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外資が教える「日本企業への処方箋」

プレジデントオンライン / 2017年6月5日 9時15分

テレワークトライアルを実施したコニカミノルタ。(写真1)

「外資系企業のダイバーシティは進んでいる」といわれるけれど、いったい今はどんなことが行われているのでしょうか。また、彼らの取り組みは日本企業にどのように影響を与えているのか、実際に取材してみました。

ダイバーシティは2つの意味で新時代を迎えている。1つは今まで女性ばかりがクローズアップされてきたが、本来の「多様性」という意味の通り、外国人、障がい者、LGBTも含め、男女・既婚・未婚を問わず誰もが働きやすい環境をつくる方向に動いていること。もう1つは成果を求める傾向だ。単に多様な人材を集め、環境や制度を整えるのではなく、会社の成長につながるかが問われ始めているのである。

この分野の最先端を行くのは主に外資系企業だが、今一度、意義を捉え直そうとする日本企業もある。コニカミノルタグループの国内販売会社であるコニカミノルタジャパンもその一つだ。

同社は「ダイバーシティは経営戦略」と位置づけ、2015年5月から「ダイバーシティ推進プロジェクト」をスタートさせた。メンバーは、人事、教育、広報、営業推進など多岐にわたる。

リーダーの酒井之子さん(人事総務統括部教育研修部部長)はプロジェクトの経緯を語る。

コニカミノルタジャパン 人事総務統括部 教育研修部 部長 酒井之子さん

「私たちは多様な人材が価値を生み出すことができるよう、新しい働き方を提案する企業です。3年ほど前から働き方変革のプロジェクトが走っていて、より視野を広げたダイバーシティ推進プロジェクトが走り始めたのです」

ありたい姿を設定したうえで、重点課題の整理と分析を実施、実際のマネジメント変革と風土醸成のためワーク・ライフ・バランス研修を行うなどの活動をしてきたほか、場所にとらわれない働き方もダイバーシティを実現させるための要素として進化させてきた。従業員がテレワークトライアルを実施したほか、2015年に続き2016年も日本マイクロソフトの「働き方改革週間」に参加し、本社ビル26階のコワーキングスペース(写真1)を賛同企業に提供することで場所にとらわれない働き方を体験してもらった。

日本マイクロソフト
効率的な働き方で生産性もアップ

(左)資生堂が日本マイクロソフトの協力のもと、開発した自動メークアプリ「TeleBeauty」の共同発表会の模様。(右)日本マイクロソフト コーポレート コミュニケーション本部 本部長 岡部一志さん

日本マイクロソフトのダイバーシティは女性だけでなく、誰もが活躍できる環境をICTの仕組みで実現するところに特徴がある。

全員が「Skype for Business」を使い、どこにいてもテレワークができる。フェイス・ツー・フェイスに近い感覚のweb会議も可能だ。

ダイバーシティが本格化したのは2008年に樋口泰行氏が社長に就任してからと、コーポレートコミュニケーション本部本部長の岡部一志さんは言う。

「最初は女性活躍からでした。女性のほうが管理職になる意欲や率が少ないとか、出産で退職するとか、そんなケースが珍しくなかったからです」

11年、都内に5カ所あったオフィスを統合し、品川に本社を移したときに社内のフリーアドレス化やテレワークの働き方が進んだ。次第に女性だけでなく、すべての社員がオンとオフの時間を上手く組み合わせ、効率的な働き方を目指すようになり、実際に生産性も上がった。

最近、同社は資生堂に協力し、ノーメークでも画像処理でメークしているように見せる「Skype for Business」用アプリを開発した。ダイバーシティが新しいビジネスを生み出す可能性が見えてきた。

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▼Microsoftの取り組み

「制度は整っているけれど働き方が変わらない会社」から……
・場所・時間問わず仕事ができ、活躍できる環境
・チームメンバー間の信頼関係を重視
・評価システムは成果主義に

<こんなこともやってます!>

●1:1(ワン・オン・ワン)
上司と一緒に期初に明確な目標を設定するが、1、2週間に1度程度、1:1という面談も上司と行い、目標達成を目指す。もちろんテレワークを使って行うことも。

●テレワーク勤務制度
最大週5日のテレワークの利用、フレックスタイム制のコアタイムの廃止など、社員がフレキシブルな働き方を実行でき、活躍できる。

●テレワーク週間
マイクロソフトが2012年から、テレワークの取り組みとして進めてきたプロジェクト。賛同企業には同社のテレワークシステムを貸し出す。2016年度は「働き方改革週間」を実施。

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P&Gジャパン
ダイバーシティでイノベーションを起こす

(左)人材育成に関して神戸市とP&Gは協定を結んでおり、D&Iの研修を神戸市職員向けに行った。(右)P&Gジャパン ヒューマンリソーシス マネージャー 小川琴音さん

P&Gジャパンは女性管理職(課長以上。執行役員のぞく)比率が32%と高い。内部昇進だけでこの数字である。

ダイバーシティの取り組みは、女性同士の情報交換の場をつくる第1ステージから、男性も巻き込んで個々の多様性を尊重する第2ステージを経て、今はダイバーシティをビジネスにどう生かし、イノベーションにつなげていくかという「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」の段階にある。

ヒューマンリソーシスマネージャーの小川琴音さんは「インクルージョンスキルがなければ、多様性がまったく生かされないことを学んだ」という。

「多様性だけ進めても、『あの人は違うから』で終わってしまい、どのように新しいアイデアを生み出すかという議論が起こらなかったのです」

毎年3月に「D&Iウィーク」を設け、全社員を対象に「何のためにダイバーシティを推進するのか」を啓発しており、全社員が「イノベーションにつなげるため」と理解している。その成果の一例が、髭剃りの「ジレット」のトライアルプランの全面見直しだ。

