「競争戦略」商機と勝機は"日陰"にあり

プレジデントオンライン / 2017年7月18日 8時45分

「稼ぐ力」の軸足に注目すると、企業は「オポチュニティ企業」と「クオリティ企業」に分けられます。成熟した日本で主役となるのは後者です。『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)などの著書がある一橋大学大学院の楠木建教授は、後者の代表例として「ピジョン、ほぼ日、ユニクロ」をあげます。楠木教授の講演抄録、前後編の後編をお届けします――。

※以下は2016年8月の講演「長期利益の源泉を考える:オポチュニティとクオリティ」の抄録です。講演の全編は、慶應丸の内シティキャンパス「クロシング」にて公開中です。

■ピジョンは生後18カ月までの商品しか作らない

代表的なクオリティ企業として紹介したいのが、育児用品メーカーのピジョンだ。日本のみならず中国でもトップブランドであり、高い値段の商品でも売れている。売れている理由は一番良い哺乳瓶を作っているから。これだけ聞くとよくある「ものづくりだけの企業」だ。だが、ピジョンは背後にある経営と戦略ストーリーのクオリティが高い。

哺乳瓶というのは、エンドユーザーが商品に対する意志を表明できない商品だ。哺乳瓶を使った感想を言う赤ちゃんはいない。そのため、ユーザーに価値を分からせることは簡単ではない。そこでピジョンは一番重要な顧客接点を産婦人科と定め、共同で研究開発に取り組み、最高の哺乳瓶を作った。それによって、産婦人科の医師が商品の良さを一番分かっている状態になり、親にもうまく伝わっていくという仕組みを作ったのだ。クオリティ企業の「クオリティ」が意味するところは、単なる“モノ”ではないのである。

ピジョンがユニークなのは、18カ月以上の子供に向けた商品を出さないところだ。早い段階で顧客ベースを作り、成長段階に合わせてライフイベントを取っていく戦略もあるが、ピジョンはその逆を行く。理由は、18カ月以降は、言語、食生活、ライフスタイル、宗教といった文化の違いが発生するからだ。逆に言えば、18カ月以前であれば、世界中どこへ持っていっても良い哺乳瓶は「良い」と思われる。開発に投資をしてもグローバルに売れて報われる。その結果として、長期利益を獲得できる。独自の価値があるものを作れば必要とする顧客も増え、売上高が伸びてグローバル化もできるということだ。

■日本がクオリティ企業を目指すべき理由

成熟は経済の必然だ。成熟経済下にある日本ではオポチュニティはそれほど自然には発生しない。多くの日本企業はクオリティ企業を目指すべきだと考えている。

オポチュニティ企業はポートフォリオ経営をしており、「こうなるだろう」というロジックを立てる点で「投資」と近い。対して、クオリティ企業は文字通り「事業」のロジックで動く。「こうなるだろう」ではなく、「こうしよう」「こうやって儲けよう」という意思表明としての戦略が勝負のカギを握る。

「クオリティ企業=中小企業」ではない。オポチュニティをつかんで急成長、というわけにはいかないが、立ち位置をはっきり定めて、そこで戦略に磨きをかけることによって、独自の価値を作り、営業利益率10%以上をたたき出す。これがクオリティ企業のイメージだ。例えば日本の自動車産業にはクオリティ企業がそろっている。トヨタはもちろん、ダントツに利益率が高いスバルもまた日本を代表するクオリティ企業だ。

■「ほぼ日」が手帳で儲けられる理由

私が所属する一橋大学では、「ポーター賞」という、優れた戦略で高い成果を出している企業を表彰する活動をしている。すでに十数年続けているが、ポーター賞の受賞企業はそのままいまの日本で元気なクオリティ企業のリストになる。

その一つが2012年度に受賞した東京糸井重里事務所(現:株式会社ほぼ日)だ。メディアを運営しているが、その稼ぐ力は物販の商売にある。扱っているのは手帳や土鍋、腹巻き。商品のカテゴリーで言えば、ほとんどオポチュニティがなさそうなものばかり。なぜそれで儲かるのか。独自の価値を作る戦略があるからだ。

