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グーグル、コカ・コーラ注目の理論「人を操縦し、人に操縦されない技術」

プレジデントオンライン / 2017年1月30日 9時15分

■Google、Facebook、マイクロソフトが注目する「最新理論」

「周囲の人たちの何気ない言動や選択が、個人の購買や意思決定に大きく影響する」――。

ペンシルベニア大学のジョーナ・バーガー准教授は「社会的影響力」を駆使したマーケティング理論を提唱している。それにGoogle、Facebook、マイクロソフト、コカ・コーラなど名だたる企業が注目し、氏にはコンサルティングの依頼が多数舞い込んでいる。

最新刊『インビジブル・インフルエンス 決断させる力』(東洋館出版社)では、その社会的影響力を仕事にどう生かしていけばいいかが語られているが、今回はその中からプレジデントオンラインだけに「相手のまねをする」という方法をご紹介いただいた。最新の行動心理学の知見を駆使すれば、「まね」をするだけで相手を意のままに動かせる、というのだ。

MBAの演習での秘訣:「交渉相手の仕草をまねろ」

アメリカのある大学で、MBAクラスの演習としてロールプレイが行われていた。学生2人が、「ガソリンスタンドを売りたいオーナー役」、それを「買いたいエネルギー会社の担当者の役」になり、交渉を行う。

それぞれ企業や人物の設定を行った上で、互いが密かに希望する価格へどう折り合いをつけるか、交渉力をつけるのが目的だ。現実に即した交渉の場面を演じ、どのように相手の心理を探り、どの程度自分の情報を開示すればいいのか、そしてどのように取引をまとめればいいのか、学んでいくのである。

しかし、30分たっても、取引に終わりは見えない。

エネルギー会社の担当者役は41万ドルの買い取り価格を提示するが、売る側のオーナー役はそれを断り、65万ドルを提示。少しずつ提示金額をすり合わせていくが、なかなか合意には達しなかった。

このまま続けてもらちが明かない。そこで、担当者役の学生は教員のアドバイスを受け、あることを行った。それを使えば、交渉が合意につながる確率が5倍高くなる、魔法のような手法だという。

それは、「交渉相手のまねをすること」だった。

「たったそれだけ?」半信半疑ながら、その学生は言われたとおりにした。オーナー役が腕を組んだら、自分も腕を組む。いすの背にもたれたり、前のめりになったりしたら、同じ姿勢をとる。相手が笑ったら、自分も笑う。

こんな単純なことで取引の成否が左右されるとは、とても思えなかった。しかし、実際に試してみたところ、交渉はそこから大きく変わったのだ。

まねをしながら話を続けるうちに、オーナー役は次のような「本音」を漏らした。

「ガソリンスタンドを売却するのは、長期の休暇をとって、夢だった世界一周旅行に出かけたいからなんだ」

そうとわかれば、担当者側にも打つ手はある。

「でしたら、世界一周旅行から帰って来られたあとの仕事が必要では? このガソリンスタンドのマネージャー職をご用意できますよ!」

この結果、金額自体はオーナー役の希望する額には至らなかったものの、旅行から帰ってきた後に安定した仕事を得られることになり、満足のいくものとなった。担当者側としても、これまでこのガソリンスタンドを経営してきた、優秀なマネージャーを雇用できることになる。

相手のまねをする、という単純な行動ひとつで、相手の信頼を引き出し、交渉をよりよいものにしたのである。

■なぜ、まねをすると信頼されるのか?

「まね」は人間の生まれながらの性質

相手のまねをすることが、なぜ信頼につながったのだろうか?  その答えは、「そもそも人間はまねをする動物だから」である。人間は、驚くほど周りのまねをして生きている。子どもの頃から、両親や周囲の人の話し方やくせ、規範をまねて身につける。友達ができれば、その友達のくせや遊びをまねる。周囲が勉強をサボっていれば、自分も勉強をしなくなりがちだ。そうして周りと同じ行動をとることで、友達や周囲と親密になっていく。誰しも実感することだろう。

そもそも社会的動物である私たち人間は、同じ慣習を持ち、同じ行動をとる人を仲間だと感じ、ポジティブなメッセージを受け取る。冒頭の、ちょっとしたくせという程度のまねであっても、無意識下で相手を好きになり、信頼するようになる。相手のまねをするのは「私はあなたの仲間ですよ」という密かなメッセージなのである。

相手に信頼されれば、あなたの話はもっと真剣に聞いてもらえるし、インタビューの場であれば、相手をリラックスさせ、本音を引き出しやすくもなる。

もちろん、このメッセージは仕事の場に限られない。婚活パーティーでは、話し方を似せたほうが、相手に「また会いたい」と思わせる割合が3倍になった。またすでにつきあっているカップルであっても、話し方が似ているカップルの方が、そうでないカップルより、3カ月後もつきあっている可能性が50%高くなる。

どんな場であっても、相手に気に入られたいと思うならば、このノンバーバルな方法を使わない手はないだろう。相手の意思決定を左右する、こんなに単純で効果的な方法はなかなかない。

