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橋下徹"対北朝鮮の切り札は核ヘッジング"

プレジデントオンライン / 2017年4月26日 11時15分

世界各国が激しく駆け引きをしている。国内で威勢のイイことを言っているだけでは何も動かない。じゃあ日本は主体的に何ができる?

■積極的な核保有論ではなく受け身の「検討」

核実験強行かと見られていた4月25日、北朝鮮は過去最大規模の砲撃訓練を実施したけど、アメリカによる攻撃を招きかねない核実験やICBM(大陸間弾道ミサイル)発射実験そのものは行わなかったようだ。金正恩にしてもアメリカとの緊張関係がピークに達しているときにわざわざ実験をしなくても時期を見てやればいいと判断したのだろうか。アメリカが攻撃を仕掛ければ、北朝鮮は韓国や日本にある米軍基地を徹底的に叩くと宣言していた。そうなれば当然、日本の受ける被害もただごとではなくなる。

国際政治において一番重要なのは勢力均衡だ。アメリカは北朝鮮が核兵器を持つことは東アジアのそして世界の勢力均衡を崩すと考えているのだろう。しかし本当にそうだろうか。すでに米ロ英仏中の5大国が核兵器を持ち、インド・パキスタンが核実験を行った。北朝鮮は国力としてはそれほど大きくなく、中国・ロシアという核兵器保有国に睨まれた地政学的位置にある。このような状況下で北朝鮮が核兵器を保有したところで直ちに東アジアのそして世界の勢力均衡が著しく崩れるとは思えない。むしろアメリカの攻撃によって金正恩体制が崩壊することの方が東アジアの勢力均衡を崩してしまうのではないか。

朝鮮半島というところは歴史を振り返ってみても、常に各勢力がぶつかる最前線となっていた。ここで北朝鮮が崩壊すると、中国・ロシア・韓国、そして日本・アメリカの勢力関係に著しい変化が生じて不安定になるリスクが高まる。何よりも金政権の後に安定した政権が樹立される保障もない。

つまり日本がミサイル攻撃を受けるほどのリスクを負いながら、アメリカが北朝鮮を攻撃するとしたら、それは世界秩序にとってかえって害なんだ。そんなリスクを負うより、北朝鮮が核兵器を持ったとしても東アジアのそして世界の力の均衡が保たれるようにすればいい。北朝鮮が核兵器を持つことを阻止するためだけに、日本がミサイル攻撃を甘受する理由は全くない。

北朝鮮が核兵器を保有したことで勢力均衡に多少の変化が生じても、それは十分に是正することができる。その方法は日本の自衛力の強化だ。もちろん韓国も中国もロシアも、そしてアメリカも自衛力を高めてバランスをとりにくるだろうが、日本もしっかりとバランスをとればいい。今話題になっている敵基地攻撃能力をはじめ、北朝鮮が核兵器を保有した場合に日本の自衛力はどうあるべきかをしっかりと考えればいい。

そもそも、核拡散防止条約(NPT)では5大国のみが核兵器保有を認められているけど、そこには合理的な理由はない。理由を無理やり挙げるとすれば、第二次世界大戦後の大国によって勢力均衡を保ったということくらい。それが理由なら常に勢力均衡をチェックして核兵器保有国のバランスを是正しなければならないのに、そんなことは一切せず完全に5大国の既得権と化している。

だからそんな不合理な条約には加盟しないという方が筋は通っている。特にインドはNPTに加盟せずに核実験を行った。その当時、世界からは散々批判を受けた。でもインドは自国の安全保障の観点から核実験の必要性を訴えただけではなく、常に核兵器保有が5大国に限られているNPT体制の不公平さについても主張していた。インドが核実験を止めるのは5大国が核兵器を放棄する時だとね。もちろん5大国は拒否。実は北朝鮮も同じようなことを主張している。

アメリカのオバマ前大統領みたいに、「核なき世界」なんて演説をしたって核兵器がなくなるわけじゃない。5大国の既得権を打ち破ろうとすれば、非核兵器国が核兵器保有にチャレンジして、5大国と核兵器放棄について協議する。こちらの方が核なき世界に向けた立派な行動とも言えるんだよね。

ここへきてロシアが北朝鮮国境付近に軍を移動させたという報道、中国もアメリカが北朝鮮を攻撃すれば軍事介入することを示唆したという報道。世界各国が激しく駆け引きをしている。じゃあ日本は主体的に何ができる? もちろん軍事行為以外でね。今日本の政治家がやっている「北朝鮮の核兵器保有は絶対に認めない!」「対話と圧力だ!」とバカの一つ覚えみたいに国内で威勢のイイことを言っているだけでは何も動かない。

そんな中一つやってみる価値があるものがある。これはかなりのハレーションも起きる超剛速球だけど。それは日本の「核ヘッジング」。

核ヘッジングとは、核兵器を具体的に持つという核オプションよりも少しマイルド。日本の技術力からして潜在的に核兵器保有能力があることを示唆する。もっと言えば、北朝鮮が核兵器保有すれば東アジアの核均衡抑制の観点から日本の核兵器保有も検討の俎上に載せざるを得ないことを示唆する。

積極的にマッチョ的に核兵器保有を主張するのではなく、消極的、受動的、臆病者的に核兵器保有を検討せざるを得ないことを示唆する。

「日本は核武装なんかしたくない。NPT体制を守りたい。しかし北朝鮮が核兵器を保有するなら臆病者の日本は核兵器保有の検討も俎上に載せざるを得なくなる」というロジックだ。

韓国は、特に朴正煕大統領のときに、ウラン濃縮・燃料再処理技術の開発を強く望んでいたけどアメリカに拒否されてきた。韓国は北朝鮮と隣国として直接対峙し、核兵器保有の必要性を日本なんかよりはるかに強く認識していた。日本にはそんな技術がすでにある。そして日本がちょっと核兵器保有の話に踏み込めば、韓国ももちろん自らの核兵器保有を強く主張してくるだろう。

この事態を一番恐れているのは、まさに核兵器保有という特権を得ている5大国。「日本が本気になれば核兵器を保有することができる。そうならないために北朝鮮の核兵器を何とかして欲しい」くらいのメッセージを日本から出せば、中国やロシア、特に中国は本気で北朝鮮を説得するんじゃないかな。

中国にとっては北朝鮮より日本の核兵器保有の方がよっぽど鬱陶しいだろう。かつて佐藤栄作首相が、中国の核実験の後、日本の核兵器保有をちらつかせてアメリカから核の傘の提供を引き出したという逸話もある。アメリカ、中国、ロシアは事態を動かすために超剛速球を投げまくっている。北朝鮮有事において最も被害を受ける国の一つである日本が主体的に事態を動かすことにチャレンジしないというのは独立国家として情けない。日本も臆病者として超剛速球を一つ投げてみてもいいんじゃないかな。

※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》に掲載予定の原稿の一部です。全文は5月2日配信予定のVol.53に掲載します!! 4月25日配信の最新号(Vol.52)は、《[緊迫!北朝鮮]本当に危険なのは北の核兵器保有じゃない!日本の立場で考える核均衡論》特集です。

(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 撮影=市来朋久)

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