永守家の次男がつくる「AI搭載会話ロボ」
プレジデントオンライン / 2017年6月13日 9時15分
■少しずつ成長する「ゼロ歳の女の子」
【田原】永守さんの会社は、「タピア」というロボットをつくってらっしゃる。タピアは何のロボットですか。
【永守】ライフパートナーロボットです。おしゃべりをしたり、カメラで遠く離れた人とビデオ通話をしたり。たとえばご高齢で一人暮らしをしている親御さんのところにタピアを置いておくと、元気に暮らしているかどうかをお子さんが見守れる機能もついています。映像を外からケータイで見ることもできます。
【田原】話ができるんですか。
【永守】はい。ここにタピアがあるので動かしてみましょうか。タピア、自己紹介して。
【タピア】ツルツルのかわいらしいコミュニケーションロボットのタピアです。天気やニュース、知らない言葉を検索して教えたり、留守番をしながらおうちを見守りますよ。それから、皆さんの生活習慣を学習したり、いろいろものがわかるように日々勉強しています。おっと、しゃべりすぎかな。これからも、どうぞよろしくね。
【田原】ほお、話しかけると答えてくれるんですか。タピア、ここはどこですか?
【タピア】……。
【永守】(笑)。すいません、タピアはゼロ歳の天真爛漫な女の子という設定なので、最初は答えられないことが多いのです。でも、人間が成長するように少しずつ頭がよくなっていくので、今週答えられなくても来週には答えるかもしれません。
【田原】価格はおいくらですか。
【永守】BtoC、コンシューマー向けには9万8000円(税別)で販売しています。BtoBに関しては、搭載するアプリケーションしだいで安くも高くもなります。
【田原】一般の人向けと、ビジネス向けがあるわけですね。企業はどんな用途で買うのですか。
【永守】たとえば受付をやったりとか、病院で簡単な問診もできるでしょう。いま実際に使われているのは、ハウステンボスのレストラン。全テーブルにホール係としてタピアが置かれていて、挨拶をしたり、イベント情報を案内します。この春にオープンした「変なホテル 舞浜 東京ベイ」には、各客室にタピアがいます。コンシェルジュとして話しかけてテレビやエアコンをつけるというように、IoTのスイッチングハブとしての機能も備えています。
【田原】ホテルには外国人観光客もきます。会話できるんですか?
【永守】タピアは多言語対応です。いまのところ日本語、英語、中国語。2017年中に韓国語にも対応予定です。
■親が有名でもプレッシャーを感じることはない
【田原】ところで永守さんのお父さんは日本電産の永守重信CEO。すごい人物が父親で、息子としてはどうですか。
【永守】サラリーマンの親父を持っても、八百屋の親父を持っても、親父は親父。親が有名な経営者だから、余計にリキむとか、プレッシャーを感じることはないです。
【田原】お父さんはどういう人ですか。
【永守】素直にすごい人だと思います。世の中のカリスマって、きっとこうなんだろうなと。
【田原】家で、そう思うのですか。
【永守】いえ、すごさを感じるのは海外に行ったときでしょうか。東南アジアに行くと、パトカーが迎えにきたりするのです。おそらくただのお金持ちなら、こうはならない。現地で事業をつくってたくさんの雇用を生んでいるから、国のトップからもリスペクトしてもらえるのでしょう。
【田原】家ではどんなお父さん?
【永守】厳しいですね。理屈じゃない、昔の昭和の厳しさです。勉強しろとか、こう生きろといったことは一切言いませんが、社会に迷惑をかけることはするなとしつけられました。小学校1年生のとき、教室で吐いてしまったことがあります。普通は泣くのかもしれませんが、私は吐いたものを自分で掃除した。その様子を見て先生が驚き、母に「永守家ではどんな教育をしているのか」と電話をかけてきたそうです。
【田原】厳しいと、反抗期の反動も大きそうだけど。
【永守】いや、反抗期なんてないです。怖くて反抗できない(笑)。
【田原】大学は明治の理工学部。理工学部を選んだのはなぜですか。
【永守】実家が電気屋で、小さな頃からモーターや電化製品に囲まれて暮らしていたので、自然な選択でした。
【田原】ところが大学に入学後、腸閉塞で入院生活を余儀なくされる。
【永守】生まれつきの病気で、学生になって再発しました。
【田原】いまはもう大丈夫ですか。
【永守】社会人になってからアメリカで治しました。
【田原】卒業して院に進学される。
【永守】単位がギリギリで、就活している暇がなかったのです。留年して翌年に就活するなら、4年で卒業して院に行こうと。院ではネオジム磁石の研究をしていました。
【田原】そして富士通に就職する。
【永守】当時私は川崎に住んでいたので、近所だった富士通に学校推薦で入社しました。
【田原】お父さんは、日本電産にこいと言わなかったのですか。
【永守】言われませんでしたが、富士通は反対していました。会社が大きすぎるからダメだって。
【田原】大きいとなぜダメなんだろう。
【永守】大きすぎると全体像が見えない、将来経営者になりたいなら1000人くらいの会社がいいと言ってましたね。当時、私の同期は700人いて、川崎工場は昼間の人口が3万人と聞きました。その中で、私は磁気ディスクの事業部に配属されて、ひたすらオシロスコープという機器で波形を見る仕事をしていました。たしかに会社や社会の仕組みを知ることは難しかったです。
【田原】2年で富士通を退職する。やはり大企業の仕事は退屈だった?
