1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

“Not Yet”思考で落ちこぼれが変わる

プレジデントオンライン / 2016年3月2日 10時15分

スタンフォード大学教授 キャロル・ドゥエックパーソナリティ、社会心理学、発達心理学における世界的な研究者。達成動機、人間関係、精神保健に関する研究で大きな業績をあげている。

全米で話題の“The Power of Yet”という言葉をご存じだろうか? 人間の潜在能力の可能性を示す言葉として、2014年9月の米TEDで発表されて以来、注目を浴び、ウェブ視聴は250万ビューを超えた。スピーチを行ったスタンフォード大学の心理学教授、キャロル・ドゥエック氏は、パーソナリティ、社会心理学、発達心理学の分野における研究者だ。特に、モチベーションの研究では世界的権威である。
スピーチのもととなった教授の著書である“Mindset :The New Psychology of Success”(邦訳:『「やればできる!」の研究』)は、ビジネス、教育、スポーツに携わる人にとって必読書と言われている。1回の失敗でだめだと思う人、失敗の原因を分析して次へと奮起する人の違いはどこからくるのかを研究し、能力や才能は生まれつきではないことを過去20年間のリサーチから実証している。本来持つ能力を最大限生かし、次へとつなげられる人の成功の秘密をドゥエック教授に聞いた。

■「できない」ではなく「まだできることがある」

シカゴの、とある高校の成績にはFという評価はありません。その代わりに“Not Yet”という評価があります。アメリカの学校では当たり前にあるF評価は“Failing Grade”(落第点)という意味。その評価を受けた生徒は「私には欠陥がある」「私は諦めなければならない」と思い込み、持続して勉強しようとするモチベーションを失ってしまいます。一旦、Fという烙印を押されてしまうと、「あなたには将来の希望はない」と言われているようなものです。

しかし、Not Yetという評価は「あなたは学習目標に対して、まだ到達していないだけで、到達するにはさらに努力が必要である。でも目標への軌道には乗っている」という意味です。その評価を受けた生徒には恥じる気持ちはありません。さらに努力したいというモチベーションにつながるのです。

これは、大人にも当てはまるはずです。例えば、人生において挫折を味わったとき、「絶望的」と思わずに、Not Yetと考えるべきです。「絶望的」と考えると、目的に到達することはないと思えてしまい、それ以上努力をしなくなります。しかし、Not Yetと考えると「成功するにはどの部分を集中的に努力すればいいか」と前向きな思考になるのです。

Not Yetという考え方は、さらに潜在能力を呼び起こす機会をも与えてくれます。学校の成績は、不変の能力の測定であると見られがちですが、実際は「現状、どのように目的を実行できたか」ということを示しているにすぎず、その人の潜在能力についてはまったく教えてくれません。

将来、大きな目的を達成するには、必ずしも自信は必要ありません。成績にこだわる人こそ、一時的な自信を得るために目の前の成績でAを獲得しようとする傾向にあります。しかし、常に自分の能力が査定されていると思うと、逆に自信を維持するのは困難です。

むしろ、重要なことはモチベーションを維持することです。そのためには自身の成長や新しい目的、より大きな目的に向かって邁進するという気持ちを持たなければなりません。そういう気持ちからモチベーションがわき出てくるのです。

■部下の情熱を評価すれば成果2倍に

それでは企業では、まだ活用しきれていない社員に、どのようにNot Yetの気持ちを持たせられるでしょうか?

企業では、常に結果を出すことを求められます。私が勧めるのは、成長を査定する新しい評価体系を社内につくることです。「どれくらい進歩しているか」「誰が新しいアイデアを出しているか」「誰が同僚の成長を助けているか」などの点から査定するのです。どれくらい結果を出したかということよりも、どれくらい進歩しているかということに注目をするべきなのです。その評価体系が企業内に行き渡り、進歩が報われると、より多くのイノベーションが起こるようになるでしょう。

私たちの研究グループは、今大企業のマインドセット(ものの見方)を調査しています。その中で最初にわかったことは、CEOが成長を評価するマインドセットを持っていると、社員は「会社のためにもっと貢献しよう」とより強くやる気を感じているということでした。そういう会社ではミスをしたり、リスクのある選択肢を選んだりしても、見放さず、その失敗やリスクをサポートするほうに回ってくれます。一方で、逆のパターンの企業は、固まったマインドセットを持ち、社員は失敗すると代償を払わされるため、モチベーションが下がっていくのです。

