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中流家庭でも余裕「医学部入学」の奥の手

プレジデントオンライン / 2017年11月8日 15時15分

*医学部の定員はここ10年で約1800人も増えた

私立大学医学部の学費は高い。日本一学費の高い大学は川崎医科大学(岡山県倉敷市)で、6年間の総額は4550万円だ。しかし、年収600万円ほどの「中流世帯」でも、子供を医学部に進学させることは十分可能だという。100以上の病院を渡り歩いたリアル「ドクターX」と呼ばれるフリーランス麻酔科医の筒井冨美氏が、その方法を解説する――。

■偏差値は上昇の一途だが、学費は下降化している

今、医学部受験が空前のブームとなっている。

日本経済は、依然、労働者が景気回復を素直に実感できるとは言いがたい状況だ。かつてのように「東京大学を出たら年収1000万円は確実」とは限らない世の中だが、医師免許は今なお「年収1000万以上」が期待できる日本で唯一の資格ではないだろうか。

しかも、国公立大学の学費は全学部同額なので6年間の学費総額は約350万円とお得感が大きい(後述するように私立大医学部は少なくとも2000万円以上)。ここ10年間、医学部の定員が1700人以上も増え、受験生が急増した結果、医学部入試の偏差値は上昇する一方で、「地方の国公立大医学部≒東京大・京都大の非医学部」となった。

これは「センター試験の得点率が85%以上、一科目でも取りこぼしがあるとアウト」という厳しい水準である。さらに、首都圏の国公立大の医学部に限ればセンター試験の得点率は軒並み90%以上が求められる超難関だ。また、地方の医師不足を受けて、地方の国公立大の医学部は卒業後、地域の病院において臨床研修の義務のある地域枠を増やしている。札幌医科大学(北海道札幌市)が2018年には90名(定員110名)を地域枠に充てるなど、首都圏からの一般学生が受験可能な地方医大定員は減る一方である。つまり、地元在住の受験生にとっては、首都圏の私立大学医学部と併願する経済的に余裕のある家庭の受験生が少なくなる分、多少なりとも合格しやすくなっているとも言える。

▼金持ちでなければ医学部はムリというイメージはもう古い

一方、私大医学部と言えば、今なお「学費総額5000万円!」「開業医の跡継ぎじゃないとムリ」というイメージがあるとも聞く。だが、これはいささか古い考え方だ。

現在、私大医学部の学費は全般的に低下傾向(後述)で、医師不足や医師偏在(地方に少ない、など)の対策として、地域枠や専攻科限定の奨学金が増えている。またJASSO(旧:日本育英会)や銀行の教育ローンも医学部限定の高額貸与コースを提供している。

各医大が独自に成績優秀者を特待生として囲い込む動きもある。よって、これらの手段を上手に組み合わせれば、世帯年収600万円程度の一般家庭から、学費の安い国公立大医学部はもちろん、私大医学部に進学することも可能になりつつあるのだ。

■学費の最高は6年で4550万円だが、最安値は1850万円!

【1:お買い得な医大が増えている】

前述したように国公立大の医学部の学費は6年間で350万円ととてもリーズナブルだ。実は安いどころか学費0円の大学も存在する。その日本一財布に優しい大学とは、防衛医科大学校(埼玉県所沢市)である。学費タダで全寮制、おまけに給与・賞与もある。よって仕送りゼロでも卒業可能である。ただし基本的に“軍医”養成校なので、在学中にはパラシュート降下・野営などの訓練が必須となる。また卒業後9年間の自衛隊勤務が必須であり、違反時には最大5000万円を返還しなければならない。

同様に、学費0円なのが自治医科大学(栃木県下野市)である。卒業後、受験生の出身都道府県の公立病院などに9年間勤務(うち2分の1は、知事が指定するへき地などの病院に勤務)した場合は返還が免除される。

一方、私大医学部は学費と偏差値が反比例する。つまり、偏差値の高い大学は学費が安く偏差値が比較的低い大学の学費は高額となる。ここ10年の間では学費を大幅値下げし、同時に入試ランキングを上げた大学が目立った。受験生が殺到し、倍率が上昇したのだ。

学費を値下げした例としては、順天堂大学(東京都文京区)が2008年に3050→2113万円とし、帝京大学(東京都板橋区)が2014年に4920→3750万円とした。両校とも入試偏差値と医師国家試験合格率の上昇を示した。そして2017年開校の国際医療福祉大学(千葉県成田市)は1850万円という私大医学部「最安値」を更新し、「私立医大の価格破壊!」として受験生の人気を集めた。開校初年度でありながら早稲田大学・慶應義塾大学の理工学部レベルの高い偏差値を示した。こうした流れを受けて、きたる2018年度の受験では名門の日本医科大学(東京都文京区)も学費大幅値下げを予定している。

