「北のICBM」暴走とめる方法はあるか
プレジデントオンライン / 2017年8月2日 9時15分
■朝日社説は書き出しから“中ロ”に注文
「中国とロシア」というタイトルに「北朝鮮の抑制に動け」との見出しを付けるのは朝日新聞の社説である。
「いまの事態を本当に憂慮しているのなら、北朝鮮の友好国である中国とロシアは具体的な行動をもって、最大限の努力を尽くすべきである」と冒頭から中国とロシアに明確な注文を付ける。「中国とロシア」というタイトルを付けているだけある。
さらに「ICBMの発射は今月4日に続き2回目とされる。今や射程は1万キロ超ともいわれ、脅威はアジアにとどまらない」と書き、そのうえでこう指摘していく。
「大量破壊兵器の開発に国力を注ぐ金正恩(キムジョンウン)政権の異常さに国際社会は憤りを募らせている」
「ところが国連安保理の動きは鈍い。最初の発射への対応についても意見がまとまっていないのは憂慮すべき事態だ」
「国際社会が声をひとつにして北朝鮮に反対姿勢を示せない責任は、中国とロシアにある」
中国とロシアに責任があるとの論の展開である。かつて共産圏の中国や旧ソ連を賛美した朝日新聞のスタンスとは真逆である。時代が変われば全てが変わる。当然かもしれないが、そこを深く考えることが大切だとこの沙鴎一歩は思う。
■なぜ中国に対して明確な批判をしないのか
話を朝日社説に戻す。
ロシアに対しては具体的に「貨客船『万景峰(マンギョンボン)号』の定期航路を開くなど、ロシアは最近、北朝鮮との関係を強めている。安保理で米国などがめざしている新たな制裁決議についても、反対の立場を変えていない」と指摘し、「もしロシアが北朝鮮への影響力を対米外交の駆け引きに利用するならば、常任理事国として無責任というべきだ」と厳しく批判する。
また中国には「中国外務省はきのう、ミサイル発射について『安保理決議と国際社会の普遍的な願いに背いた』と非難した。確かに中国は北朝鮮への締め付けを強めてはいる。2月には北朝鮮の主要な外貨獲得手段である石炭の輸入を止めた」と書いたうえで、「だが、中国の税関によると、今年上半期の北朝鮮への輸出は前年に比べて30%近く増えた。中国側は禁輸リスト外の貿易と主張するが、統計上は近年、輸出がないとされる石油を、実際にはどの程度供給しているのかも明らかにすべきだろう」と指摘する。
朝日社説のロシアへの批判は分かりやすいが、中国への指摘は何を言いたいのかよく分からない。朝日には、中国に対して明確な批判ができない事情でもあるのだろうか。
■「自国優先主義」が国際社会を硬直化
後半で朝日社説は北朝鮮に対し、こう主張している。
「北朝鮮はかつて、中国と旧ソ連の間を行き来する『振り子外交』を繰り返した。大国の力を利用して打開策を探りつつ、結局は自主路線を強め、現在のいびつな体制を作り上げた」
「北朝鮮が本当に危機感を抱くのは、日米韓に中ロが加わり、行動をともにする時である。核とICBMは国際社会全体を脅かす以上、中ロも安保理の新たな決議に同調すべきだ」
中国とロシアを含めた国際社会が、1つになって北朝鮮にものを言う。なるほどとは思うが、現実はそう動かない。各国とも外交では自国の利益を最優先するからである。
■対北での朝日と読売の微妙な違い
読売新聞の社説も「国際社会による圧力強化に向けて中国とロシアは責任を果たさねばならない」と中国とロシアに注文を付けるものの、「圧力強化」という言葉を使う。
具体的には後半で「問題なのは、中露が依然、制裁強化に抵抗していることだ」と指摘し、「ロシアは、発射されたのは中距離弾道ミサイルで、ICBMではないと強弁する。中国は、北朝鮮の体制の不安定化を懸念し、原油の供給制限などには消極的だ」と書く。
さらに「数々の決議に違反する北朝鮮の弾道ミサイル発射を放置することは、安保理の権威を貶(おとし)める。中露は、実効性のある新たな決議を受け入れるべきだ」との主張を展開する。
通常、朝日のスタンスは理想主義で、読売は現実路線をとる。今回の異常な北朝鮮の暴走には、朝日も読売も厳しい批判を加えている。