従来、髭剃りを初めて使うのは「新入社員から」という考えがあった。日本のジレットのブランドマネージャーに女性の外国人社員が就き、「本当なの?」と疑問を呈したことから調査をやり直すと、「大学生になったときから」という結果に。サンプリング対象の変更など、マーケティング戦略がガラリと変わった。

「女性は髭剃りを使わないでしょとか、外国人に日本人のことがわかりますかなどと言わずに、相手の意見を尊重し、掘り下げて聞く技術がインクルージョンスキルです」(小川さん)

女性が管理職になるためには男性と同じ評価基準が用いられる。だからといって育児などの負担をそのままにするわけではない。個人の事情に合わせ柔軟に制度を運用している。とくにユニークなのが「コンバインド・ワーク」だ。オフィスと自宅の労働時間を合算してフルタイム勤務とみなすところが新しい。小川さん自身も育休から復帰するときにこの制度を使った。

社会全体でダイバーシティが進めば将来的には自社のプラスになると考え、16年3月からインクルージョン・スキル研修プログラムの無償提供も始めた。社内でトレーニングを受けた執行役員や部長級のトレーナーが出向いて、D&Iの要点や、管理職と部下のコミュニケーションについて講義とワークショップのプログラムを展開している。

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▼P&Gの取り組み

「多様性は生まれたけれど活かし方がわからない会社」から……
・成果が出る働き方を自分自身で考える
・多様性がイノベーションにつながることを理解
・制度は少ないが、柔軟性が高く、例外OKに

<こんなこともやってます!>

●コンバインド・ワーク
「時短勤務」の進化系。会社と自宅を合わせた労働時間が一日の就労時間を満たせば、フルタイム勤務とみなされる制度。特定の時間に在宅の必要がある社員が利用。

●ロケーション・フリー・デー
「在宅勤務」の進化系。勤務する場所を自宅以外でも柔軟に選べる。育児や介護など特別な理由がなくても、月5日まで取得可能。仕事に集中したいときなどにも活用可能。

●ダイバーシティ&インクルージョン啓発プロジェクト
ダイバーシティ推進に欠かせない個人のスキルを醸成する、管理職向けダイバーシティ研修を、社外に無償提供。同社の社員や執行役員がトレーナーとなる。

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日本IBM
障がいのある学生にインターンシップの機会を

(左)日本アイ・ビー・エム 人事 ダイバーシティ企画 部長 梅田 恵さん(右)Access Blueインターンシッププログラムの様子。手話での同時通訳をはじめ、障がいがあるどんな人でも力を発揮できる環境を整える。

ダイバーシティを世の中に広げるという意識は日本IBMにも強い。17年には同社は、日本でビジネスを始めて80年を迎える。その間、新聞社の新聞製作の電子化や、製鉄所のコンピュータ制御、コンビニATMなど日本初、世界初を形にしてきた。新しいものを社会に広げる精神はダイバーシティでも同じと人事ダイバーシティ企画部長の梅田恵さんは言う。

「100年前はIBMもベンチャーで、優秀な人材を獲得するため、広く多くの人々の中からやる気のある人を採用していたのです」

元々、マイノリティの活用に積極的だった同社だが、今のダイバーシティの流れをつくったのは、米IBMが1990年代前半に経営危機に陥ったときCEOに就任したルイス・ガースナー氏だ。「ダイバーシティは企業競争力をつけ、企業体質を強くするための施策である」と号令をかけた。

日本IBMも他社に先駆けて、女性、障がい者、LGBTなどの活躍を支援してきた。取材した日はちょうど、障がいがある人を対象とする「Access Blueインターンシッププログラム」の発表会が開かれていた。6カ月以上の長期のインターンシップの間、テレワークも使いながら、会社に貢献し将来につながる開発・提案を行う。

参加者たちは発表後、「自分に合った役割を見つけることの重要性を学んだ」「障がいが違うとチャレンジしなければいけないことも異なる」などと感想を述べ、有意義なインターンシップであったことをうかがわせた。

女性も再フォーカスされている。米IBMでバージニア・ロメッティ氏が女性で初めてCEOになった同時期に、日本IBMで会長になったドイツIBM出身のマーティン・イェッター氏は、女性社員に「もっとアピールしなさい」と言って組織を活気づけた。女性が経営層に入ると組織は変わる。ただし、1社だけでは世の中は変えられない。

「日本IBMがいくら女性の営業職をたくさん採用しても、取引先から『担当を男性に代えてくれ』と言われたら活躍の場がありません。自分たちの思想ややり方を広めていくことは、回り回って自分たちがどんどん強くなることなのです」(梅田さん)

外資系のダイバーシティは「異なることを受け入れる」から「異なることを活かす」へ発展、それを社会の価値観にするフェーズに入っている。

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▼IBMの取り組み

「IT化は進んだけれど価値観が変わらない会社」から……
・バックグラウンドが違う人を活かす
・日本発・世界初を目指す
・自社で成功したことを他社に広める

<こんなこともやってます!>

●J-win
「NPO法人ジャパン・ウィメンズ・イノベイティブ・ネットワーク」の略称。IBM社内の活動から、企業の枠を超えた女性のネットワークをつくるため、2007年に設立された企業メンバー制の団体。

●Access Blue インターンシッププログラム
2015年3月から約半年間行われた、20代、30代のさまざまな障がいがある人を対象としたインターンシッププログラム。

●work with Pride
日本の企業内で「LGBT」の人々が自分らしく働ける職場づくりを目指す任意団体として、2012年に設立した。企業の人事担当者と当事者を対象としたイベントを開催している。

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(大下 明文 撮影=岡村隆広)

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