 「あなたのため」は呪いの言葉』の中では、幼いころから母親による教育虐待を受け、大人になっても母親の支配から抜け出せず、27歳になってから自殺してしまった凜さん(仮名)という女性のケースを紹介している。凜さんの母親であるたえ子さん(仮名)の結婚以前の背景を聞くと、情緒的に安定した家庭に育ったわけではなかった。
たえ子さんは3人姉妹の長女だった。父親はいなかった。たえ子さんの母親は新興宗教にはまってしまい、子供を家に置いたまま1週間帰らないこともよくあった。幼いたえ子さんは、自分も子供なのに母親の代わりを担わなければならなかった。アルコール依存症などの母親に育てられた子供と同じだ。わがままを言ってみたり甘えてみたりという、子供としての本能が抑圧される。
依存的な親から依存されることに慣れてしまい、自らも「依存されている立場に依存」するようになる。依存してもらえないと不安になるのだ。このような人間関係を心理学用語では「共依存」と呼ぶ。そうして育った子供は俗に「アダルト・チルドレン」と呼ばれる。周りからは「いい子ね」と言われるが、心の中にはいつも得体の知れない「生きづらさ」を抱えている。たえ子さんはアダルト・チルドレンだった可能性が高い。
■教育虐待の構造はアルコール依存症やDVと同根
アダルト・チルドレンは、一見しっかりしているようで、中身はもろい。常に何かに依存しようとする。それがアルコールであったりギャンブルであったりする。子供ができれば、子供に依存してしまう場合も多い。そうして子供もまたアダルト・チルドレンになる。
アダルト・チルドレンが親になり、子供と共依存関係に陥った結果が「教育虐待」であるケースも多いのだ。とくに死に至るような壮絶なケースに多い。
教育虐待に限らず、児童虐待、ドメスティック・バイオレンス、モラル・ハラスメント、アルコール依存症、ギャンブル依存症、セックス依存症などは、こういった構造の中で生じている可能性が高い。
たとえばアルコール依存症でドメスティック・バイオレンスも行う夫を持つ妻は、一般には被害者であると思われる。しかし心理学的には、妻もまた夫をアルコール漬けにする「共依存」関係にあるととらえることができる。
体を壊したり社会不適応を起こしたりするほどにアルコールを摂取しているのであれば、どんな手段を使ってでもアルコールを断つのが本当の支援である。しかしアルコールがなくて暴れている夫を見ていると、「これで最後ですよ」と言ってアルコールを渡してしまう。
これが夫をアルコール依存症のままでいさせてしまう。そうすることで、無意識のうちに、「ダメな夫を支える妻」という立場を確保しようとするのだ。手に負えないのであれば、専門の機関に頼るなどするしかない。それなのに、それはかわいそうだからとなんとか自分で面倒を見ようとするその姿勢が結果的に、夫から「立ち直る機会」を奪ってしまっていることになるのだ。
■いつまでも自分を必要としてほしい親のエゴ
同様に、「まったくダメな子ね」「どうしてあなたはそうなのかしら……」などと、子供の人格を否定する表現を頻繁に口にする母親は、無意識のうちに「あなたには私が必要なの」というメッセージを子供に刷り込んでいる。いつまでも自分を必要としてほしいという親としてのエゴが、子供を萎縮させ、自立を阻む。まったく無意識のうちに、子供が無力であることを願い、自分の力のおよぶ範囲から抜け出すのを阻止しようとしているのだ。その一つの手段として、教育虐待が行われているケースも多いのではないかと推測できる。
子供もそれに不適切な形で答える。無意識のうちに、いつまでも親がいないと何もできない子供を演じ続ける。
「子供は未熟。判断力が不足している。だから、親が決める」「将来のために、今多少辛くても、無理をさせるべき」「あなたのためを思って、私は今、鬼になっている」。親たちは、子を思うがゆえ、本気でそう思う。しかしそれが子供の心に数十年経っても消えない傷を残す。まるで呪いのように、いつまでも人生を支配する。
そうならないためには、親は、子供の人生を支えることだけに依存せず、自分の道を自分で選ぶような生き方を実践することだ。何事も人のせいにはしない、自由な人生を歩んでいなければいけない。そうすることで、「自分の道を自分で選ぶ生き方」の手本を示すことができる。それが親にできる最高の教育であると私は思う。
(教育ジャーナリスト おおた としまさ)
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