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あの"聖心"の女子寮が貫く"秘密のルール"

プレジデントオンライン / 2017年10月31日 9時15分

不二聖心の校舎

「お嬢様学校」として有名な聖心女子学院。その姉妹校である不二聖心女子学院(静岡県裾野市)は、生徒の4割が寄宿舎に入っている。偏差値的には難関校ではないが、指定校推薦枠が充実している上智大学に1割以上の生徒が進学するなど進学実績は手堅い。中学受験塾代表の矢野耕平氏は「入学後の精神的な成長が早い。『お買い得』な学校だ」と評価する。今回、矢野氏が同校を訪ね、徹底取材した。その「寄宿生活」の実態とは――。

■「聖心」の寄宿舎に入ってみると……目からウロコ

日本全国には寮制(寄宿舎)を備えた中学・高校が数多くあることをご存じだろうか。中高一貫校情報サイト「シリタス」によれば、私立中高一貫校の約130校が何らかの形で「寮制」を導入しているという。

寮の形態はさまざまだが、いわゆる通学生が一人もいない「全寮制」の私立中高はほとんどない。多くはごく一部の生徒が入寮する形態をとっている。たとえば、甲子園常連校の中には「硬式野球部員」だけを入寮させている学校がある。あるいは、男子寮のみ備えていて、女子は全員通学生というところもある。いずれにせよ、子供たちは入寮すると、長期休暇期間以外は自宅へ戻ることはない。

近年は「寮制」を導入する地方の私立中高が、東京で中学入試を実施するケースが増えている。

以下に東京で中学入試をしている代表的な学校を挙げてみたい。

【男子校】
函館ラ・サール(北海道)、静岡聖光学院(静岡県)、西大和学園(奈良県)など
【女子校】
札幌聖心女子学院(北海道)、函館白百合学園(北海道)、盛岡白百合学園(岩手県)、不二聖心女子学院(静岡県)など
【共学校】
秀光中等教育(宮城県)、佐久長聖(長野県)、早稲田摂陵(大阪府)、如水館(広島県)、土佐塾(高知県)、愛光(愛媛県)、早稲田佐賀(佐賀県)、長崎日本大学(長崎県)など

そんな寮制を導入している中高にあって、異彩を放つ女子校が富士の裾野にある。静岡県裾野市の不二聖心女子学院中学校・高等学校は全校生徒の4割が「寄宿舎」に入っているが、生徒たちは「週末帰宅型」のスタイルをとっている。これは珍しい。

▼なぜ寄宿生活を送ると精神的な成長が著しいのか?

私は東京で中学受験塾の代表を務めているが、この学校に興味をもったのは、寄宿舎生活を送っている生徒の精神的な成長が、寮のない他校へ進学した子よりも著しく早く感じられたからだ。

小学生のときには自分を前面に出せずにいて、何だか頼りなくみえた子が、中学生になって塾へ顔を出した際、ハキハキと自分の意見を言えるようになっていて驚かされた。

「週末帰宅型」の寄宿舎生活には、どんな成長の起爆剤が隠されているのだろうか。この学校はこれまで関係者以外は学内に入れないといううわさがあったが、思い切って学校へ取材を申し込んだところ、趣旨に賛同いただき、寄宿舎も見学することができた。

全国でも珍しい「週末帰宅型」の寮生活の詳細をリポートしよう。

 

■お嬢様学校「聖心」は“お買い得”だった

不二聖心女子学院(以下、不二聖心)は周囲を山々に囲まれている。眼前には学校所有の茶畑が広がり、大自然の中に風格の漂う学び舎が立ち並んでいる。その敷地面積は約21万坪。東京ドーム約15個分に相当する広さがあるという。

不二聖心は、東京にある「聖心女子学院」の姉妹校。聖心女子学院といえば、良家の子女が通うカトリックのお嬢様学校として有名だ。皇后美智子様が中学から大学まで通われた学校としてもよく知られている。

