なぜ日本の教育だけではグローバルで活躍できないのか
プレジデントオンライン / 2016年1月22日 14時15分
■人生は社会に価値を生むために使いたい
【三宅義和・イーオン社長】2010年にグローバルリーダーを育成する「igs」という教育ベンチャーを立ち上げましたね。それまでビジネス界で大成功していたのに、非常にこれは大きな方向転換だと思うのですけれども、なぜ教育に携わろうと決断をされたのですか。
【福原正大・igs代表】金融機関にいると、30歳の頃に多くの銀行員が「自分は何もつくり出していないのではないか」という疑問に陥るんです。その当時、私もやっぱり思ったのは「この仕事は虚構かな?」というものでした。資産運用を担当していて、仕事は面白かったものの、自分がいなくなったとしても社会には何のインパクトもないという気持ちもどこかにありました。
そんなとき、リーマンショックが起こって、金融がどうやら実業の世界にマイナスの影響を与えていたとわかった。金融っていうのは本来、市場に活力を与えるだとか、あるいは、流動性を供給するとか、リスクを分解するだとか言われてきたわけです。ところが、リスクを分解したはずの証券化によってバブルになり、それが弾け、多くの人たちが損失を被りました。その数年前に『竜馬がゆく』を読んでしまっていたわけですよ(笑)。
【三宅】それは絶妙のタイミングですね。
【福原】毎年、年末に沖縄で過ごすことを決めていて、サンゴ礁の海を見ながら『竜馬がゆく』を読んでしまうと……。
【三宅】もう気持ちが高まってしまう。
【福原】思いが先走ってしまって(笑)。リーマンショックは2008年ですよね。あの事件を機に「人生『竜馬がゆく』みたいに生きられれば幸せだよな」という気持ちがまた深まりまして、金融はどこかでけじめをつけたいなと考えたわけです。確かに、外資系投資銀行は高額な年俸を稼ぐことができる。もう本当に普通の人の生涯賃金を1年で手に入れることも不可能ではありません。
あるときまでは、それがハッピーだと思っていた。しかも、外資系金融ではマネージングダイレクターまで上がってしまうと、他にいろいろなポジションがまわってきて50歳ぐらいまで実質的に安定した給料が10年間入ってくるシステムのようなものもある。でも、死んだときにお金なんて持って行けない。やはり、人生の大切な仕事と時間を社会に価値を生むために使いたいと思うわけです。すると「やっぱり竜馬のほうがかっこういいな」と思って(笑)。
そこで、一時期は政治家になろうかなと考えました。しかし、代議士に当選しても、国の政策に影響力を持つまでには20年はかかるでしょう。それなら、やはり教育だなと思いました。幕末の吉田松陰にも憧れて、教育業界のことを何も調べずに、気合いだけで飛び込んだということです。
■どうすれば「グローバル人材」が育てられるか
【三宅】それが「グローバル人材」の養成というコンセプトにつながっていくと。
【福原】日本の教育だけ受けていると、世界では活躍しにくい。グローバル人材として活躍するには、英語は当たり前のようにネイティブにしゃべらなければ相手にされないんじゃないかと。中途半端な英語じゃだめだということです。
まして、イングリッシュスクールや留学先で、積極的に発言するだとか、ディベートで全体を引っ張っていくとなると、子供の頃からやらせてあげないといけない。自分自身の経験からすると、英語でみんなを引っ張っていけるようになってきたのは30代後半からでした。正直、今になっても努力が足りない部分もあるんですが、たとえば英語で授業を1日8時間ぐらい受け持つと、どこかで語彙の足りなさを感じます。それをクリアするレベルまで上げておかないと、日本がこれからの国際社会で認められるのは難しいのではないでしょうか。英語は子供の頃からある程度しっかりやっておくべきです。なぜなら、間違いなく世界の標準語は英語なわけであって、アジアでもシンガポール、香港とか全部英語です。
【三宅】福原さんが代表を務められるigsZですけれども、英語で考えられるリーダー塾と聞いていますが、具体的にはどのような内容の授業をしているのですか。
【福原】小学生の場合ですと、基本的には、リベラルアーツを英語で学ぶというカリキュラムになっています。毎回テーマを決めながら進めいていくしくみになっています。ですから社会科学だとか自然科学という分野だと、あるテーマを決めて英語で授業をするわけです。たとえば「サイクル」というテーマだとしたら、自然科学、社会科学、人文学で、サイクルに関わる単語、これは小学生には難しいかもしれませんが、全部を見せてしまう。自然科学であれば実験も英語で行われます。しかも、これらの授業ではフォニックス、つまり正しい発音と綴り方も重視しています。こうした基礎的なところは、子供のときに身に付けておかないといけません。
