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あくまで「米国中心」を願う日経の世界観

プレジデントオンライン / 2017年7月24日 9時15分

トランプ米大統領の就任から半年がたった。世界はどう変わったか。保守的な日本経済新聞が、社説で「大統領任期はあと3年半あるが、何もせずに下降線をたどって終わるのではなかろうか」と大胆な予測をしている。その背景には、「力強いアメリカ」と「それに付き従う日本」という世界観が投影されている――。

■「就任半年」でも何も進まない現状

7月20日付の日本経済新聞と東京新聞の社説がおもしろい。2紙の社説のテーマはともに「トランプ米大統領就任、半年」である。このテーマ自体はありきたりだが、大国アメリカ抜きの世界を真剣に考えている。しかも東京はともかく、保守的な日経が「トランプ政権によって米国の存在感が消えた」とまで言い切っているのだ。

日経と東京の社説を中心に読み解きながら「今後、日本はトランプ氏とどう付き合っていけばいいのか」について考えてみたい。

■「いまほど存在感を失った米国は記憶にない」

日経の社説から見ていこう。「米国が超大国になって1世紀になる。『米国第1』はいまに始まったことではない。国益にしがみついて無謀な戦争を始めたり、金融市場を混乱させたり、と世界を振り回してきた」と前置きしてから「だが、いまほど自国に引きこもり、存在感を失った米国は記憶にない」と指摘する。

そのうえで「『米国抜きの世界』が本当にやって来たともいえる。私たちはこの新しい秩序、いや、無秩序にどう向き合えばよいのだろうか」と疑問を提示する。

それゆえ見出しも「『米国抜き』の世界が本当にやってきた」なのだろう。

ただ分からないのは「無秩序」という表現である。ここで言う無秩序とは混乱状態を指すが、アメリカが第1主義に走るそのこと自体が無秩序なのか、それともアメリカが世界の政治や経済から姿を消すと結果的に世界が無秩序になるのか。そのどちらだろうか。

日経のこれまでのスタンスから判断すると、後者だろう。日経にはアメリカにこれまでのように力を持っていてほしい、力強い姿を見せてくれという願望があると思うからだ。

■「何がしたいのかがわからない」

少々脇道にそれてしまったので話を戻そう。

続けて日経社説は「トランプ米大統領が就任して半年を迎えた。メディアとしては、ここがよい、ここが不十分だ、とそれなりの通信簿をつけるタイミングである」「残念ながら、トランプ政権はありきたりの論評にはなじまない。長所や短所を探そうにも、そもそも何がしたいのか、誰が主導しているのかがよくわからない」と書く。

社説でアメリカの大統領を「何がしたいのか、誰が主導しているのかがよくわからない」とまで書いた新聞社がこれまでにあっただろうか。

「アメリカの内外で非難されるトランプ大統領だから」と言ってしまえばそれまでだが、経済を専門に扱う日本の保守的大手新聞がここまで書くというのは、それほどトランプ政権が支持を失っている証しなのだ。

■ロシアゲート疑惑で暴走し、何もせずに終わる

日経社説はその中盤でトランプ氏をこうも批判する。

「政権の発足の前後、トランプ氏の一挙手一投足は世界中の注目を集めた。ツイッターの発信が多い米国時間の早朝に画面を見守る役職を設けた国もあった」

「最近は読むに値する発信はあまりない。政権半年の節目に『米国製品を買おう』運動を展開したが、その程度のことで米製造業がよみがえるわけがない」

「『北米自由貿易協定(NAFTA)を破棄する』『中国を為替の不正操作国に認定する』『医療保険制度改革法(オバマケア)を廃止する』――。これらの主張はどこに行ったのか。公約で本当に実現したのは、環太平洋経済連携協定(TPP)と温暖化に関するパリ協定からの離脱くらいだ」

さらには「トランプ政権は何もせずに終わる」などと次のように厳しく指摘する。

「共和党主流派との折り合いが悪く、政策の推進力はほぼない。ロシアゲート疑惑に足を取られ、もはや暴走すらしないかもしれない。大統領任期はあと3年半あるが、何もせずに下降線をたどって終わるのではなかろうか」

日米は終戦以来、強い絆で結ばれてきた。その日本の新聞にここまで批判されるのだから、トランプ大統領がこの社説を読んだら愕然とするだろう。もし安倍晋三首相が新聞社説からこれだけ批判を受けたら、怒りのあまり卒倒することは間違いない。

