蓮舫代表「憲法改正はいつかきた道」
プレジデントオンライン / 2017年6月13日 15時15分
■求められる地道に信頼を取り戻す努力
【塩田潮】2012年12月の総選挙で大敗した後、旧民主党、民進党を通じて4年半、党勢は低迷したままです。昨年9月に党代表となって、民進党の現状をどう見ていますか。
【蓮舫(民主党代表)】民進党に対する信頼が十分に回復できない中、それでも「1強」政治は駄目なんだという思いを持って、専門性を有する仲間が権力と真摯に向き合っている状況です。候補予定者は常に解散に備えて活動していますが、解散が先送りされ続けているため、結果として体力が削がれているのは事実です。いずれにせよ、とにかく選挙で勝ちたいと思っています。
【塩田】党代表として幹事長人事で野田佳彦元首相を起用しました。
【蓮舫】私が参議院議員ですから、幹事長は衆議院議員にと思っていました。その上で、与党にある程度、パイプを持ち、官僚にもホットラインがあって、信頼を得ている人をと考え、お願いしました。国会運営を始め、 100%信頼しています。今、民進党に求められているのは地道に信頼を取り戻す努力だと思っています。この路線は支持率の急上昇につながらないのは承知していますが、一つ一つ埋め合わせていかなければいけない。野田幹事長は華やかに目立つ行動を取る方ではありません。私も抑えています。
【塩田】野田幹事長は首相在任中、12年に解散・総選挙を行って民主党大敗という結果を招き、「野党転落のA級戦犯」といわれました。
【蓮舫】評価には功と罪がありますが、私は功の部分に着眼しています。自民党政権が成し得なかった消費税増税を3党合意で決めました。党内で離反もあり、大きく揺れましたが、他方、多くの良識ある国民から評価されました。私はその部分はプラスにしていきたい。今、前原誠司元代表が会長を務める「尊厳ある生活保障総合調査会」(前原調査会)で、税の負担と行政サービスのあり方の見直しに関する総合的な政策をつくっています。3党合意のときに内閣にいた私たちだから提示できる国のあり方があると思っています。
【塩田】野田幹事長との交流はいつから、どういうきっかけで。
【蓮舫】私は04年に初当選しましたが、政治家になってからです。いろいろなグループと接点を持ちましたが、もっとも骨太な方というのが私の最初の感想です。
【塩田】2回目の安倍晋三内閣がまもなく4年半となります。
【蓮舫】強い政権ですね。第1次安倍内閣のとき、私は「消えた年金」問題で相当、向き合いましたが、あのときと比べると、辞任してよみがえり、今回は力強い意志があると思います。学習し、隙がない形で自分の政治を目指しています。憲法改正は、方向性が間違っていると思いますが、経済を牽引する姿勢には強いものを感じます。
「女性の活躍」と言って女性大臣を大量に起用してきましたが、2014年10月、松島みどり法相は公職選挙法違反の疑いで、小渕優子経産相は政治資金の問題で辞任しました。あのとき、文科相も政治と金の問題が出ていましたが、「お友だち」は守り、女性2人をばっさり切った。事実上、罷免です。その瞬間、強い意志の持ち主だけど、それは国民のためでなく、自分のためでしかないと見ました。要所要所でそうした自我の強さも出ています。
【塩田】2度目の安倍内閣は、安保法案成立後、どちらかというと、具体的な政策目標も明確ではなく、長期政権下で中だるみ、弛緩が目立つという感じもします。
【蓮舫】私たちの追及や指摘が世論に響かなかった面もありますが、旧民主党と旧維新の党が一緒になって民進党をつくり、衆議院で 100議席に近い数がまとまりました。予算委員会での質問時間がかなり確保できて、南スーダン派遣の自衛隊の日報の問題、文科省の天下り、森友学園疑惑などで力を発揮できた。野党を経験すればするほど質問能力は高まります。成果が今、つながり始めていますが、私はこのつながりを地道に続けるべきだと思います。
【塩田】安倍首相はアベノミクスを掲げてきましたが、安倍内閣の経済運営については。
【蓮舫】評価はできません。金融緩和を推し進めましたが、4年半たっても実体経済は動かなかった。安倍政権は、この4年間の税収増について、アベノミクスで法人も豊かになり、消費も伸びたと言っていますが、最も寄与しているのは消費税で、7兆円増えました。野田内閣で決めた税率引き上げの成果です。税収増を自画自賛するのは謙虚な態度ではないと思います。
安倍首相は「3本の矢」を唱えましたが、今や3本の矢があったかどうかも定かではない。的もなくなった。矢が届かないのではなく、実は射られてもいないと思う。「第2の矢」の財政出動も、どこに出動したのか。結果として国民を豊かにはしなかった。だから、物価が上がっても賃金が下がったら年金が下がるような法案を強行採決する。介護サービスの利用者負担割合を拙速に引き上げる法案を強行採決で決めています。結果と自画自賛の言葉の矛盾を許してはいけない。
■いつかきた道という危機感
【塩田】「第3の矢」の成長戦略がアベノミクスの成否を左右すると言われてきました。
【蓮舫】見えないんですね。農林水産品の6次産業化や外国人観光客のインバウンド効果について胸を張って強調していますが、始めたのは旧民主党政権です。安倍政権が独自に始めたものは何もない。民主党政権の焼き直しです。私たちは「3本の矢」は間違っていると力強く言わなければなりません。安倍政権は、都合のいいときは自分たちの継続性を口にして、都合の悪いときは私たちを批判する。ご都合主義は国民として残念です。
【塩田】安倍首相は「経済再生」を唱えてきましたが、狙いは別のところにあり、好調経済で長期政権を築いて、在任中に悲願の改憲の実現を、と考えていると見て間違いありません。5月3日には自ら独自のメッセージを発し、改憲に強い意欲を示しました。
