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王者アサヒ、「ピンク缶」で狙うはビール市場活性化

プレジデントオンライン / 2015年8月11日 10時15分

サントリー猛追、キリン復活で熱戦へ!(PIXTA=写真)

今、ビール4強の戦いが熱い。2015年上半期のビール系飲料(ビール、発泡酒、新ジャンル)の課税出荷数は3年連続減で、過去最低。だが、各社はシェアアップを誓い、熾烈なパイの奪い合いは激化するばかりだ。

昨年まで5年連続でシェアを落とし、昨年は独り負けしたキリンが15年上半期は販売数量を前年同期比2.2%アップ、大手4社で唯一の増加。逆襲の幕開けだ。10年にキリンからトップの座を奪取して以来、王者の地位を守るはアサヒ。今年は「1年中売れる仕掛け」を繰り出した。

5年連続でシェアを上げ続ける唯一の会社がサントリーだ。サッポロはシェア苦戦も、伸びる機能系市場で世界初の商品を連発した。

ビール、新ジャンル市場が縮小する中、発泡酒は販売数量が12.4%増、その理由も機能系商品だ。サッポロとキリンがプリン体・糖質ゼロ商品で白熱、特許を巡りサントリーがアサヒを提訴、伸びる市場でも4強が激突中だ。

すっかり王者が定位置となった王者アサヒの見つめるその先は、業界全体の活性化だ。

■なぜ金魚すくいは楽しいのか

今年の春、ビール売り場で異変が起こった。1987年の誕生以来、メタリックと黒を基調にしてきたスーパードライがピンク色になっていた。桜をあしらった春限定のデザイン缶だ。一歩間違えればブランドイメージを毀損する恐れもあったが、アサヒビール小路明善社長は挑戦の理由をこう語る。

「私が最初にピンクの缶を提案したとき、社内でも反応は冷たいものでした。しかし、ブランドは大事に取っておくだけではだめで、活用して初めて価値が上がる。実践を重ねて成長するという点では人もブランドも同じです」

アサヒビール社長
小路明善
(こうじ・あきよし)
1975年、青山学院大学卒業後、アサヒビール入社。アサヒ飲料専務取締役企画本部長などを経て、2011年7月から現職。同年からアサヒグループHD取締役も兼ねる。

1年近い準備期間を経て世に出した限定発売のピンク缶は計画の倍となる60万ケース超が売れた。小路社長は、成功要因を「コト消費」にフォーカスしたことだと分析する。

「去年、ハロウィンの市場規模がバレンタインを超えました。催事やパーティーを最大限楽しもうという志向が日本に広まりつつあります」

そこで重要なのが、いかにして付加価値を感じてもらうか。年度で最初のイベントは花見。買い出しでスーパーに向かった若い男女に、「これが買いたい」と思わせるようなワクワク感をいかにして演出するか。その答えがピンク缶だったのだ。

営業統括本部量販統括部の小林大輔次長はコト消費の極意をこう説明する。「ペットショップで金魚を買いたいと思わない人でも、夏祭りの金魚すくいは楽しいからやりたくなる」。

小売店の反応はどうだったのか。量販統括部の鳥沢杏子副課長は「最初はギョッとされた」と話す。しかし、動揺は一瞬だった。ピンクのスーパードライが売り場にあることで、酒類全体の注目度がアップした。

「ナンバーワンブランドであるスーパードライには、流通のほうからも市場を活性化してほしいという期待がかけられています」(鳥沢氏)

コト消費に目をつけたアサヒ。現在取り組んでいるのは、発泡酒、新ジャンル、その他の酒類も含めて、カテゴリーを横断して同じテーマで訴求すること。それぞれのメッセージがバラバラになりがちだったテレビCM、SNS、店頭でのディスプレーにも、より一貫性を持たせ、訴求力をさらに高める。今夏におけるテーマは「花火」だ。6缶パッケージの包装も花火で彩り、具体性を持った季節提案を仕掛ける。

■業界の問題点は夏場依存

宮城県内で30店舗を運営するウジエスーパー。ピンク缶発売週にはアサヒのビール類売り上げを前年比16.5%アップさせた。中里店を覗いてみると、その一角は花火一色で、アサヒの商品がド派手に陳列されている。バイヤーの後藤貴章氏はこう語る。「花火企画も売り場をつくりやすい。東北の夏は短いながらもイベントが目白押し。効果的にアピールできる商品は大歓迎です」。

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(左)左からウジエスーパー中里店の新妻康憲上席店長、食品係長後藤貴章氏、アサヒビール東北広域支社広域支店副課長の佐島宣信氏。(右上)アサヒビールマーケティング本部の松葉晴彦次長。(右下)15年春、秋のスーパードライ限定缶。

さらに、今後の展開も準備済みだ。春の桜に続き、秋は紅葉をあしらった期間限定のスペシャル缶が登場する。これだけコト消費にこだわるのは、夏場の売り上げに依存しない体制を構築しようとする小路社長の考えがある。増収を目指していても、猛暑や冷夏に左右されるようでは、目標達成は困難だからだ。イベントのワクワク感を刺激し、四季を通じた売り上げ確保を目指すのだ。

力を入れるのは外見だけではない。誕生以来、中身を変えずにきたスーパードライだが、昨年12月、その中身を「進化」させた。発酵に用いる酵母を厳選、仕込み技術を改良して、出荷後の味の変化を抑える。

「飲み慣れてしまうと、その味をおいしく感じてくる。本当はビールを飲みたいと思っていても、より安価なものを飲むという状況が続くと、怖い」。そう語るのはマーケティング本部の松葉晴彦次長だ。発泡酒や新ジャンルも改良が進み、味もよくなった。何も手を打たなければ、ブランドの鮮度は落ち、忘れ去られる危険性もある。

「でも、一度飲んでおいしいと思えば人はそのことを忘れません。『進化』したスーパードライを飲んでもらうことで、やっぱりビールがうまいと感じてもらうことが重要です」

アサヒビールは異論を挟む余地のないトップシェアカンパニーだ。小路社長は、他のビールメーカーの動向ではなく、他業種に目を光らせる。

「トヨタもピンクのクラウンを出していたりする。ビール業界だけを見ていたら、斬新な切り口に気付かぬまま、他社より少しいいものを出せばいいという発想になってしまう。それでは私たちに課せられた責務は果たせません。ビール類の消費がシュリンクしていく状況で、私は業界を牽引するのではなく、業界全体を活性化させたいのです」

■すべては主力ブランドのために

年々、各社からの主力ブランドの派生商品は増え、昨年の消費増税後、さらに増した。増税前の駆け込み需要を想定すれば、増税後は需要減となる。消費者の嗜好の広がりに対応するためであることはもちろん、新商品を出すことで売り場の棚を取り、気に入ってもらえれば、主力ブランド自体もアピールできる。

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すべてのジャンルの中でも「スーパードライ」は圧勝!

同一商品を大量生産することで高い利益率を確保してきたアサヒは、長年派生商品を封印してきた。しかし、12年発売の「スーパードライ ドライブラック」に始まり、今年は三商品の派生商品を発売。派生商品が増えることで利益を圧迫しないのか。

アサヒビール小路明善社長はブランドを木に例えて説明する。

「『スーパードライ』という幹があって、派生商品はその枝葉です。枝葉に日が当たってたくさん光合成をすれば、そのぶん幹が太くなる。しっかりした幹があれば、また新しい枝葉を伸ばすことができるのです」

ゴールはあくまでも主力ブランドの成長にあるのだ。

(ジャーナリスト 唐仁原 俊博 村上庄吾=撮影 PIXTA=写真)

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