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ある日、あなたの上司が外国人になったら……

プレジデントオンライン / 2015年10月19日 10時15分

オープンなオフィスの数カ所で英語レッスンが行われている。

■なぜ英会話レッスンを誰からも見える場所で行うか

地元のスーパーやコンビニに飲料の営業や販売をする中小企業に勤めていたのに、ある朝突然「来月から関連企業と統合し、グローバル企業になる」とお達しが。数カ月のうちに社長も上司も外国人。社内で英語が飛び交い、ビジネスプロセスから制度、組織までもが、がらりと“外資的”になってしまったとしたら――。あなたは、その変化を受け止められるだろうか。

それに近いことが起こっているのが、東京・赤坂にあるコカ・コーライーストジャパン(以下、CCEJ)だ。そこには不思議な光景が広がっていた。

就業時間中にもかかわらず、オフィス中央にあるオープンな打ち合わせスペースでは、外国人講師による英会話レッスンが行われているのだ。レッスンは1回50分で、3、4人の少人数制。利用回数にルールはないが、社員は積極的に受講することを奨励されている。毎日受けたり、1日に2度受けることも可能だという。10段階のレベル認定も行われ、社内では優秀者をMVPとして毎月表彰している。講師だけでなく英語レッスン手配の専用ヘルプデスクも常駐しており、“駅前留学”ならぬ“オフィス内留学”状態だ。

「講師が常駐しているので、少しでも空いた時間があれば、レッスンを入れるようにしています。少なくとも1日に1度は英語のレッスンを受けるようにしています。といっても、昔は英語を仕事で使うなんて、想像もしていなかったんですがね……」と話すのは、50代の管理職男性。

「統合後は、社内文書も日本語と英語で併記されていますし、外国人社員も増えています。また、特に管理職は3年間で英語でビジネスに必要なコミュニケーションができるレベルまで達することが目標となっているので、危機感を持って取り組んでいる人が多いです」とHR本部の英語教育担当者は話す。英会話レッスンをオフィス内の誰からも見える場所で行うのも、全体の意識を高める意図があるという。

CCEJは、2013年7月、関東、東海地区の日本コカ・コーラグループのボトラー4社(コカ・コーラセントラルジャパン、三国コカ・コーラボトリング、東京コカ・コーラボトリング、利根コカ・コーラボトリング)の統合により設立された新会社だ。

長年、日本のコカ・コーラグループでは、日本コカ・コーラ社が製品の企画や原液の製造を行い、各地にある独立したボトラー会社に供給。ボトラー会社がそれぞれ担当地域での製造、販売、物流を担うという、フランチャイズ形式で展開してきた。しかし、昨今では経費削減や効率化の観点からボトラー会社の再編が進行しつつあり、4社統合もその流れによるものだ。

この経営統合により、一気に国内最大のボトラーカンパニーとなったCCEJの社長に就任したのは、ルーマニア人のカリン・ドラガン氏。他国の関連会社で統合を成功させた手腕をかわれた。これまでより米コカ・コーラ社との連携が強まり、経営陣も半数が外国人という“外資的”な会社に様変わりした。

統合と同時に、一気に巨大なグローバル企業の一員となったCCEJだが、国内市場での飲料ビジネスという事業内容に今後も変わりない。にもかかわらずCCEJが英語教育に力を注ぐ理由を、HR本部組織開発部の人材開発課長の中野美樹氏はこう話す。

「わが社の場合は、日本企業が海外進出を目指していくようなタイプのグローバル化ではありません。それよりは、世界のコカ・コーラグループと同じ環境にする、ひいては日本の社員も海外の関連企業で活躍できるグローバルレベルの人材を育成することを目指しているのです」

■日本から発信するグローバルレベルの“ベストプラクティス”

では、CCEJが推進する「グローバルレベルの人材育成」とは具体的にどのようなものなのだろうか。中野氏は「コカ・コーラグループでは、かねて会社単位より各システム単位で協力し、世界中から『ベストプラクティス』(最善の事例、最も効率のよい方法)を共有することでグループ全体としての発展を目指していこう、という方向性があります。そうなると、たとえ日本にずっといる人材であっても、グローバル水準で考えたり、関係づくりをしたりできないと、世界から取り残されてしまいます」と話す。

これまでは米コカ・コーラのアトランタ本社の方針や海外からの事例を受け入れる側だったが、今後は日本からの「ベストプラクティス」の発信も期待されているという。特に、独自に発展を遂げた日本の自動販売機は世界のボトラーから注目を集める。海外から人材を受け入れており、現場で一緒に働くなかで日本の技術やノウハウを吸収していってもらおう、といった試みもすでに行われている。