【永守】つまらないというより、サラリーマンの世界で上にいくのは無理だなと思いました。組織の歯車という表現はサラリーマンを揶揄するときに使われますが、歯車になれる人は優秀なんです。欠けていると歯車になれないですから。私はそこまでたどり着けないなと。
【田原】そこで転職ではなく、アメリカのサフォーク大学に留学されます。お父さんは何か言ってましたか。
【永守】アメリカはいいと。父の世代はアメリカが好きな人がもともと多いですが、父は創業当時、日本の会社で相手にされず、アメリカに営業に行ってチャンスをもらった経験があるそうです。「アメリカにはドリームがある」と好意的でした。
【田原】帰国後、日本電産に入社。父親の会社に入るのは、どうですか。
【永守】父に「いま一番勢いがあるのはここだ。勉強になる」と言われまして。でも、本音はコマが足りなかっただけじゃないかと。入社後、私は買収先の東北の工場で事業再生を担当しました。そのコマとして、身内がちょうどよかったようです。
【田原】わからない。どういうこと?
【永守】当時、日本電産は売り上げ5000億~6000億円の会社でした。一方、私が派遣された先は売り上げ20億~30億円。はっきり言って、そこを立て直すより為替が数円動いたほうが影響は大きい。だから、わざわざ幹部を派遣するほどではありません。かといって、事業再生ができる若手が社内にいるわけでもない。それで私に白羽の矢が立った。成功したらそれでいいし、失敗しても創業者の息子だったからで済みますから。
【田原】日本電産を2009年に辞めて、エルステッドインターナショナルという会社を立ち上げます。
【永守】父は日本電産を同族企業にしないというスタンス。私もその気はなくて、もともと修業するつもりで入れてもらった。どちらが言い出したわけでもなく、そろそろ免許皆伝だねということで独立しました。
【田原】普通と逆だ。創業者の多くは、子どもを外で修業させてから自社に入れる。それで、独立して何を?
【永守】私は“製造業LOVE”。製造業はヘッジファンドみたいに特殊な人たちの集まりではなく、博士を取るレベルの人からそうでない人まで、みんなが一緒に仕事ができる。そして世の中に大きなインパクトを与えられる。その意味で、とても尊い仕事。だから最初はメーカーをつくりたかった。ただ、メーカーを起業するにはお金や技術が必要で、いきなりは難しい。そこでまずはメーカーを応援する事業で起業しました。具体的には、小さなメーカーさんの海外進出を手助けする事業です。
【田原】その事業はいかがでした?
【永守】「メーカーズイン」というポータルサイトをつくって、上場企業1300社の経営者に「加入してほしい」と手書きのハガキを出しました。でも、返事をいただけたのは、名古屋でPC周辺機器をつくっているメルコホールディングスさん1社だけ。創業者の牧誠さんとはいまもおつきあいさせていただいていますが、ほかはなしのつぶてでした。
【田原】1社じゃビジネスにならない。
【永守】はい。失敗しました。外に出たい企業は20~30年前から出ていて、残っている企業は国内と決めている。じっくり需要を掘り起こしてやっていく余裕はなかったので、約1年後に事業を切り替えました。
【田原】そこからは何を?
【永守】電気関係の商社です。LEDなどの節電商材を海外に販売しています。この事業はいまも継続してやっています。
【田原】15年7月にMJIをおつくりになる。経緯を教えてください。
【永守】社長を務めるトニー・シュウとは以前から仕事でつきあいがありました。14年の年末にトニーと食事をしたとき、ロボットをやろうと声をかけられて、おもしろそうだなと。社会的使命といった大げさなものではなく、とりあえず楽しそうだからやりながら考えてみようという感じで一緒にやり始めました。
【田原】お金や技術者はどうしたのですか?