【三宅】そういう教育もきちっとやっているわけですね。
【福原】中学生になると基本的には英語四技能を意識しながら、少なくとも英語で完全にディベートができるレベルをめざします。その際、議論にはクリティカルシンキングもないといけないし、ロジカルシンキングもないといけない。加えて、相手の気持ちを推し量るっていう共感力も求められます。
こうした要素が全部揃えられるので、英語で議論することをテーマにしています。英語でディベートができればTOEFLも簡単にできます。問題がポンと出て、聞いて、ポンと答える。結局、英語ディベートっていうのは総合芸術だと思っているので、ディベート力を高めることは大切です。それと同時にTOEFL対策が6年間でできるしくみっていうものを作っています。
【三宅】英語で議論し合うということが明確な目標としてあって、それを前提としたリーディングの勉強であったり、スピーチの勉強であったり、ボキャブラリーを増やしていくということですね。
【福原】あと哲学の授業もあります。アメリカの大学を出ているフィロソフィー専攻の女性が小学校で授業を受け持っています。早い段階から海外の哲学者の考えに触れて、自由だとか、平等だといった概念を理解できるようにし、中一からさらに学びを深めようと考えています。
■高校3年間哲学が必修なのはフランスだけ
【三宅】福原さんの著書に『世界のエリートはなぜ哲学を学ぶのか?』がありますが、やはり、こういったところも本質的に重要であると考えているのですか。
【福原】哲学は中高生が学ぶには一番向いています。考え続けないといけないので、思考力を鍛えるには最高の方法なんです。数学ももちろんいいんですが、数学って問題が解けると、終わった気になりますよね。でも、哲学には決まった答えはありません。永遠に探究を続けないといけないんですね。1つ解けた気がしても、さらに奥があるということですから、哲学ほどいいものはないと思っています。
【三宅】それは多様性を認めるということでしょう。世の中にはいろんな考えがあって、自分の解答だけが正しいということはありません。日本人はどうもAかBか、英語のレッスンでも外国人がいいか、日本人教師か、一対一か、グループレッスンがいいかと、白黒をはっきりさせたがります。しかし、現実はそうではなく、あれがよいが、これもよいという場合がいくらでもあるわけです。相手の意見をしっかり聞くことで、それでまた自分の意見が深まっていくというね。そういうことがすごく大事ですよね。
【福原】大学のときにフランスにホームステイに行きました。最初のホストファミリーから手渡されたのが「自由・平等・博愛」について書かれた小冊子でした。田舎で料理教室を営んでいる主婦が「フランスに来た以上、あなたはこれを完全に理解して、民主主義とは何かということを理解しないといけない」と言って、毎日のように議論したわけです。
【三宅】それはまたすごいですね。
【福原】さすがに、自分たちの手で民主主義を勝ち取った国民です。そのすごさを実感したわけです。子供の頃から哲学を学んで、高校3年間は哲学が必修という国は世界でフランスだけです。
つまり、国民全員が哲学を学んできているので、言論の自由や政治的行動のバランスがいいなと思いますね。結局、人間は他人から学ぶということでしょう。特に、英語はコミュニケーションなので、人対人ですよね。やはり、いい教室を選び、すぐれた先生に教えてもらうべきでしょう。
【三宅】まさにそうですね。いろんなタイプの人間がいるわけで。だから子供にしても、才能と可能性は千差万別だし、ある意味で無限です。英語学習においても、目から覚える子もいれば、耳から覚えるのが得意という子もいます。また、書くと頭に入りやすい子もいるわけです。だから、多様性を見るなかでその子にあった学習方法の提示は非常に重要ですよね。
私どもは英会話学校を運営していますけれども、福原先生はエリートの教育をしています。英語のレベルにおきましても、ネイティブレベルまでなるべき人とそこまで行かなくてもよい人と、仕事の必要の範囲で使えればよい人もいると思うのです。英語教育でも、そういう多様性のある環境になってくると嬉しいですね。本日はありがとうございました。
(イーオン代表取締役社長 三宅 義和 岡村繁雄=構成 澁谷高晴=撮影)
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