コカ・コーラグループでは、様々なスキルや経験を持つ人材を国籍を問わず適材適所で送り込めるよう世界的な人材マネジメントが行われている。ゆえに、英語さえできれば、CCEJの社員が日本での経験を活かして他国でキャリアアップできる可能性も大いに広がったというわけだ。

統合後、人材育成には約3倍の予算をつけた。その中心の1つが英語教育だが、それはただ英語を徹底させるためではなく、グローバルな人材育成の基礎力への投資なのである。

■長期的な管理職研修でグローバルリーダーを育成する

企業を急速にグローバル化させるには、もちろん英語だけでは足りない。組織面、制度面でも大きく変化した。このような大きな組織変革を進めるうえで、鍵になるのはマネジャー層(管理職)の意識改革だ。

統合後、マネジャー層に人事面で大きな権限を持たせた。「従来の日本型組織では、人材管理、特に育成、キャリア開発は人事部が中心になって行われていることが多かったのです。しかし新会社では、欧米のように人事面の責任と裁量を現場のマネジャーに持たせる形になっています。マネジャーは人材育成、キャリア開発、さらには採用、配置まで総合的に管理していく立場となったわけです」(中野氏)。

もちろん、そこまでの権限を持つようになったマネジャー層自身の意識改革とマネジメント力向上のため、部長層約150人に対し、統合後1年半をかけて、世界約20カ国のコカ・コーラボトラーで導入されているというリーダーシップ研修プログラムが行われている。このプログラムは、「事業戦略の実行」「チームパフォーマンスの向上」「チェンジマネジメント」という3つのテーマを、実践的な課題に取り組むなかで深めていくアクションラーニング重視の研修。内容は、経営戦略の理解、その実行から部下の人材管理、ダイバーシティマネジメント、国際的コミュニケーション、変革時の課題対応など多岐にわたるが、どれも「グローバルに働く」ことが前提。実際に研修に参加したある部長はこう語る。

「目から鱗の内容ばかりでした。プレゼンの仕方、会議での意見の発表方法などからして違う。さらに、会社の経営戦略をきちんと理解し、それを具体的に『部下がこういう問題に当たったら……』と考えるケーススタディもします。決まった答えはなくても、マネジャー同士でどうしたらいいか話し合うことも、とても勉強になりました」

1週間の集合研修が3回あり、その間も1班6人に割り振られたメンバーが集まり、グループ課題に取り組む。支社や専門業務が異なる旧4社のマネジャー同士がこうして交流することで、新たな関係構築にも寄与している。

「この研修プログラムの目的は多角的なリーダーシップ力の強化と、統合直後の横のつながり形成。それに外国籍トップとの関係強化です。変革現場の中心となるマネジャー同士が共に考え、話し合い、支え合える場を提供しています」(中野氏)

■2020年オリンピックにホスト都市として東京から発信する

さらに、こうした大きな統合や会社の変化に伴う“変革の痛み”に対応すべく、サポート体制も強化している。各部門専任で人事の専門部隊を配置したのだ。

「変革時は、各現場で様々な課題が多く出てくるので、細かなサポートが必要になります。そこで、会社として人事部以外に部門付人事担当者が全社で40人近くいます」(中野氏)。また、人事部門にも米コカ・コーラのアトランタ本社から、時機に応じて1~4人ほどの人事専門家が派遣され、各国の「ベストプラクティス」を使った助言がされているという。

今後は、研修を課長層や女性対象にも拡大すると同時に、選抜型での次世代リーダー育成プログラムも行っていく予定。世界規模で働ける人材育成の拡大を目指すという。

「統合前の4社の社員たちは、まさか自分が海外のボトラーで働くといったキャリアを想像したこともなかったと思います。ですが、日本の人材も英語ができれば、ワールドクラスで発揮できる力を持っているのです。実際に日本の飲料市場の成熟度は世界からも注目を集めております。その日本の知見をぜひ世界に活用してほしいと、米国本社からも熱い期待が寄せられています」(中野氏)

壁には、統合スローガンやレベル表を貼り、士気を高める。

CCEJでは、20年までに社員が英語を話せるようになることを目標として掲げている。コカ・コーラグループはオリンピックの公式スポンサーであり、東京オリンピックの行われる20年には世界中のボトラーが東京に集結する。そのときにはホスト都市のボトラーとして全社員が英語で対応し、世界にその存在感を示したい、という強い思いがある。

「グローバル化」とは、単に海外市場に日本製品を売り込む、海外に工場をつくる、といったことだけではない。ベストプラクティスを世界から学び、優れた技術やノウハウを持った人材を日本から世界に送り出す、といったこともまた、グローバル化の重要な側面なのだ。だからこそ誰もが「英語力とワールドクラスの働き方を身につける」ことが必要なのだと、CCEJの取り組みは教えてくれる。

(ライター 井上 佐保子 干川 修=撮影)

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