それではCEOや上司が、社員に対して何ができるのか考えてみましょう。

まず、部下に話しかけるときや社員の前でスピーチをするときに、その人の進歩や成長を評価することです。社員本人が情熱を持って担当の課題にコミットするまでは、その能力を査定することはできないのです。潜在能力は実際に情熱を持ってやってみて初めて、最大限発揮されるものなのです。やる気を起こしていない中途半端な仕事に対して評価をしても、それ以上本来の力を伸ばすことができないどころか、モチベーションを下げるだけです。

次にできることは、先述した部下の進歩や成長を、きちんと評価につなげる方法を考えることです。その人の進歩に対して、報奨する方法が重要なのです。

新しいスキルを身につけた社員やチャレンジした社員、たぐいまれなチームワークを発揮した社員などを表彰するような制度を考えるといいでしょう。これは社員の出した結果を決して無視するのではなく、その結果を成長の視点から評価することなのです。

日本人は失敗を非常に恐れると言われています。失敗したらセカンド・チャンスをなかなか与えてくれないとも言われています。それでは会社も社員も成長できません。

■日本企業に求められる生き残りをかけた“失敗競争”

成功者を見ていると、我々は「成功」という最終結果にばかり目がいきます。彼らには才能があったから成功した、と単純に考えてしまいがちです。

しかし、成功するまでの長い間数々の障害に直面し、それを克服してきた障害は我々には見えないことが多いのです。私は「成功に向かって邁進し、数々の障害や失敗を克服しようと、その目的へのビジョンと情熱と忍耐力を持つ成功者」こそ賞賛しよう、と言いたいです。そういう人こそ私から見るとヒーローです。

企業の中には、力を発揮できていない、成果を出せないと思われている人がたくさんいるでしょう。しかし、その人たちは“できない人”ではなく、ある意味でNot Yetのカテゴリーに属する人だと言えます。一方で、かなりハイレベルな目的を達成している人でも、将来さらに何ができるか、その可能性は誰にもわからないので、彼らもNot Yetの人なのです。両者ともに、ポテンシャルを使い果たしているわけではないので、努力を続けて障害に挑戦し、それを乗り越えたときに、新しい可能性が見えてくるでしょう。

教育熱心な親は、子どもがオールAをとることしか考えませんが、それはあまりにも近視眼的な見方です。子どもに大きな夢、野心を持ってほしくないのでしょうか。

これは企業の上司と部下の関係にも大いに共通する点です。私は成績や評価は重要ではないと主張しているのでは決してありません。ただAという成績を獲得することは、驚異的な目的を達成する公式でもなく、将来驚くべき貢献をする保証でもない。アルベルト・アインシュタインは、人類に偉大な貢献をしましたが、成績は決してよくありませんでした。自分は平均よりも鈍いと思っていたほどです。だからこそ彼は誰よりも長く、深く考え続けたのです。

我々が現在行っている研究の中に、失敗を歓迎するように教えるセミナーがあります。セミナーでは、みんなの前で自分の失敗を発表し、それについて議論させます。どのような失敗をしたのか、という競争をさせるのです。

私が企業のコンサルティングでまず行うのは、どういう問題で苦しんでいるか、どういう間違いを犯したか、その間違いから何を学んだかを聞いて回ることです。それが、その企業の成長の基盤になるからです。まだ伸びる余地のあるところ、Not Yetの可能性を秘めているところなのです。

アメリカでもっともイノベーションを創出しているシリコンバレーには、Failure of the Year Award(その年の失敗賞)を授与する財団があります。この賞は誰もが欲しいと思う憧れの賞で、失敗したプロジェクトに与えられます。そのプロジェクトに取り組んだ人たちは貴重な教訓を得ることができます。その教訓こそがその組織を前進させるのに貢献するのです。

「失敗賞」は、その失敗が提供してくれた学習する経験と機会を評価するものです。一見笑ってしまうような賞ですが、「失敗は成功のもと」を象徴する賞です。失敗は本当に多くの情報を提供してくれ、将来多くの成功を生み出す可能性を有しています。シリコンバレーのモットーは「より早く、より首尾よく成功できるように、早期に、そしてできるだけたくさん失敗をせよ」ということなのです。

日本の企業はアメリカの企業と比べるとリスクをとりたがりません。もし失敗したら代償を払わされる、と思うと新しいことに挑戦する気持ちは薄れてしまいます。

同時に複数の異なることが起きるビジネスというものは、非常に複雑で大きなものです。もしあなたの会社が将来生き残って、成功を収めたければ、絶えず新しいことに挑戦し続けなければなりません。そこには失敗はつきものです。その失敗をフルに生かさなければ成長はありえないのです。

(スタンフォード大学教授 Carol S. Dweck 構成、撮影=大野和基)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください