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熱狂的支持を生んだトランプの物語術

プレジデントオンライン / 2017年1月20日 9時15分

なぜ“泡沫・暴言候補”トランプは大統領選に勝利できたのか? この連載では、「現代マーケティングの父」フィリップ・コトラーのフレームワークに当てはめながら、トランプの選挙マーケティングについて解説する。今回はトランプが熱烈な支持者を生んだ“物語術”について考える。

■「新時代のマーケティング」で大統領選に勝つ!

「現代マーケティングの父」と呼ばれ政治マーケティングにも影響を与えるフィリップ・コトラーが、新時代のマーケティングとして提唱しているのが“マーケティング3.0”という概念だ。コトラーは世の中に変化をもたらすミッションの重要性を、以下のような言葉で説いている。

「ブランドが変化をもたらすとき、消費者は無意識のうちに当該ブランドを日々の暮らしの一部として受け入れる」
「変化を生み出すことこそ成熟市場に対する最高のマーケティング」

コトラーは、ブランディングの展開に際しても、世の中に変化をもたらすミッションを中核に据えたミッションブランディングが重要であると指摘しているのだ。

コトラーはさらに消費者に対して企業や製品のミッションをマーケティングするためには、企業は変化というミッションを掲げ、それを軸に感動的なストーリーを築き、ミッションの達成に消費者を参加させる必要があるとしている。また、その際に「普通ではないビジネス」「人々を感動させるストーリー」「顧客エンパワーメント」の3原則が不可欠であると指摘している。

マーケティング3.0は“変化”をキーワードとするが、同じように“変化”をキーワードとして選挙戦を展開したトランプの政治マーケティングは、このマーケティング3.0のフレームワークが見事に当てはまるのだ。

図は、トランプの選挙戦における政治マーケティングをマーケティング3.0のフレームワークに落とし込んでみたものである。

◆普通ではないビジネス:変化をもたらす、強さを取り戻す、過激なまでに明快なメッセージ
◆人々を感動させるストーリー:「チャレンジ型ストーリー」を採用し、“泡沫”候補者だったトランプが熱烈な支持者と一緒に大統領選挙を勝ち抜くストーリーや現状を打破し変革をもたらすストーリーを展開
◆顧客エンパワーメント:有権者を巻き込むソーシャルメディア展開、地上戦×ソーシャルメディアでのO2O展開、有権者を“共感→参加→シェア”させるエンパワーメントを展開

■潜在意識に訴えかける物語が熱狂を生んだ

さらには、コトラーは「人々を感動させるストーリー」には、「キャラクター」、「プロット」(物語の筋)、「メタファー」(隠喩)の3つが重要とも言っているが、トランプの場合はどうだろうか。

◆キャラクター:変化×強さを表象するキャラクターをトランプが演出
◆プロット:熱烈な支持者ととともに「強力な敵」や「困難な障害」に立ち向かう主人公の物語
◆メタファー:「暗から明へ」、「怒りから喜びへ」など「変化」のメタファーを多用

以上のように、分析できる。

トランプが選挙戦のために出した書籍『THE TRUMP -傷ついたアメリカ、最強の切り札』(ワニブックス)の冒頭で、この本の表紙に使う写真としてあえて怒りに満ちた粗野なポートレートを選んだと述べている。まさに「暗から明へ」、「怒りから喜びへ」など「変化」のメタファーを意識していることは確実であり、マーケティング3.0を活用して、「変化×強さ」を表象するキャラクターを演じることで、有権者に強く訴えかけていると考えられる。

トランプの「強力な敵」や「困難な障害」に立ち向かう主人公の物語は、コア支持層としてターゲットの中核に据えたサイレント・マジョリティーの熱狂的な支持を集めるには絶大な効果があった。トランプの主要メディアとの対峙は、この物語から見ると、主要メディアが「強力な敵」や「困難な障害」としてトランプ物語の一部として機能したのだろう。

なお、ストーリーやメタファーがマーケティングにおいて重要視されるのは、それらが人の意識だけではなく、潜在意識に直接訴えかけるからだ。トランプがターゲットとした白人労働者層が「現状への怒りや不安をわかってほしい」「現状への怒りや不安を代弁してほしい」「現状への怒りや不安を代りに吠えてほしい」ということを切望していたことを考えてみてほしい。ストーリーやメタファーに富むトランプの過激な発言が、熱烈な支持者を生んだ理由を理解できるだろう。

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田中道昭(たなか・みちあき)
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授。シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、オランダABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)、東京医科歯科大学医療経営学客員講師、グロービス・マネジメント・スクール講師等を歴任。著書に『ミッションの経営学』など多数。
http://www.rikkyo.ac.jp/sindaigakuin/bizsite/professor/

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(立教大学ビジネススクール教授 田中 道昭)

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