小池百合子独占手記「政権構想を語ろう」
プレジデントオンライン / 2017年10月13日 9時15分
■大義なき解散を希望に変えてみせる
衆院選の公示が10月10日におこなわれました。安倍晋三首相は「国難突破解散」と銘打ち、9月28日に衆議院を解散しましたが、何のためにいま選挙をしなくてはならないのか、私はいまだに理解ができません。「大義なき解散・総選挙」というのが私の実感であり、おそらく国民の多くの方も首をかしげておられると思います。
安倍首相が解散総選挙を表明した9月25日、私は新党「希望の党」を結成し、代表に就任いたしました。「大義なき解散」とはいえ、日本にとってむしろ大きなチャンスです。日本が現在抱えている問題を洗い出し、将来を見据えた成長戦略に本腰を入れるために、国としての基本姿勢をリセットする絶好の機会となるからです。
新党立ち上げからわずか数日で、日本中に大きなうねりが湧き起こりました。ここ数年間、いかに日本が「安倍一強」政治に対してほかの選択肢を持たなかったか、その表れではないでしょうか。一方で新党結成と私の代表就任に関しては、実にさまざまな臆測が飛び交っています。これまでもメディアの前で私の考えはご説明してきましたが、ここで改めて私の決意と、今回の決断に至る背景をお話ししましょう。
■25年前の「日本新党」結成に賛同した理由
私にはある原体験があります。25年前の1992年、私は細川護熙氏の日本新党結成に賛同して政界に転身、国会議員になりました。当時も今回の状況と同じく、わずか数人で始まった新党でしたが、やがて大きなオーケストラとなり、政権交代を実現するまでに成長したのです。新党は硬直した政治を打破する起爆剤になる、そのエネルギーを実感した瞬間でした。
しかし新党の難しさは、それを持続させることにあります。93年に38年ぶりに自由民主党からの政権交代を果たした細川連立政権でしたが、その後の北朝鮮情勢の悪化や、安全保障政策に関する議員たちの立場や考えの違い、また細川氏自らの金銭的問題なども絡み、政権は1年を経ずして瓦解。
私が今回の新党結成にあたり、候補者選びに細心の注意を払い、安全保障政策や憲法改正に対する基本的な考えを確認したいとこだわるのは、当時の政権瓦解を目の当たりにしているからです。当時“非自民”で結束していた8党会派は「ガラス細工」と揶揄されたものです。
今回の選挙でも、「自民党政権を終わらせる」「安倍一強時代を終わらせる」というスローガンのもと異なる党派が結束するのはいいですが、一時の利害にだけ目がいき、国の命運を分ける安全保障政策や憲法観という重要テーマにおいて基本姿勢が異なる人々が手を取り合っても、いずれ問題が紛糾することは目に見えています。
ましてや現在、北朝鮮情勢は極めて厳しいものとなっています。いざというときに、右だ左だと大騒ぎして大事な決定が遅れれば、日本にとって取り返しのつかない事態になるでしょう。議論のための安全保障政策、誰かに反対する争点としての憲法観ではなく、極めてリアルに現実問題に即した考えを持つ同志を求めます。その思いを共有できる仲間として、14名の国会議員が「希望の党」立ち上げのチャーターメンバーとして集結したのです。
■都知事と党首、兼務可能な根拠あり
さて、では具体的な「希望の党」の政策について見ていきましょう。私たちは、政治、社会、経済、環境・エネルギー、憲法改正の5本柱を政策の中心に据えています。なかでも喫緊の課題としていくつか代表的な事案についてお話しいたします。
まず、皆さんの日々の生活に直結する経済の問題からです。私たちは「消費増税凍結」を掲げています。
安倍首相が推進してきた「アベノミクス」政策はいまだ道半ば。大企業を中心に収益は回復の傾向を見せ、雇用指数も改善しつつあるものの、それはあくまで統計上の数字においてのみ。一般家計において所得が大きく上向いているわけではなく、非正規雇用も依然として多いのが現実です。
日々の生活費が人々の財布に大きな負担をかけているなか、ここでさらに消費税を10%にまで引き上げられたらどうなるでしょう。税収はアップしても、経済の柱である個人消費は確実に冷え込みます。「増税前の駆け込み需要が期待できる」と見る人もいるかもしれませんが、従来、そこで期待できるのは主に住宅建設分野です。