学校が所有する茶畑「不二農園」とチャペル

この不二聖心の「入り口」は意外に高くない。首都圏模試センターの「2018年中学入試予想偏差値(合格率80%)」によると、偏差値は45となっている。

一方、大学合格実績はその入り口から考えると目を見張るものがある。系列の聖心女子大学には全校生徒の48%が進学しているだけでなく、12%は指定校推薦の充実している上智大学に進学している。その他の進学先を見ると、医療系学部に進む子もかなり多い。また現役進学率は97%と高い。いわゆる難関校ではないものの、大学進学実績は極めて高い「お買い得」な学校と言えるだろう。

学年定員は70名と少人数制の学校だが、近年は 首都圏からの受験者が増えているという。今春、東京の入試会場には132名の受験生が集まった。2年前の受験生が89名、昨年は129名だったことを考えると、少子化の影響で大苦戦している「中堅女子校」の中ではかなり健闘している。

▼約4割の生徒が送る「週末帰宅型」の寄宿生活の花園

聖心女子学院の創立者である修道女のマグダレナ・ソフィア・バラは「聖心はひとつの大きな家庭です」ということばを残している。不二聖心が「寄宿舎生活」を取り入れているのは、このことばを実践するための試みのひとつだという。

先述したように、不二聖心は「週末帰宅型」の寮制を導入している。つまり、平日は学校の寄宿舎で共同生活を送り、土日は自宅に帰ってすごすのである。そのため、寄宿生の条件として「自宅から通学4時間以内」とされている(保証人制度により4時間を超える地域からの入学が認められるケースもある)。全校生徒の約4割が寄宿生で、年々その割合は高くなっているという(実際、中1生はその半数以上が寄宿生だった)。

なぜ不二聖心は「週末帰宅型」なのか。その理由を5点にまとめて説明したい。

■なぜ偏差値45のふつうの子が有名大学へ進学するか?

▼寄宿舎のメリット1「親子関係が劇的に改善」

「寄宿舎生活をはじめたら、なんだか父がこれまでとは違い優しくなりました」

そう笑うのは、東京都品川区に自宅がある中学3年生。そばでそのことばにうなずいていた神奈川県平塚市に自宅がある中学2年生はこう言い添える。

「いままでは家族って当たり前の存在でしたが、寄宿舎生活をはじめてそのありがたみを改めて知りました。だから、土日の親子の会話は本当に多くなりましたし、かえっていままでより家族と仲良くなりました」

また、別の生徒は、寄宿舎生活を送るようになってからは、土日に家族で出かける機会が格段に増えたという。愛知県豊橋市に自宅のある高校2年生は過去を振り返って話してくれた。

「そういえば、小学校のときはことあるごとに母親に反抗していたのですが、寄宿舎生活を始めてからは、そんなことがなくなりましたね」

ちょっと距離を置いたからこそ、子は親のありがたみが、親は子の大切さが、改めて身に染みて感じられるようになるのだろう。生徒指導主事を務める野村春美先生は言う。

「たとえば、週末に親子げんかをしてその関係がこじれそうになったとしても、平日に寄宿舎生活があれば『冷却期間』をつくれます。寄宿舎でも携帯電話を禁じていますから、気軽に連絡をとることはできません。その分、いろいろと考えられる時間が生まれます。たとえば、『なんであんなことを言ってしまったのだろう』と反省することもできる。結果として、親子関係がうまくいくケースがよくあります」

▼寄宿舎のメリット2「他者に依存しないたくましさが身に付く」

「そういえば、いまは学校から親に電話することなんてなくなりましたね」

東京都世田谷区に自宅がある中学3年生はそうほほ笑んだ。入学当初は毎晩のように校内の公衆電話から家に電話をかけていた。が、半年ほどでホームシックの状態は嘘のように消えたという。

彼女はこう話す。「寄宿舎生活をはじめるまでは、なんでもかんでも親の言う通りに行動していたのですが、ここにきてからは一日の計画をすべて自分で考えて実行できるようになりました」。

また、山梨県河口湖町に自宅がある中学1年生はこう語る。

「わたしは早起きするのが苦手だったのですが、いまはそんなことはありません。寄宿舎に入ってからは規則正しい生活が送れています」

洗濯はランドリーコーナーにて全員自分でする

そういえば、寄宿舎の中には「ランドリーコーナー」や「スタディルーム」などが設けられている。彼女たちは親の力に頼ることなく、洗濯や掃除をはじめとした「家事」、そして学習面についても自らの手でマネジメントしていくのである。このマネジメントは「自立」と言い換えてもよいだろう。

野村先生は胸を張る。

「寄宿舎での生活は、『苦手だからやらない』というわけにはいきません。でも、やり続けていくうちに何とかできるようになりますよ」

■なぜお嬢様の卵は25時30分まで起きているか?

