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「1本200万」ロシア系点滴に群がる人々

プレジデントオンライン / 2017年9月28日 9時15分

写真はイメージです

「幹細胞医療ビジネスのパーティーへ行きませんか?」。そんな誘いを受けて、コラムニストの辛酸なめ子さんが都内のホテルを訪ねると、日本では未認可という「1本200万円」の点滴を海外で打った人々が「若返り自慢」を繰り広げていた。ロシアの美人医師が解説した内容とは――。

■受付は金髪美女「幹細胞パーティー」にお呼ばれ

先日、都内のホテルで不思議なイベントがある、とテレビ番組で共演したことのある男性の知人からお誘いがありました。何でも「幹細胞医療関係のパーティー」とのことで、素人ながらも興味を引かれて参加してみました。

受付に並んでいたのは、金髪白人の美女たち。会場のポスターには、このパーティーを主催している会社は日本やベトナム、シンガポール、タイ、マレーシア、ロシアなどでビジネスを展開している、とありました。

手渡されたプログラムには「10:30 宴会場のドアが開きます。ゲストは座席を取る」と、外国語からの直訳のようなシュールな文面が記載されていました。この会社が提供するのが「メディカルサービス」だと思うと一抹の不安を感じます。

▼自慢合戦「点滴1回で20〜30年若返った」

会場にいるお客さんは100人ほど。中高年の男女が中心です。会話の内容を察すると医療関係者が多いようで、いかにも富裕層っぽい雰囲気でテンション高めに語り合っていました。

「3本(点滴を)打ったらすごい若返りました」
「点滴1回で20〜30年若返りますよね」
「この会場は美人が多い! みんな若返ってるんでしょうね」

あまり自覚していませんでしたが、私も「若返り」というワードに弱いのでしょうか、思わず少し前のめりに。「STAP細胞」にアンチエイジングの望みを託せない今、幹細胞に賭けるしかないのか……。私を含む「幹細胞点滴」未経験者の目はキラキラ輝いていました。

■幹細胞ビジネスの社長は「プーチン感」の漂う外国人

幹細胞ビジネスの会社の社長は某国の大統領に似ており、いわば「プーチン感」の漂う精悍な外国人男性。「幹細胞治療は全世界で進んでいます。医療業界はパラダイムシフトを迎えます」などとおっしゃっていました。

そして実際に治療を受けた人々が壇上で報告。すべて日本人の男性でした。

「弟が(点滴を)受けたんですが、20歳くらい若くなって、ハゲていたのに毛が生えてきました。男性機能も復活しました。モテて、逆に家庭不和になりそうですが……」

続いて肌がツルツルの男性患者の報告。
「私はずっと化学物質過敏症に悩んでいました。いろいろ試しましたが効果がなく、わけのわからない病気にはわけのわからない治療が良い、と思って点滴を受けました。2、3度繰り返すとドラマティックに変貌し、もう症状はありません」

イラスト=辛酸なめ子
▼髪の毛も生え、便通が良くなる点滴 1本200万円也

またもや年齢不詳の男性の報告。
「幹細胞(の点滴)を打つ前、右手の親指が動かなかったのですが、それが2カ月で動くようになりました。髪の毛も生えてきて、便通も良くなり、睡眠もよくとれるように。首を動かしてもピキッといわなくなりました」

また、別の男性の話。
「どんな薬でも治らなかった小児ぜんそくが治り、前立腺肥大だったのも3回の(点滴)治療で良くなりました。視力も悪かったのが、点滴を入れて寝て起きて目を開けると、目が良くなっていて世界がこんなにすばらしいのかと感動しました」

など、万能すぎる幹細胞。これだけ全身に効果があるのならさぞお値段も……と思い、知人に聞いたら「1回200万円くらいです。日本では認可されていないので、アジアだとベトナムやマレーシアで点滴を受けなければなりません」。この知人の男性もすでに打っていてすこぶる体調がいいとのことですが、この価格は私には明らかにハードルが高すぎです。

■「アンチェジング」「再生医療のバイオニア」などの誤字

ロシア人の美人医師による解説もありました。

細胞は体に入ると、どこに「協力」が必要なのかがわかり、損傷している場所に誘導されて到達するそうです。これを「ホーミング」と呼ぶのだと説明していました。

「人間の前に、動物でチェックしているので全然問題ございませんです」

たどたどしい通訳さんの話がまたちょっと不安にさせますが……。

ちなみにパンフレットも、日本語のフォントがずれていたり、文字の間にスペースがあったり、「アンチェジング」「再生医療のバイオニア」など誤字が散見されました。この会社に大金と体を託した人々の勇気をたたえたいです。

▼幹細胞のドナーは10〜20代の若いロシア人

いただいた資料には、この夢のような幹細胞治療についての説明文がありました。

写真はイメージです

それによれば、「幹細胞」という言葉の生みの親は意外なことにロシア人。ある組織学者が1908年にこの単語を提唱して以来、ロシアで再生医療は発展を遂げ、30年前に幹細胞の技術を確立したとのこと。

さらに、体内に注入する幹細胞は年を取った人のものよりも若い人の幹細胞のほうが効果ありとのことで、この会社では10〜20代の若いロシア人ドナーの幹細胞を使用しているそうです。

点滴によって、若いロシア人の幹細胞が2億個以上体内をかけめぐり、血流やリンパの流れに乗って必要な場所に定着するそうです。私はてっきり、幹細胞は移植手術しないと定着しないと思っていましたが、点滴だけで取り入れられるとは……負担 はなさそうです。処女の生き血の風呂に入っていたといわれる楊貴妃のような気分が味わえるかもしれません。

しかし自分の中に、若いロシア人の細胞がいきわたると、健康になるだけでなくさまざまな影響がありそうです。まず、寒さに強くなったり、急にウオッカを飲みたくなったり……。自分の人格がだんだん変わっていきそうな不安もあります。そうなるとドナーの健康チェックだけでなく人格的にもすばらしい人かどうか調べてほしいです。

一部の経済力と勇気のある人だけが試せる幹細胞医療。

海外で点滴を受ける覚悟ができない私は、若い人と交流して若さを吸収する、という原始的な手法を続けていきたいと思いました。

*本コラムへのご意見や、取り上げてほしい身の回りの気になるヒト・モノ・コトがありましたら、下記URLにぜひお寄せください。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdKgResspYB2rqe3TXr52qJfMq9RJtgGE-wx9UIH1L4s7Hk5A/viewform

(漫画家/コラムニスト 辛酸 なめ子)

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