「相談役」が出世街道の目的地でいいのか

プレジデントオンライン / 2017年6月20日 9時15分

実力経営者が相談役に居座り、経営に強い影響力を持つ「院政」に批判がある。日本特有の企業文化であり、海外からは不可解な企業慣行に映る。なぜ相談役・顧問制度はなくならないのか――。

■実力経営者の居座る「院政」は悪か

企業の会長、社長が退任後に就く相談役や顧問に対する風当たりが強まっている。株主総会の決議なく選任でき、役割や責任が明確でないうえ、報酬や秘書など厚遇を受けるポストは海外から「不思議の国ニッポン」の不可解な企業慣行に映る。

それでも内部昇格型の人事が圧倒的な日本企業にとって、「論功行賞」から実力経営者を重んじる処遇に違和感は薄い。実際、今年注目された人事でもこの流れはとまらない。政府は企業に企業統治(コーポレートガバナンス)の強化を促しており、6月9日に閣議決定した成長戦略「未来投資戦略2017」で相談役・顧問の役職・地位、業務内容を開示する制度を創設し、来年初頭をめどに実施することを決めた。しかも、「東芝問題」が複数の相談役による経営への圧力が経営危機につながった経緯もあり、相談役・顧問の「不要論」も浮上している。相談役らのポストで特に批判されるのは、実力経営者が相談役に居座り、経営に強い影響力を持つ「院政」を敷くケースだ。不正会計に端を発し経営危機に陥った東芝は、まさにその典型例だといえる。

フジテレビジョンを傘下に収めるフジ・メディア・ホールディングスは、1988年にフジテレビ社長に就いて以来、約30年にわたり巨大メディアグループを率いてきた日枝久会長が6月下旬に相談役に退く。代表権こそ返上したが、取締役にとどまる。また、産経新聞社などを含む企業体「フジサンケイグループ」の代表の肩書はそのままで、影響力を一定程度保つことになる。グループ内では「実質的な院政を敷くのでは」との見方も多い。

武田薬品工業は、今年4月、創業家以外で初の社長を務めた長谷川閑史会長が6月の株主総会を経て会長を退任して、相談役になると発表した。2009年に会長を退いた創業家出身の武田國男氏は退任後、相談役や顧問にも就かない潔い身の引き方が際立っただけに対照的だ。同社の株主は相談役廃止を提案しているとされ、6月6日にはクリストフ・ウェバー社長名で、長谷川氏の相談役就任について「年間報酬は現在の12%ほど」「社用車、専任秘書はおかない」という異例の見解を公表している。 6月下旬の株主総会での行方が注目される。

■相談役制度の廃止した企業も

一方で、企業統治強化の動きを先取りした企業も表れている。今年、J・フロントリテイリングや日清紡ホールディングスなどは相談役の廃止を打ち出した。しかし、こうした対応は一握りに過ぎず、制度を“温存”する企業が圧倒的だ。

実際、経産省が大企業約2500社を対象にした調査では、企業の約6割は相談役・顧問が在職中で、日本企業には相談役・顧問制度が深く根付いている実態を裏付けた。さらに相談役・顧問の役割は「現経営陣への指示・指導」が最多の回答となり、経営への隠然とした影響力をうかがわせた。

経産省の有識者研究会はこの調査を受けて今年3月、企業が相談役の職務内容や就任の経緯などを開示すべきとする報告書(「CGS研究会報告書」)をまとめ、今回閣議決定した成長戦略に盛り込んだ。企業統治向上に取り組む日本取締役協会の会長を務めるオリックスの宮内義彦シニア・チェアマンは、相談役設置について「全部が悪いというわけでもない。(是非は)企業のガバナンスの主体が判断すべき」と指摘する。

他方、議決権行使助言会社の米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズは、今年の株主総会で 機関投資家に相談役・顧問制度に反対を推奨する。経済同友会も5月に同制度の廃止を提言した。6月は3月期決算企業の株主総会が集中する。世界で通用する企業統治が求められるなか、相談役・顧問の存在は果たして「無用の長物」か。改めてそのあり方が焦点になりそうだ。

(経済ジャーナリスト 水月 仁史)

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