▼寄宿舎のメリット3「苦手な人とのコミュニケーション能力向上」

寄宿舎での人間関係は「濃い」ものになる。

四六時中互いに顔を合わせているのだから当たり前だろう。在校生たちに取材していると、「自分の意見をはっきり表明するようになった」と異口同音に言う。寄宿舎で共に過ごす友人は単なる「友だち」ではなく、「家族」であるからだろう。

長年、生徒たちを見守っている野村先生はこう語る。

「寄宿舎は基本的に気を遣い合う生活です。だから、他人の状況や気持ちを推し量る能力にたけていくようになりますね。あと、卒業生たちが言うのは、『知らない話でもついていける』『それほど仲良くない人でもちゃんとコミュニケーションできる』。そういう点が寄宿生活で得られたメリットだと感じているみたいです。これは社会に出ると本当に役立つと言いますね」

そして、野村先生は次のようなエピソードを付け加えた。

「高校3年生が寄宿生活で悩むのは夕食の時間です。夕食は一つのテーブルに中1から高3までの『縦割り』で席につきます。すると、最上級生である高3がその場でどんな話題をふるか、どう盛り上げているか、あまり親しくない下級生であってもいかにコミュニケーションを図っていくか。何より下級生から『つまらない上級生』であると思われたくない(笑)」

▼寄宿舎のメリット4「スマホ禁止! 学力を高められる環境」

東京都目黒区に自宅のある高校1年生は、寄宿舎では勉強がはかどるとうれしそうに言う。

「家に帰っちゃうと、ついパソコンやスマホに手が伸びたり、テレビに見入ったりするのですが、寄宿舎ではそもそもスマホは禁止です。周囲もちゃんと勉強しているし、自分も『あ、しっかり勉強しなきゃ』という気持ちになります」

取材に応じてくれた中高生と寄宿舎の寝室の様子

寄宿舎の中では「スタディルーム」と「寝室」が完全に分離している。スタディルームには生徒1人につき1台の机が与えられている。このような空間づくりが生徒たちにけじめのある生活習慣を生み出しているのだろう。

「だから、テスト期間中は家に帰りたくないって思ってしまうんです」

そう言って笑うのは、高校3年生の子。

そういえば、学校が配布している「寄宿舎手帳」をチェックすると、高校2年生と高校3年生は希望すれば、それぞれ25時、25時30分まで勉強できるという。睡眠不足に陥ることはないのだろうか……と不安になったが、よく考えるとここは学校と直結した寄宿舎である。自宅通学の生徒たちと比べると、朝はゆっくりと過ごせるため、その分夜を有効に活用できるのだろう。

 

■「かわいい子には旅をさせてお嬢様にするべし」

▼寄宿舎のメリット5「現代の家庭環境にマッチしたシステム」

「寄宿舎」などというと、ちょっと古めかしいと思う人がいるかもしれない。実際、不二聖心女子学院の寄宿生活は、ヨーロッパの伝統的なボーディングスクールに準じている。しかし、取材の帰り際、広報主任の長谷川貴子先生がこんな話をしてくれた。

「最近はご両親共働きのご家庭が増えています。朝から晩まで仕事に追われていて、子どもが自宅にいたとしても、平日はコミュニケーションをとる時間など全然確保できないご家庭があるでしょう。ならば、平日にわたしたちがお子さんをお預かりして、土曜日と日曜日にわが子とたくさん触れ合う機会を設けてもらう。そんな親子関係もいいのではないでしょうか」

寄宿舎の寝室で友だちと語らう

なるほど、たしかに「寄宿生活」は現代の家庭環境とマッチしているといえるかもしれない。

「かわいい子には旅をさせよ」ではないが、お子さんの受験校候補に「寮制」の学校を組み入れることも考えてみてはいかがだろうか。お子さんが強くたくましく成長するきっかけになるかもしれない。

 

(中学受験専門塾スタジオキャンパス代表 矢野 耕平 写真=矢野耕平)

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