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読売は"弱者をたたき、強者を助ける"のか

プレジデントオンライン / 2017年6月9日 15時15分

加計学園問題は国会で野党の追及が続き、安倍晋三首相は真相解明に消極的な答弁を繰り返している。そこで加計学園問題についての新聞記事を読み比べてみると、読売新聞の「弱気」と朝日新聞の「勢い」がよくわかる――。

■毎日コラムも「ヘンな記事」と指摘

各紙の社説に触れる前に、毎日新聞6月5日付夕刊の客員編集委員、牧太郎氏のコラム「大きな声では言えないが……」を取り上げる。

コラムは「5月22日、読売新聞朝刊に奇妙なスキャンダル記事? が掲載された」で始まり、「前川喜平・前文部科学省次官が歌舞伎町の出会い系バーに頻繁に出入りしていたことが関係者への取材でわかった」と続く。

記者会見を開いて「記録文書は本物だ」「行政がゆがめられた」と証言したあの前川前事務次官のスキャンダルだ。復習しておくと、記録文書とは、安倍首相の知人が理事長を務める加計学園の国家戦略特区への獣医学部新設計画に関し、文科省が特区担当の内閣府から「官邸の最高レベルが言っている」「総理のご意向だと聞いている」といわれたと書かれている文書のことである。

牧氏は「具体的な『犯罪行為』には触れていない。ヘンな記事だ! と思った」と指摘し、「《売買春の可能性がある風俗産業→そこに頻繁に通っていた元官僚→そんな人物の言い分を信じてはならない》の三段論法? だが、僕には『前川さんVS安倍内閣・読売新聞』の構図に見えてしまう」と述べる。なるほどその通り。

■「西山事件」を連想させる展開に

次に「あの『西山事件』を思い出した」と書いているが、この私(沙鴎一歩)も読売の記事を読んで西山事件を連想した。だから前回この欄で「下ネタで問題の焦点をぼかして相手を攻撃し、世論を見方にしようとする作戦はこれまでもよく使われた」と書いたのである。

牧氏のコラムによると、西山事件は第3次佐藤栄作内閣のときに起きた。ニクソン米大統領との沖縄返還協定に関する出来事だ。米国が支払うことになっていた「地権者に対する土地原状回復費400万円」を実際には日本政府が肩代わりする密約が結ばれていた。毎日新聞政治部の西山太吉記者がその密約をにおわす記事を書き、社会党議員に情報を提供した。社会党は西山記者が提供した外務省極秘電文のコピーを手に国会で追及。世論は佐藤内閣を強く批判した。

ところが、極秘電文を西山記者に流したのは、西山記者と親しい女性事務官だった。2人は国家公務員法違反の疑いで逮捕、起訴される。起訴状には「ひそかに情を通じ」という言葉が記載され、「週刊新潮」が2人の男女関係を報じると、世論は一変してしまった。

山崎豊子氏の小説『運命の人』のモチーフとなり、テレビドラマにもなっているから、ご存知の読者は多いだろう。それにしても「権力は恐ろしい」(今回の牧氏のコラムの見出しにもなっている)。

■読売は異例の「弁明」を掲載

毎日新聞の牧氏のコラムが出る2日前の6月3日付の読売新聞朝刊の第2社会面。ここに社会部長名で「次官時代の不適切な行動」「報道すべき公共の関心事」との見出しを付けた記事が出ている。牧氏が「ヘンな記事」と指摘した前川前事務次官の出会い系バー出入りスキャンダルの読売記事(5月22日付朝刊)についての弁明記事だ。いや、言い訳がましい記事に読めてしまう。

冒頭から「読売新聞の記事に対し、不公正な報道であるかのような批判が出ている。民進党の蓮舫代表らは、この問題について『極めてプライべートな情報』とも指摘した。しかし、こうした批判は全く当たらない」と主張する。

そのうえで「記者会見した前川氏は『私の極めて個人的な行動を、どうして報じたのか』などと語ったが、辞任後であっても、次官在職中の職務に関わる不適切な行動についての報道は、公共の関心事であり、公益目的にもかなうものだと考える」と述べる。

なるほど、その通りかもしれない。しかしながら、どうしてこの時期に記事にしたのか。もっと言わせてもらえば、なぜこの時期に前川氏の個人的情報をつかめたのだろうか。その情報を知っているのは、文科省の幹部ぐらいのはずである。

それに「青少年の健全育成や教職員の監督に携わる文科省の最高幹部が、違法行為の疑いが持たれるような店に頻繁に出入りし……」とまで社会部長が書くほど大ニュースならば、なぜ第1社会面のトップにするなど大きく扱わなかったのだろうか。

加計学園問題に関わる記録文書が大きなニュースになっているなかで、前川氏のスキャンダルを明らかにする以上、批判を受ける覚悟も必要ではないか。

■読売は弱気になってきた?

ここまで書き進めたところで、6月7日付の読売新聞朝刊の社説を見てみよう。

見出しが「獣医学部の要不要論を冷静に」である。なんとおとなしいではないか。書き出しも「獣医学部の新設手続きが適正かどうかは、冷静に議論すべきだ」と始まる。

社説の文中、「首相は、愛媛県今治市での学部新設について、自らの関与を改めて明確に否定した」と書いてはいるものの、「政府も、獣医学部新設を認めた理由や経緯の詳細について、より分かりやすく、積極的に説明することが求められよう」と述べるなど、それなりに客観的である。さらに社説の最後は「国家戦略特区は、地域を限定してさまざまな岩盤規制に例外を設ける制度だ。それだけに、行政手続きの透明性や公正性をしっかり確保しつつ、進めることが重要だ」とまっとうな主張を展開している。

これは想像だが、読売は少しばかり弱気になってきているのではないか。週刊誌では「権力にすり寄る」などと批判され、世論からも「保守色が強い」とみられている。今回の加計学園問題では特にその傾向が強い。

■「特ダネ」を出した朝日の勢いは強い

社外から批判に加え、社内でも意見が分かれているのだろう。新聞記者は本来、反骨精神が旺盛だ。強者をたたき、弱い者を助けるのを生きがいにしている。なかでも社会部の記者はその精神が強い。ここが政治部の記者と大きく違うところだ。それはどこの新聞社でも同じである。政治部と社会部の対立、社説を書く論説委員同士の対立など、あれだけの大新聞社だけにいろいろとあると思う。加計学園問題に関し、読売社説がどう変わっていくのか。おおいに興味がある。

最後にこの読売社説と同じ時期に書かれた他社の社説の見出しを挙げる。

「首相らの答弁 不信が募るばかりだ」(6日付朝日)、「事実解明進まぬ『加計』問題 首相の答弁姿勢を疑う」(6日付毎日)、「加計学園問題 説明責任は首相にある」(7日付朝日)、「加計学園問題 再調査を拒む不誠実」(7日付東京新聞)。

以上だが、5月17日朝刊の1面トップで「新学部『総理の意向』」「文科省に記録文書」との見出しを掲げ、記録文書の存在を明らかにする特ダネを出した朝日新聞の勢いは強い。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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