【蓮舫】政権維持のツールとして経済をうまく利・活用したと思います。実際、スローガンは1年単位でくるくる変わりました。金融緩和政策を打ち続ける一方で、安保法案の強行採決です。憲法解釈を一方的に変更し、11本の法案を1本に束ねて集団的自衛権を行使できるようにしたのは、平和憲法を持つ国のトップとして、憲法を冒涜する行為です。
それでいて、予算委員会での質疑では憲法についていっさい答えず、「憲法審査会で議論を」と言う。憲法審査会は自民党と公明党の都合で開かれたり、閉じられたり、開かなかったりです。集団的自衛権で立憲主義を踏みにじり、今度は治安維持法ならぬ共謀罪です。言っていることと、やっていることがあまりにも違う。権力が強くなればなるほど、安倍さんの下で憲法改正をすれば、行き着く先はいつかきた道と危機感を抱いています。
【塩田】蓮舫さん自身は憲法についてどういう立場に立ち、どう考えていますか。
【蓮舫】国民の声にどこまで謙虚に丁寧に耳を傾けられるか。ここに尽きます。安保法案のときの反対のうねりや、さまざまな立場の人が首相官邸前で発言したのを見て、国民は憲法の尊さをすごくわかっていると思いました。専守防衛を破壊し、平和主義の根本を揺るがすような憲法改悪から第9条は絶対に守る、というのが国民の声と私は思っています。安倍首相は、教育基本法でも、自分の考える愛国心を教えるんだという権力者的な上から目線で、国民を信頼していないんだなとわかりました。国民の声がすべてです。
ただ、それ以外の財政再建のあり方や、子どもの人権、環境の条項、地方分権といった点では、われわれは去年、民進党の基本的政策合意をまとめたとき、必要な条文の改正を目指す方向でまとまりました。変えるべきを変え、守るべきものは守る。護憲だけの時代ではなくなったと思っています。
【塩田】安倍首相の最大の挑戦目標は改憲ですが、今、自身のカラーを出したいと思っているのは外交政策だと思います。「地球儀を俯瞰する外交」を唱えていますが。
【蓮舫】いろいろなところに外遊し、国民の税金を使って随分、気持ちよく経済支援を決めていますが、ばらまきの成果は? と問いたい。各国のトップと会って華々しくやっていると、成功しているかのような印象がありますが、実があるのかという点でトレースされていないところがあります。私たちも、成果は何か、あぶり出していかなければ。
■民進党の公認で戦う仲間を全力で支援する
【塩田】朝鮮半島情勢が緊迫化し、安倍首相の積極姿勢が目立っていますが、一方で、北朝鮮問題など、国民の目を外交にくぎ付けにして、国内で厳しい追及にさらされそう問題を意図的に回避しようとする作戦では、と見る人もいます。
【蓮舫】外交ですから、そうではないと願っています。ですが、時同じくして首相夫人の国会への証人喚問、森友の問題、閣僚の失言や暴言、自民党議員の不祥事などをすべて覆い隠した一方、北朝鮮情勢の緊迫化を極端にクローズアップしたのは偶然の一致ですかと言いたい。
【塩田】東京で小池百合子都知事の奮闘が注目を集めています。
【蓮舫】知事就任後、こんなに腐っていたのかと思える自民党に委ねていた都議会の失政をただそうとする努力は率直に評価します。小池都政については、民進党都議団は都議会与党宣言を、民進党東京都連も与党宣言をしていますので、進めようとする改革は共に進めたいという姿勢です。
過去に環境相として取り組んだ改革、環境をよくしたいという思い、新しい発案、柔軟性については、すごい人だなと思っていました。他方、かつて雑誌の鼎談で「核武装の選択肢は十分ありうる」などと発言された点では、私の考えと相いれない理論を持っていると承知しています。
【塩田】7月に都議選が控えていますが、現在の小池ブームの直撃を受けるのは民進党では、という声もあります。民進党を離党して小池グループに転じる動きも出ています。
【蓮舫】離党者が出たことは残念。民進党の公認で戦う仲間を全力で支援することに尽きる。地方自治ですから都連の問題で、組織論としては、公認も離党者の処分も基本は都連の権限。党に対するいろいろな声はしっかり受け止めないといけないと思いますが、組織論を越えてはいけないと思っています。
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民進党代表
1967(昭和42)年11月、東京都生まれ(49歳)。貿易業の台湾人の父と日本人の母の長女として生まれる。青山学院大学法学部公法学科卒業。大学在学中に音響機器メーカー・クラリオンのキャンペーンガール「88年度クラリオンガール」に選ばれる。テレビのワイドショーなどに出演した後、93~95年にテレビ朝日の報道番組「ステーションEYE」のメインキャスターを務める。93年に結婚。95~97年に北京大学に留学。2004年7月の参院選に東京選挙区から民主党公認で出馬して当選(以後、参議院議員3期)。09年10月、民主党政権で内閣府が設置した事業仕分けワーキンググルーブで農林水産省・文部科学省・防衛省担当となり、「仕分け人」として活躍して注目された。10年6月に菅直人内閣で内閣府特命担当相(行政刷新)に就任。11年9月に野田佳彦内閣でも内閣府特命担当相に起用された。民主党幹事長代行、代表代行を経て、16年9月の民進党代表選で前原誠司、玉木雄一郎を破って代表に就任。民進党では野田グループ所属。1男1女の母。
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(作家・評論家 塩田 潮、民進党代表 蓮舫 撮影=尾崎三朗)
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