【永守】トニーも私も自分の会社がありますから、お金はある程度用意できました。生産は中国の工場に委託しています。つくるのに、ざっと2億円はかかりました。最初の資金だけでは足りなくなってきたので、いままた資金調達したところです。開発に関しては、優秀なエンジニアをどんどん雇っています。うちは日本語でしか求人を出していないのですが、なぜか外国人の応募が多く、台湾、香港をはじめ、アメリカ人、フランス人、そしてこんどインドネシア人が入ってきます。みんなすばらしい人たちですよ。現在、日本に15人。あと台北とソウルに人がいて、合わせて24~25人です。
■受付から電子決済見守りや防犯まで
【田原】お金と技術があって、委託先もあった。条件はそろいましたね。
【永守】自慢したいのですが、私たちは15年7月に会社をつくって、16年1月のラスベガスの世界的展示会であるCESでタピアを発表しました。そこまで半年。16年6月末に販売をスタートしたので、企画から販売まで1年というスピードでした。
【田原】すごいスピード感ですね。どうしてそんなに早くできたのですか。
【永守】逆に、他社はなんでそんなに時間をかけているのかと聞きたいくらいです。おそらく日本企業は、コピーされないような完璧なものをつくろうという発想なのでしょう。私たちはアジアの発想で、コピーされたらこっちもやり返すぞという勢いでやっています。
【田原】こういうロボットはほかから出てないのですか。
【永守】出す出すと言っている会社はアメリカを含めていくつかあります。でも、今日の時点で一般向けに販売されているのは、私たちのタピアと、シャープのロボホンだけかな。
【田原】何台くらい売るつもりですか。
【永守】今年中に10万台が目標です。仮に、企業の受付だけでも10万台を超える市場があります。さらにBtoBはさまざまな活用が考えられる。ある商社さんが全国の小中学校4万校と契約していて、教室でいえば100万クラスあるそうです。その1%にタピアを置いてもらえば1万台。ほかに塾なども考えられます。
【田原】将来はロボットだけですか?
【永守】購入してもらった後の世界で利益を生まないといけません。わかりやすいのは買い物でしょうか。タピアにはNFCがついていて、電子決済が可能です。さらにいまは視覚のAIの開発に力を入れています。
【田原】視覚のAI?
【永守】見たものをテキスト化するAIです。これができると、おばあさんが部屋で転倒したとき、それを目撃したタピアが家族に「おばあさんが倒れました」とショートメッセージを飛ばせます。あるいはいままで映像を巻き戻してチェックするしかなかった防犯カメラも、テキストでログファイル化されていれば簡単に調べられるでしょう。こうしたAIをタピア以外のロボットやカメラに積んでもらえば、大きなビジネスになります。
【田原】タピアはお払い箱ですか。
【永守】タピアは必要です。映像をテキスト化するAIは他社も開発していますが、私たちはロボットという武器があるので、実際にタピアに搭載してユーザーの反応を早くダイレクトに聞くことができます。それは他社にない強みです。
【田原】最後に一つ。ロボット事業で日本電産とタッグを組むことは?
【永守】関係はしたいですよ。でも、相手はいわゆる大企業。NECさんとか日立さんとつきあうのと同じぐらい難しいと思います。身内だからといってハードルを下げるような甘い父親ではありませんから(笑)。
■永守さんから田原さんへの質問
Q. 高齢になっても元気で働ける秘訣は?
永守さんのお父さんに聞いたほうが早いんじゃないかな。72歳だそうですね。まだお会いしたことがないですが、バイタリティ溢れる方だと聞いています。その血を受け継いでいる永守さんは心配いらないはずです。
質問にお答えすると、元気の秘訣は好奇心です。僕は新聞を6紙取っていて、各紙で違うことが書かれていたら、記者や関係者に直接電話して確かめます。わからないことを放っておけないタチで、待っていられないのです。
ちなみにジャーナリストの池上彰さんは、地方紙も含め10紙読むと言っていました。あの人も元気ですよね。知識の欲があると、人は年を取らないのかもしれません。
田原総一朗の遺言:知識に貪欲になれ!
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次回「田原総一朗・次代への遺言」は、dely 代表取締役 堀江裕介氏のインタビューを掲載します。一足先に読みたい方は、6月12日発売の『PRESIDENT7.3号』をごらんください。PRESIDENTは全国の書店、コンビニなどで購入できます。
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(MJI代表 永守 知博、ジャーナリスト 田原 総一朗 構成=村上 敬 撮影=宇佐美雅浩)
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