間違いだとわかっていてもまねしてしまうことも

「相手のまねをする」という人間の性質は、私たちが考えているよりもずっと強力である。

図のうち、「左のカードの線と同じ長さの線はどれ?」という問題に答える実験があった。6人が席に座り、試験官から指名された順に答えていくというものだ。

参加者の1人は、「Cに決まっている」と思い、そう答えるのを待っている。しかし、先に指名された人たちは、みな「B」と答えていく。ついに、自分以外の5人がすべて「B」と答えてしまった。

「どうなっているんだ、自分がおかしいのか!?」と鼓動が早くなっていく。ついに、その参加者が指名され、答える番になった――。

■他人や周囲に操縦されないための理論武装

タネを明かしてしまうと、実は本当の実験の参加者はこの1人だけで、先に答えた5人はすべてダミーの協力者である。もちろん答えはCであり、疑問の余地はない。にもかかわらず、ほかの人たちが間違った答えを言うとき、人はどれだけ同調してしまうのかを確かめる実験だった。

一見、誰もが正しく「C」と答えそうに思える。しかし結果は全く違った。参加者の75%は、少なくとも1回は周囲の言葉に同調してしまった。実際は正しい答えがわかっていたとしても、グループの意見に流されてしまうのである。

これだけを見ると、不合理な行動のように見える。しかし逆に言えば、「人と同じでいたい」「人のまねをしたい」という人間の根源的な欲求はそれだけ強力なのだ。明らかに間違っているとわかっていても、人と同じでないと不安になってしまうのである。

会議の場でも、こんな経験はないだろうか。だれかが言った、何気ない一言に支配され、なんだか今ひとつと思われる判断がされようとしている。しかし、周囲も上司もなんとなく賛成しているように見えるし、今さら口を挟むのもなんだかはばかられる……。

このとき、「まねをする」という性質の負の影響が存在している。勇気を出して、一言異議を申し立ててみると、案外それほどみんなが賛成しているわけでもないことがわかり、よりよい集団での意思決定ができるかもしれない。

「社会的影響力」で人生を豊かにしよう

人は意識的・無意識的に、相互に影響を与えあっている。

無意識のうちに相手のまねをしていることもあれば(好意の表れかもしれない)、意図的に相手をまねることで、相手に好かれようとすることもできる。

もちろん逆もしかり。相手の仕草から、知らないうちに相手に好意を抱くこともあり得る。こういった人との間の社会的影響力に左右されていることに、我々はなかなか気づきにくい。つい「自分だけは関係ない」と思ってしまうが、逃れられる人は存在しないのだ。

だが、このメカニズムを知っていれば、社会的影響力を味方につけることもできる。交渉でまねをする例とは逆に、相手からの社会的影響力に左右されずに判断や意見形成を行うこともできるのである。

一つの方法が、「影響を受ける場」を形成するまえに、意見や判断を行うことだ。会議で一番はじめに発言してもいいし、無記名であらかじめ意見を書いておいてもらう、ということもできる。

また、集団が小さい方が、同調への圧力は小さくなる。もし、いつもの会議で発言が少なかったり、決まった人しか発言しなかったりという不満があれば、会議を細分化し、小さなグループで話し合わせるといいだろう。

■「自分の決断」は99.9%社会的な影響を受けている

感じのよい担当者やセールスマンから、不要かもしれないと思いつつ品物やサービスを購入してしまった経験があるかもしれない。そういった人たちは、相手に気に入られる、好かれる術に長けている。もし、それが不要かもしれないと疑念を抱くのであれば、できるだけ会わないようにする(あるいは、書類やEメール上でやりとりをするようにする)というのも方法の一つだ。非合理的な決断をしないよう、あらかじめ自分で影響力を取り除いておくのだ。

知らず知らずのうちに、私たちは他人の行動から影響を受けている。「自分の決断だ」と思っていることでも、その99.9%は、社会的影響力に方向づけられているのだ。

だが、その決断のしくみをわかっていれば、相手にどういう影響を与え、どういった決断をさせるか操ることもできる。影響力を利用すれば、物事をうまく進めることができるのだ。

「まねをする」というのは、この社会的影響力を利用するテクニックの一例にすぎない。よりよくメカニズムや手法を知ることが、仕事にプライベートに、自分の人生も、周りの人生も豊かにすることにつながっているのである。

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ペンシルベニア大学ウォートン・スクールマーケティング准教授 ジョーナ・バーガー(Jonah Berger)
一流学術誌に数多くの論文を発表するほか、ニューヨークタイムズ、タイム、サイエンス、ハーバード・ビジネス・レビューなどに寄稿し好評を得る。また、グーグル、フェイスブック、マイクロソフト、リンクトイン、GM、コカ・コーラなど、フォーチュン500からスタートアップまで、数多くの企業で講演・コンサルタントを行う。近著に『インビジブル・インフルエンス 決断させる力』(東洋館出版社)がある。

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(ペンシルベニア大学ウォートン・スクールマーケティング准教授 Jonah Berger)

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