富士フイルムHD新社長 助野健児「M&A攻勢」
プレジデントオンライン / 2016年9月7日 6時15分
中国景気の減速懸念や英国のEU離脱決定、為替の急激な変動など、厳しい経営環境が続く。新しくトップに就任した男たちは、この逆境にどう立ち向かうのか。
■がん、アルツハイマー……創薬支援に活路
4月、古森重隆会長兼CEOから社長就任を打診され、その場で引き受けた。突如、交代することになった理由は、中嶋成博前社長の健康問題だという。新社長が歩んできたのは経理・財務畑。事業構造の転換を進めた古森CEOの右腕として、多くのM&Aを遂行してきた。
――印象に残っている仕事は。
【助野】ちょうど30歳になった1985年、英国現地法人へ赴任したときの経験だ。当時、当社がロサンゼルス五輪の公式スポンサーになり、世界シェアを伸ばしている時期で、英国では代理店販売から直販に切り替えようとしていた。経理担当としての赴任だったが、現地法人の従業員は40人ほどしかいない。私は自ら手を挙げて営業も兼任して飛び回った。売り上げは爆発的に伸び、特に病院向けのX線フィルムや医療機器の注文が殺到。営業が忙しすぎて経理に手が回らなくなり、私の代わりになる英国人の経理マンを現地採用した。6年後の91年に帰国する際、現地法人は600人の規模となっていた。
――その後、デジタル化の波を受け、写真フィルム市場が急速に縮小。危機をどう乗り越えたのか。
【助野】写真フィルム需要のピークは2000年。03年以降、会長の古森を中心に、フィルムで培ってきた様々な技術を転用し、新しいコア事業をつくる挑戦を行ってきた。その過程で多数のM&Aを行った。現在、ヘルスケア、高機能材料、ドキュメントの3分野を中心に、さらに、デジタルイメージング、光学デバイス、グラフィックシステムを含む6分野に注力している。15年度の売上高は2兆4900億円を超えるが、これは00年の2倍近い水準だ。
私は02年から6年間、米国法人のCFOとして、写真事業のリストラを進めながら、本社が買収した米国企業のポスト・マージャー・インテグレーション(買収後の統合プロセス)を担った。買収した企業の良い部分を活かしつつガバナンスを利かせるための体制づくりを行った。08年に帰国し、12年からは経営企画部長に就き、以後はM&Aを遂行する立場で複数の案件に携った。
――今後、取り組みたいことは?
【助野】3つある。1つ目は医薬品、再生医療分野の事業拡大。医薬品では、血液がんなどの抗がん剤やアルツハイマー病治療薬の開発、再生医療ではiPS細胞を用いた創薬支援や細胞治療などを推進している。これらを早く花咲かせるために、M&Aが必要ならばやる。
2つ目は経営のさらなる効率化。売上高に対するSG&A(販売管理費)や、研究費の比率はまだ下げることができる。ただ闇雲に減らすのではなく、投資対効果を見ながら、研究テーマも見直したい。
3つ目は海外展開の強化。今、富士フイルムHDの海外売上高比率は6割だが、世界のGDPに占める日本のGDPは6%程度ということを考えれば、海外売り上げが8~9割あってもおかしくない。地域では東南アジアからアフリカ、分野ではヘルスケアが伸びると思っている。
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1954年、兵庫県生まれ。77年、京都大学法学部卒業後、富士写真フイルム(現富士フイルムホールディングス)入社。米国法人のCFOなどを経て、13年取締役経営企画部長。16年6月社長兼COO就任。
出身高校:大阪府立北野高校
長く在籍した部門:経理・財務部門
座右の書(または最近読んだ本):『峠』司馬遼太郎
座右の銘:大事は大胆に、小事は細心に
趣味:クラシック音楽鑑賞
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(富士フイルムHD社長兼COO 助野 健児 嶺 竜一=構成 高橋健太郎=撮影)
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