「ほぼ日」というメディアは、即時性の高いニュースは追わず、生活の中での人間の動機に注目して記事を発信する。そこには人々が滞留するコミュニティーができる。動機のやりとりを継続することで人々が必要とする商品がわかる。それを自社開発し、提案するのがほぼ日のやっていることの正体だ。明確な動機を持つ顧客は、共感を伴って商品を買い、その使用経験をコミュニティーで共有するようになる。結果的に少数のロングラン商品が生まれる。優れた戦略が生み出す独自価値が利益となって結実するというクオリティ企業のひとつの好例である。

■クオリティ企業が注目するのは「日陰」

私が儲かるロジックとして面白いと考えているのは、「逆オポチュニティ」だ。その時点での旬のオポチュニティが日差しだとすると、オポチュニティ企業は日向(ひなた)をいち早く捉えて集まってくる。しかし、日向だけにプレイヤーが大勢押し寄せて競争が厳しくなり差別化も困難になる。むしろ、商機と勝機は「日陰」にある。

ファーストリテイリングは日陰に目をつけたクオリティ企業だ。洋服の世界は、流行が当たれば儲かる、外れればボロ負けというレースを繰り返している。そこでZARAの創業者であるアマンシオ・オルテガさんが生み出したのが、「はじめから売れているものを作る」というファストファッションだ。この戦略のイノベーションが「ファストファッション」という大きな産業になり、多くの新規参入業者をひきつけた。

■原点にあるのは「誘引」ではなく「動因」

ファストファッションが日向だとすれば、ファーストリテイリングの柳井正さんは日陰に注目した。競馬に例えるなら、みんなが競技場でレースをしている中で、牧場に行ったということだ。絶対に勝てる馬を自分たちで育てる。勝てる馬しか出走させない。3年かけてヒートテックを作り、東レと組んで素材開発からサプライチェーンを組み挙げていく。これはZARAに代表されるファストファッションが見過ごしていた価値創造であり、日陰ゆえに自分たちのクオリティの作りどころを見いだす優れた戦略だった。

最後に紹介したいのは、買い取り専門という新しい戦略を中古車業界に持ち込んだガリバーインターナショナル(現:IDOM)だ。伝統的な中古車販売業は、買った車を売ったときにお金を取るビジネスモデルだが、車は種類も色も走行距離もさまざまなため、マッチングが難しい。買い取った車の3割が売れれば御の字で、残りの7割はBtoBのオークションに流れる。ガリバーの場合は消費者から買うところまでは同じだが、そのままBtoBのオークションに出す。もちろん展示場もいらず、営業マンもいないためコストが下がる。それ以上に重要なのが、買い取った商品が不良在庫になるリスクから解放されるということである。

創業者の羽鳥兼一さんは、従来型の中古車業を50歳過ぎまでやっていた。自分の展示場に「激安販売」と「高価買取」の両方の看板を掲げていることに違和感を持ちながらも、「中古車屋とはそういうものだ」と思ってやってきたという。だがある時、「売らなければいい」と思いついた。どんな業界にも、見て見ぬふりをしている矛盾があり、それが日陰だ。この日陰こそが戦略ストーリーの淵源(えんげん)になるのだ。

高度成長期は帆船でいい。帆を上げて追い風を受ければガンガン進めるからだ。だが、これからはエンジンが必要だ。原点にあるのは誘引(incentive)ではなく、動因(driver)である。オポチュニティ企業の誘引は外部環境から生まれるオポチュニティにある。これに対して、クオリティ企業のエンジンは、企業が内部でつくる戦略にある。

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※こちらの記事は慶應丸の内シティキャンパス(慶應MCC)「クロシング」の講演抄録です。クロシングは、定例講演会『夕学五十講』から厳選した講演映像を、いつでもどこでも視聴できるオンラインサービスです。詳細はこちら(https://keiomccxing.com/)
 

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(一橋大学大学院 国際企業戦略研究科教授 楠木 建 構成=飯田 樹)

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