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すべての第3子に「1000万円」を支給せよ

プレジデントオンライン / 2017年10月31日 15時15分

ナガセ 社長 永瀬昭幸氏

今年9月、経済協力開発機構(OECD)が加盟33カ国の教育費の公的支出割合を発表した。日本は下から2番目の32位だったが、家庭の私費負担を合わせれば平均を上回るという。つまり公立学校では不十分なため、多くの家庭が子供を塾に通わせているのだ。予備校大手ナガセの永瀬昭幸社長は、こうした教育費の負担が少子化の原因として、「すべての第3子に『1000万円』を支給せよ」と訴える――。

■東進がはじめた実践的英語学習

この夏、東進ハイスクールでは英米TOP20の名門大学生約100名を指導者として招いて、「グローバル・イングリッシュキャンプ」を全国各地で実施しました。

参加したのは約1500名の高校生で、この5日間は日本語禁止。スピーキング・エクササイズに始まり、1日目の終わりからはグループディスカッションを繰り返します。

今年のテーマは、例えば、東京オリンピック・パラリンピックの精神やホスト国への様々な影響、そしてその成功にどのように貢献できるか。また、国連の17項目からなる持続可能な開発目標から1項目選び、その解決策を考える。など日本語でも難しいと思える課題について、英語でディスカッションし、その内容をまとめ、プレゼンテーションします。

そして最終日にはMy Life Missionと題して、自分の将来の夢や志について皆の前で堂々とスピーチして締めくくるというプログラムです。わずか5日間ではありますが、生徒たちに自信が生まれ、英語に対する意識そのものが大きく変化することを確認できるイベントです。

■予備校のイメージとは異なる教育

この活動は、教室に集まった生徒に対して講師が一方的に受験のテクニックを効率よく伝えるという一般的な予備校のイメージとは異なるものだと思います。私どもは「独立自尊の社会・世界に貢献する人財を育成する」という教育目標のもと、飛躍的な学力向上と志望校合格の実現はもちろん、将来、社会で大活躍するために必要な人間力を育む指導を行っています。

今回の「グローバル・イングリッシュキャンプ」は、世界の舞台で活躍するために不可欠な英語スピーキング力を早期から鍛えるために、2年前からスタートさせたもので、年々規模が拡大しています。

これは私どもの東進の指導の一例にすぎません。東進と言うと、現代文の林修先生をはじめとする実力講師陣の授業をイメージされる方が多いと思いますが、授業は学力を伸ばすための手段のひとつです。

■「人間7分、学力3分」と「郷中教育」

東進の教育力の源泉は、受験の神様と呼ばれた故・入江伸先生が提唱した「人間7分、学力3分」という教えです。将来、大活躍する人財になるためには、学力だけではだめで、人間力が最も重要であるということです。私どもは、人間力を高めるための様々な取り組みを行っていますが、重要なのは「自分の人生をどう生きるのか」、「何のために勉強するのか」という問いに自分なりの答を見つけることです。そのために、生徒には志作文を書いてもらい、自分の将来の夢・志を深めるきっかけにしてもらっています。やる気の源となる夢・志が固まれば、自然と勉強に対するモチベーションも高まるものです。

もう一つ東進の指導の特長が、東進卒業生のOB・OGが後輩である生徒の指導にあたる担任助手制度です。

これは、私の故郷の鹿児島に、江戸時代から伝わる集団教育システム「郷中教育」をもとにしています。郷中教育とは年長者が少し年少の子どもたちを教える仕組みです。子どものころから年少者を教えることで人を指導することを学び、また年長者の行いを見て、自分の関心やリーダーの資質を知るようになります。

東進の担任助手は、東進で志望校合格を果たした大学生の先輩です。年齢の近い兄貴分・姉貴分とディスカッションしたり、アドバイスをもらうことで、1年後、2年後の自分を想像することができ、今何をすべきかを自ら導けるようになります。

また、受験生は互いにライバルであっても、実は切磋琢磨する同志でもあります。大人は教えるときに答えを教えてしまいますが、生徒同士で教え合えば、ディスカッションが始まります。大人に答えを教えてもらうより、生徒同士、議論、討論して、答えを導き出す経験を経て、その子には腑に落ちるという感覚が持てるようになる。その感覚が知識となる瞬間なのです。

■短所矯正型教育の限界

このように、次代のリーダーを育成するために人間力を育む教育を行っているからこそ、東進から多くの難関大現役合格者を輩出することができるのだと考えています。

リーダー育成のためには今の日本の「短所矯正型」の教育では難しいと痛感しています。現在の日本の教育は、英語、数学、国語、理科、社会など総合的、平均的に学力を付けさせることにとらわれ過ぎていると感じます。これでは、苦手な科目を集中してやらされるので、興味や関心の広がりがなく、得意分野もせいぜい受験問題で満点をとる程度の力しか身に付きません。

これと逆の考え方が、「長所伸長型」の教育です。例えば数学が得意な子には、さらに数学を伸ばすように教えている。不思議に思われるかもしれませんが、こうした教育を受けた子は、数学以外の教科もどんどん伸びるようになります。

数学が得意になればなるほど、勉強自体が楽しくなり、興味が横に広がっていき他の教科にも前向きに取り組むようになります。

もっと知りたいという知的好奇心から、あらゆる文献を読むようになると読解力がつきます。海外の論文まで読み解こうと英語も理解していき、情報収集力はけた違いに増していく。もちろん情報の取捨選択もできるようになります。