■日本は欧州やアジアとの連携を深めたい

後半で日経社説は「ギャラップ社の世論調査で16日時点の支持率は39%。6月に記録した37%よりましだが、上向く気配はない」と分析し、「もはやトランプ氏の顔色をうかがっても仕方がない」と言及する。

そして最後に「日本はどうすればよいのか。欧州やアジアの主要国との連携を深めることだ。国際秩序の漂流を少しでも食い止めるために」と書いて筆を置いている。

なるほど。アメリカ以外の多少力のある国々と仲良くすることを目指せというわけだ。そうすれば国際秩序が整うはず。これが日経社説の主張だ。

やはり前述した通り、日経新聞は、アメリカが世界の政治や経済から姿を消すと世界が無秩序になることをかなり心配しているのである。

■米国第一主義は「偉大な米国」の復活に逆行する

次に東京新聞の社説を読み解いていこう。

東京社説は「小さくなる後ろ姿を見送る思いだ。トランプ政権が発足して20日で半年。国際舞台から米国の退場が続く。米国第1主義は、目標の『偉大な米国の復活』には逆行することを大統領は悟るべきだ」とリード(前文)を置く。日経社説同様、厳しい指摘である。

ちなみに東京社説は他紙と違い、きちんとリードと本文を分けて書いている。

東京社説はその中盤でキューバなどの中南米諸国とアメリカとの関係を云々する。

まず「トランプ氏は6月、オバマ前大統領の融和政策を見直し、制裁を再び強化する方針を打ち出した。(オバマ氏の融和政策によって)両国のヒト、モノ、カネの往来は急増し、観光業をはじめ米企業にも大きな商機をもたらした。トランプ氏はこの流れを逆戻りさせようとしている」と指摘する。

そのうえで「トランプ政権誕生後、対米観は中南米でも大幅に悪化した。米調査機関ピュー・リサーチ・センターが37カ国で行った世論調査によると、ブラジルでは2年前は73%の人が米国に好意的だったのが50%に急落。メキシコの場合は30%と、半分以下に減った」と中南米での対米観の悪化を強調する。

■支持層だけに顔向け、万人の指導者ではない

この後、「トランプ氏がキューバ政策転換を発表した場所は、大統領選の重要州であるフロリダだ。カストロ体制に反感を抱き、融和に反対するキューバ系移民を前に演説した。支持つなぎとめが狙いだったのは明白である」と最後の主張に続ける。

「(地球温暖化対策の国際的枠組みの)パリ協定離脱も支持基盤の炭鉱労働者向けの政策だ。トランプ氏は一貫して自分の支持層だけに顔を向けている。万人の指導者の姿ではない」

「国際社会は米国抜きの秩序を模索し始めた。自国の存在感が急速に薄れていくこと、それが米国自身の損失であることをトランプ氏は自覚してほしい」

この主張を読むと、日経社説と同じように「国際社会での米国抜きの秩序」を重視し、5月の先進7カ国(G7)首脳会合、7月の20カ国・地域(G20)首脳会合などアメリカが抜けても、世界は今後、アメリカの存在なしで世界の秩序を保っていく覚悟をしなければならないことが、よく伝わってくる。

■ロシアゲートへの分析が足りない朝日社説

やはりトランプ政権の今後を考えるうえで欠かせないのがロシアゲート疑惑だ。日経社説も「足を取られる」と断言しているが、ここではトランプ氏とロシア・プーチン大統領の初会談を扱った7月10日付の朝日新聞の社説を読んでみる。

見出しは「米国とロシア 建設的な大国関係を」である。社説の真ん中辺りで「昨年の米大統領選の際、ロシアがサイバー攻撃などで介入したとの疑惑については相当の応酬があったようだ」と指摘しているが、「トランプ政権はこの疑惑で揺れている。ロシア側に懸念をぶつけたのは、米国民向けの演出の側面が大きかっただろう」と解説する。

朝日社説にしては分析が足りない。多くの読者は、釈然としない思いを抱くはずだ。それだけロシアゲート疑惑が本物の事件になるのが難しいのか。

共和党のニクソン米大統領を失脚させたウオーターゲート事件とは違い、ロシアゲート疑惑は「決定的な証拠に欠ける」というのが専門家の見方である。

朝日社説は「両国はこの会談でサイバー安全保障に関する作業部会をつくる合意をした。世界が不安を抱えるサイバー問題に取りくむ姿勢を米ロが示す意義は少なくあるまい」とロシアゲート疑惑にはこれ以上言及せず、曖昧な論評に終わっている。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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