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「同族経営」ジャニーズ事務所×SMAPはニッポン企業に「よくある話」

プレジデントオンライン / 2016年1月29日 8時45分

■ジャニーズ事務所は売上推計1000億円の同族経営の大企業

人気アイドルグループSMAPのジャニーズ事務所からの独立・解散劇とそれを主導したとされるSMAP育ての親の飯島三智マネージャーの“解任”が世間を騒がせている。

一連の騒動を見て日本の伝統的な家族主義的経営の負の側面である「辞めたくても、辞めさせない」構図と同じではないかという疑念を抱いた。

ジャニーズ事務所は社長のジャニー喜多川氏と姉のメリー喜多川副社長、メリー氏の娘の藤島ジュリー景子氏が副社長を務める同族企業であると同時に、グループの売上げが1000億円と推計される大企業である。

飯島氏は創業家と経営方針を巡る対立からSMAPを引き連れて独立しようとしたが、結果的にSMAPは残留し、本人は解任に等しい辞任に追い込まれた。

だが、こうした事例は一般企業でも決して珍しい話ではない。経営幹部が優秀な社員を引き連れて独立するのはよくある話だ。

それにしても1月18日のSMAPの生放送の謝罪会見には誰もが違和感を持ったのではないだろうか。“公開処刑”と揶揄されるようにメンバーの草なぎ剛が「ジャニーさんに謝る機会を木村君が作ってくれて」という発言から事務所に対する謝罪を要求されていた可能性も推測される。

また、飯島氏の解任劇の経緯については『週刊文春』(2016年1月28日号)に再録された2015年1月13日のメリー副社長のインタビューに詳しい。

ジュリー景子副社長と飯島氏の派閥争いの疑いで取材に訪れたとき、メリー副社長は急遽、飯島氏を会議室に呼びつけてこう発言していた。

<私、何にも(根拠)なしにね、「飯島、こういう噂だから、あんたクビだよ」と言うことはできない。今、ここでこういう話を聞いているから、飯島、私はこう言いますよ。「あんた、文春さんがはっきり聞いているんだから、対立するならSMAPを連れていっても今日から出て行ってもらう。あなたは辞めなさい」と言いますよ>

この発言が本当なら、本人を前にした恫喝的なパワハラ発言と言わざるをえないだろう。今回のSMAPの独立騒動でも背後でジャニーズ事務所が怒り心頭に発していたことがうかがいしれる。

■なぜ、 「40代の独立」は裏切りなのか?

同じ『週刊文春』誌上では小杉理宇造氏がジャニーズ事務所を代表してこう発言している。

<彼女(筆者注・飯島氏)には残念だけど、飯島さんの経営方針はジャニーズ事務所の本社、及びオーナーの意に反している。だから解任するしかないと伝えました。彼女は「辞任にしてほしい」と言い、それを知ったジャニーさんは「そうだよね」と。(中略)戻ってきたメンバーにとっても、どうすれば一番いいのかを考えることも重要だと考えています。ただ、四人はメリーさんに滅茶苦茶、怒られるだろうけど>

4人が事務所を離れることをメリー喜多川氏が怒っている様子がわかるが、それにしても独立することはそんなに悪いことなのだろうか。

SMAP独立騒動を報じる週刊文春1/28号、1/15付けのスポーツニッポン、ニッカンスポーツの1面より

メンバー全員が40歳を超え、独立して再スタートを切りたいと考えるのは何ら不思議ではない。それ以上に異様なのはSMAPの謝罪会見や「裏切り者は許さない」といった経営者の執拗な言動である。

その背後には日本の伝統的な家族主義的経営が影を落としているように思う。家族主義的経営とは、資本家・経営者と従業員の関係は金銭を媒介にした契約関係ではなく、人と人が結びついた親子関係になぞらえ、両者の利害は一致するという考えだ。

この考えの起源は日本の伝統的な「家」概念にある。社会人類学者の中根千枝氏はその著書『タテ社会の人間関係』の中で日本の会社「家」概念に結びつけてこう分析している。

<経営者と従業員とは「縁あって結ばれた仲」であり、それは夫婦関係にも匹敵できる人と人の結びつきと解されている。したがって従業員は家族の一員であり、「丸抱え」という表現にもあるように、仕事ではなく人を抱えるのであるから、当然その付属物である従業員の家族がはいってくる。(中略)私生活にまで及ぶということは、従業員の考え方・思想・行動を規制してくるものであり、「家」における家族成員(正確には家族員)のあり方と軌を一にしてくるのである>

こうした経営者と従業員の家族的一体感が滅私奉公的な集団的エネルギーを生みだし、日本の高度成長の原動力となったのは周知の通りだ。社は従業員だけではなく、その家族も含めて手厚く支援し、それと引き替えに従業員も会社に尽くそうとする。

■「辞めたくても、辞めさせない」手法は……

今では家族を含めた「丸抱え」の会社は少なくなりつつある。だが、ジャニーズ事務所には家族主義的思想が色濃く残っている。もしくは、日本の芸能界には、というべきだろうか。メリー喜多川氏は『週刊文春』(2016年1月28日号)でこう述べている。

<私はうちのタレントは「うちの子」と呼びます! 病気をしたらちゃんと見舞いをするし、親御さんが亡くなったら全部面倒を見ます。マッチ(近藤真彦・51)だけじゃなくて、岡本健一(46・元男闘呼組)も、アッくん(佐藤アツヒロ・42・元光GENJI)も。それって当たり前のことでしょう。>

また「うちの子の責任は全部自分で取ります。それと同じように、私はうちの社員の責任も取るし、社員を統一するのも自分の責任だと思う」と語り、「私にとって娘より大事なのはタレント。でも、その次はやっぱり自分の家族。社員も大事にするけど、タレントで精一杯ですよ」とも発言している。

もちろん、社業に貢献するタレントの家族を含めて「丸抱え」で面倒を見ることは悪いことではない。家族主義的経営の良さかもしれない。

だが、今回の騒動では家族主義的経営の負の側面が露呈しているように思える。つまり、中根氏が指摘するように会社が疑似家族である以上、会社の権力は私生活上にまで及び、「従業員の考え方・思想・行動を規制してくる」存在であるということだ。

子供が親の言うとおりに行動すればかわいい存在だが、会社を辞めるという行動に出ると「これまで散々面倒を見てきたのに何事だ、裏切り行為だ」という思いに至る。

これまで「辞めたくても、辞めさせない」というブラック企業を取材してきたが、その原因の1つとして、従業員に対する手厚い処遇がなく、こきつかっているにもかかわらず、経営者の心性に伝統的家族概念が残っているのではないかと推測している。

もちろんジャニーズ事務所はブラック企業ではない。

しかし、辞めたいという社員をあらゆる手段を使い引き留めるという異常な行動はどこか似通っているように思う。

※草なぎのなぎは弓へんに前の旧字体の下に刀

(ジャーナリスト 溝上 憲文)

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