さらに情報が集まれば集まるほど、本物とは何かを知るようになるでしょう。そうなれば謙虚にその道のトップリーダーに師事したいと考えるようになっていき、何事にも真剣に取り組むようになっていきます。謙虚な姿勢こそ、リーダーに必須の人間力の証と言えるでしょう。日本の教育に「長所伸長型」を取り入れるときが来ているのではないでしょうか。

■子どもたちが明るいイメージを持てない国

国も重い腰を上げ、教育改革を推し進めています。2020年度には「大学入学共通テスト」の開始、英語の4技能外部試験の導入など大学入試が大きく変わります。

この教育改革がこれまでの知識偏重から、深い知識を前提とした、論理的課題解決力、発信力などのリーダーの素養を磨く場となることを願っています。

夢や志の大切さを指導する中で感じるのが、今の生徒たちが将来に明るいイメージを持っていないことです。考えてみれば、私たちが子供の頃は高度経済成長期の最中であり、明るい未来を簡単にイメージできました。

ところが、今の子どもたちは、バブル崩壊後の先行き不透明な時代しか知りません。国家財政の危機や少子高齢化などの課題が山積した今の日本で、どうして明るいイメージが持てるのでしょうか。

その中で、私が最も懸念していることは人口減少です。人口が増えれば、明るく活気ある社会をイメージできますが、人口が減っていく現状ではそれも難しいでしょう。2016年、出生数は98万人となり、記録に残る1899年以降、初めて100万人を切りました。

今の人口減少のトレンドをそのまま続けて行けば、日本は消滅してしまう。今や「日本人は絶滅危惧種」という言葉まで飛び出している現状は、我々の代で返上したい。そう強く考えています。

■1000万円の投資で2億円を回収

日本にとって少子化は将来の経済や社会保障など国の基盤を蝕む非常にセンシティブな問題です。逆にこの問題さえ解決すれば、再び希望を持って暮らせる社会が作れるかもしれません。だからこそ何とかしたい。

私のアイディアは「第3子以降の出生に対して国が1000万円の奨励金を支給する」というものです。

16年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの数)は1.44でした。「十分な教育を施すためには、子ども1人が限界」と子育て世帯が考えているのであれば、人口は減る一方です。

人口が増加に転じるためには、子育て世帯が3人の子どもを育てることが望ましい。そこで第3子以降の誕生に1000万円のインセンティブを与えるわけです。これにより親の子どもへの教育費の問題は大幅に解消され、第3子まで生もうと考える夫婦は飛躍的に増えるでしょう。

また経済効果も大きい。おおむね国民は生涯に収める税金は約2億円。たった1000万円の投資で、2億円が回収できる計算になります。

さらに出生を促進するためには、第2子に対しても何らかのインセンティブが必要かもしれません。

■ビジネスのための提案ではない

塾の経営者である私が少子化問題の解決策を語ると、「自分のビジネスのために我田引水を謀ろうとしているのだ」とお叱りを受けるかもしれません。

しかし、業界トップシェアを頂戴している東進ハイスクールでも、実はまだ国内シェアは15%ほど。国内の教育市場のポテンシャルはまだまだ十分にあるので、私は自分のビジネスのことを心配しているわけではないのです。

自民党の特命チームは、幼児教育から大学までの無償化に年間5兆円から10兆円の予算が必要で、これを教育国債によって賄おうという案を提示しています。いずれにせよ、こうした議論が盛んになってきたことを私は嬉しく思います。 

すべからく教育を無償化するのがいいのか、第3子以降の出生に1000万円を支給するのがいいのか、またはもっといい政策があるかもしれない。私の案も、今の人口減少をどう食い止めるのか、議論のきっかけになることを願っています。

■団塊世代の果たすべき責任

私は現在、69歳。団塊の世代と呼ばれ、高度成長期を通して、経済的な恩恵を受け続けた世代でもあります。

今、日本は国債の発行残高が1100兆円ある。国債で国家予算を賄い始めたのが福田赳夫蔵相時代の1965年。私が17歳のころです。この6年後に私は三鷹市に「ナガセ進学教室」を開講しました。以来、当社の連結売上高450億円に達し、日本経済のGDPは、おおよそ15倍となりました。しかしその過程で日本の借金は1100兆円にまで膨らんだのです。

我々団塊の世代は日本社会で生きた中で、1100兆円のインセンティブを受けています。この世代としてのメリットを如何に次世代に継承するかを考えるべき時です。

人口減少を食い止めるために、最も大きなインセンティブを受けてきた我々の世代が奮闘しないとならないと考えています。そうでなければ生徒たちに「人間力を磨け」などと、どの面を下げて言えるのでしょう。

未来のリーダーを育てるという本業に加えて、人口減少をどう食い止めるのか、これからも提言や活動を続けて行きたいと思います。私の提言が、長期的な視野に立った思い切った政策の呼び水となり、国民全体で考えるきっかけとなれば幸いです。

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永瀬昭幸(ながせ・あきゆき)
ナガセ社長
1948年、鹿児島県生まれ。・東京大学経済学部在学中の1970年にナガセ学習塾を開校。74年卒業後、野村証券入社。76年ナガセ設立。東進ハイスクールや東進衛星予備校、四谷大塚などを全国に展開する。

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(ナガセ社長 永瀬 昭幸 取材・文=プレジデントオンライン編集部 撮影=門間新弥)

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