ただし、そこには微妙な違いがある。読売社説が「圧力強化」「制裁強化」という明確な言葉を使っているのに対し、朝日社説は「統計上は近年、輸出がないとされる石油を、実際にはどの程度供給しているのかも明らかにすべきだろう」という分かりにくい表現を使っている。やはり朝日には、なにか事情があるのだろう。
■「発射地点と時刻も異例だった」
次に毎日新聞の社説。見出しは「看過できない技術の進展」だ。どんな技術が看過できないのかと読み進めていくと、たとえばこう次々に指摘していく。
「発射地点と時刻も異例だった」
「今回は軍需工場の多い北部慈江道(チャガンド)から初めて発射した。最近は発射地点を次々と変える傾向がある」
「『衛星打ち上げ』を名目にしてきた以前の長距離ミサイルは特定の大型施設からしか発射できなかった。だが、移動式の長距離ミサイルを深夜に短時間の準備で発射できれば米国の意表を突くことができる」
「いつでも、どこからでも、より遠くに届くミサイルを発射できるようになった可能性がある。北朝鮮のミサイル技術の着実な進展は看過できないレベルに至っている」
なるほど。「いつでも、どこからでも、より遠くに届くミサイル」だからこそ、もう見過ごせないのはよく分かる。しかしながら社説としての主張は読み取れない。朝日や読売は「国連安保理の決議を受け入れろ」と中国とロシアに注文をつけていたが、この毎日社説は事実の解説にとどまっており、残念である。
■次は日本列島をまたいで太平洋か
一般的にICBMの場合、「大気圏再突入」と「核弾頭小型化」が、技術的に難しいといわれる。
大気圏への再突入時に7000度にも達する高熱や激しい振動から弾頭を守る必要があるからだ。再突入時に入射の角度が浅ければ、大気圏にはね返される事態も起きる。
北朝鮮側は「過酷な大気圏再突入でも弾頭の誘導、姿勢制御が正確に行われた。高温条件でも構造的安定性が維持された」と主張している。しかし北の発言をどこまで信頼できるか。「大気圏再突入の技術は完成していない」と推測する専門家もいる。
北朝鮮は高角度のロフテッド軌道発射を繰り返している。通常の斜めの角度による発射に比べて再突入技術を検証しにくい難点がある。
軍事専門家は「大気圏への再突入の技術を完璧なものにするため、新たなICBMを、日本列島の上空をまたぐような軌道で、太平洋に発射する可能性がある」と指摘する。
この専門家によれば、ICBMに搭載される核弾頭の小型化も進められ、近く核実験を行うだろうという。
■日米は朝鮮半島沖で戦闘訓練
岸田文雄外相兼防衛相は7月30日、「航空自衛隊のF2戦闘機が30日午前中に九州西方から朝鮮半島沖の空域で、米空軍B1戦略爆撃機と共同訓練を実施した」と発表した。
挑発行動を続ける北朝鮮への牽制であり、28日深夜のICBMの発射から2日後の早さだった。
岸田氏は訓練の目的について「日米共同対処能力および部隊の戦術技量の向上を図るために訓練を実施した」と述べた。
この発言に加え、「特定の国や地域を念頭に置いて実施したものではない」と説明したうえで「北朝鮮の動向については重大な関心を持ち、情報の収集に万全を期したい」と語った。
■北朝鮮と同じ土俵で勝負するな
北の脅威に素早く対応するのはいいだろうが、脅しに対し、脅しで対応するのはいかがなものか。「目には目を、歯には歯を」という有名な言葉もある。だが北朝鮮と同じ土俵で勝負していたのではいつまでたっても勝負は終わらない。終わらないどころか、核戦争まで起きかねない。そうしないためにはどうすべきなのか。
この沙鴎一歩にも正しい方法は分からない。しかし国際社会が己の利害を抜きにして真剣に行動する必要があることだけは確かだ。朝日や読売の社説が主張するように、現時点では中国とロシアに最大限の努力を尽くし、責任を果たしてもらうしかない。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩 写真=AFP=時事)
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