■もっとも知事報酬の低い知事
しかし、全国的に空き家問題が噴出しているなかで、さらに新しい住宅やマンションを建設して一時的な経済効果を求めるのは、将来的な視点に欠ける浅はかな行為でしかありません。ショック療法的な一時の効果に期待を寄せるのではなく、持続的で長期的な視点に立った経済政策が必要です。
また、国民に負担をかける前に、政治家たちにできることはもっとあります。具体的には「議員定数・議員報酬の縮減」です。私自身は現在、47都道府県のなかでもっとも知事報酬の低い知事として働いています。都知事に就任した時点で、都知事報酬をスパンと半額にする条例を提出し、可決されました。その結果、都知事より都議報酬のほうが高額になる逆転現象が生じ、その後都議報酬も2割削減が実現されました。
もちろん都議や国会議員の報酬を何割かカットしたところで、国庫が急に豊かになるわけではありません。しかし、これは政治を担うものの姿勢や覚悟の問題です。議員自ら身を切る改革をしてこそ、ようやく国民の皆様にも負担をお願いできるのであり、その順番は間違えてはなりません。
ましてや、ここ最近の国会議員たちの相次ぐ不祥事を見れば、「こんな議員ばかりもうたくさんだ」とうんざりしてしまう国民が増えるのも当然です。その際たるものが、いわゆる「もりかけ問題」です。いまも謎につつまれたままの森友、加計両学園問題ですが、国家戦略特区活用自体は素晴らしい構想でも、あのような問題が出てしまってはマイナスでしかありません。
■「徹底した情報公開」を実現させる
私たちは「しがらみのない政治」を訴えていくと同時に、「徹底した情報公開」を実現させていきます。ちなみに東京都では、今年9月から公金支出に関する情報をすべて一括してホームページに掲載しています。その情報量は年間約70万件。膨大な量に上りますが、データをきちんと管理し公開していくことは、都民の税金を預かる立場の人間として当然のことではないでしょうか。
日本国憲法改正に関しても、とかく9条問題にのみ焦点が当てられ、護憲か改憲かの議論に終始しがちですが、憲法は9条だけではありません。この国をどうやって守り発展させていくか、人体でいうならば骨格となる大切な存在が憲法であり、世界の潮流が刻一刻と変わっていくなかで、健全に議論する作業は欠かせません。たとえば、1票の格差問題や地方分権問題に関しても、現行憲法では存分に網羅しきれていません。9条に限定されず、世界を見渡す広い視野に立って、日本の将来の可能性を語りつくすべきです。
さて、この原稿を書いている時点で、アメリカのトランプ大統領は法人税率を現行の35%から20%に引き下げる税制改革案を発表しました。片や日本では、法人実効税率を現行の29.97%から2018年には29.74%まで下げることが決定していますが、その数字はギリギリ20%台をアピールするためのもので、アメリカのダイナミズムには到底太刀打ちできません。
このままでは日本はあらゆる面で世界から取り残されて辺境の一国になってしまう、そんな危機感を私は強く持っています。
「これから日本はどうなってしまうのか」「自分の老後は、この子たちの未来はどうなってしまうのか」、そんな不安な思いが蔓延する日本から、希望をもって明日を歩める日本へ。その思いから「希望の党」と名付けました。
都知事と国政政党の代表を兼ねることに対して不安の声も聞かれますが、そもそも自民党の代表である総裁と、一国の総理を兼ねることも同じではないでしょうか。立場に限定されることなく、日本に希望の灯をともすべく、国政改革をしていきたい。私はこう考えております。
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1952年生まれ。カイロ大学文学部社会学科卒業。テレビ東京『ワールドビジネスサテライト』などでキャスターとして活躍。92年政界に転身し、環境大臣、防衛大臣などを歴任。2016年、東京都知事に就任。
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(東京都知事 小池 百合子 構成=三浦愛美 撮影=原 貴彦)
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