現在、日本一高い大学は4550万円の川崎医科大学(岡山県倉敷市)だ。学費が高いと偏差値は低いのだが、だからといって簡単に合格できるわけではない。早慶の非医学部レベルの難易度は覚悟すべきである。

*6年間の学費で一番安いのは1850万円の国際医療福祉大。『プレジデントムック 医学部進学大百科 2018完全保存版』では、最も学費が高い川崎医科大までのランキングを掲載
▼特待生に選ばれると学費1850万円→710万円
【2:特待生になるとさらにお得】

医学部進学の目的は医師免許取得である。医師国家試験の合格率は公表されており、各医学部のイメージに直結する。ゆえに、各大学は特待生制度を設け、安めの学費で少数の優秀な学生を確保し、入学者のコアメンバーとして配置し、国家試験対策のキーパーソンにしようとしている。例えば、国際医療福祉大では、特待生に選ばれると学費1850万円→710万円と大幅値引きされる。同様の特待生制度は多くの大学に存在し、大学ウェブページなどで公開されている。朝から授業を最前列で聴いて、ノートをせっせと取る真面目タイプにお勧めである。

■数千万円の奨学金を貸りても返済免除される仕組み

【3:掘り出し物の「地域枠」「専攻限定枠」を探す】

近年の医師不足や医師偏在の対策として、卒業後、勤務する地域や専攻(診療)科を限定する形での奨学金が増えている。例えば、順天堂大では東京都と共同で「東京都枠」を設けている。「学費全額+生活費月10万円」を貸与し、「9年間、都の指定する病院で産科・救急・離島医療などに従事で返済免除」という大変お得な制度がある。この東京都枠は、東京慈恵会医科大学(東京都港区)や杏林大学(東京都三鷹市)にも存在する。

また慶應大には研究医向けに200万円の奨学金制度を設けている。東北医科薬科大学(宮城県仙台市)の55名(定員100名)は地域枠であり、最高3000万円の奨学金が貸与される。また、北里大学(神奈川県相模原市)の相模原市枠(学費全額)のように、定員1、2名の小規模な枠も存在するので、大学ウェブページなどでまめに情報収集するといいだろう。

【4:地方自治体や病院の奨学金も見逃すな】

深刻化する医師不足を受けて、地方自治体が医学生向けに独自に設ける奨学金制度も増えている。おおむね「月額15万~30万円程度、給付期間の1.5倍を指定地域で勤務すると返済免除」のものが多い。

また、病院独自の奨学金も増えている。例えば、日本最大の医療法人グループ徳洲会には「月額15万円、貸与期間の3分の2の勤務で免除」という奨学金制度がある。同グループは救急や離島医療に力を入れており、そういう分野に興味のある学生にはお勧めである。

*筆者の筒井冨美氏は『プレジデントムック 医学部進学大百科 2018完全保存版』にて、「出会い・結婚」「子育てと仕事の両立」などに関して若手女性医師と語り合った
▼「医者になるためなら、田畑を売ってもよい」親族
【5:困ったときの教育ローン】

もし、上記の特待生や奨学金を得られなかった場合でも、貸与型奨学金や教育ローンといった「借金で進学する」という選択肢もある。A、B、Cの3例を挙げよう。

A. 日本学生支援機構(JASSO、旧:日本育英会)による貸与型奨学金
年収600万円世帯の場合、高校時代に一定の成績を収めれば、「最大で月6.4万円(無利子)」の貸与型奨学金が利用できる。さらに「医大生ならば月16万円(有利子)」奨学金も併用できる。6年間で借りることができるのは最大で1613万円。

B. 日本政策金融公庫
最高350万円までの借り入れが可能で、JASSOとの併用も可能である。国際医療福祉大・順天堂大・慶應大・日本医科大などの“割安”医大ならば、A+Bで学費のほとんどを賄うことができる。

C. 銀行ローン
「学費が4000万円かかっても、年収1000万円以上が30年以上続けば返済できる」という計算は、金融のプロたる銀行員ならば簡単に思いつく。「医学部限定、上限3000万円まで」という教育ローンは、すでに多くの銀行から提供されている。親が公務員など安定した職業に就いている場合や、祖父母の不動産を担保にできれば、学費の捻出も可能だろう。

私大医学部の偏差値急上昇の一因は、一般家庭出身者の私立医大受験への参入である。急速な少子化の進行によってひとりっ子や孫ひとりのような家庭が急増しており、親族の財産を結集すれば学費を捻出できるケースが多い。「孫が医者になるためなら、田畑を売ってもよい」という祖父母は珍しくない。

■「医学部卒業後5~10年で数千万円完済」は可能

【6:医師になって高い報酬を得れば借金返済も余裕】

ここまで読んできて、「医大卒業までに3000万円超の借金を作って、ホントに返せるのか?」という疑問を抱いた方もいるだろう。私の回答は「本人の強い意志と健康な体があれば不可能ではない」である。私が制作協力をしている医療ドラマ『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)が示すように、「高度な技術やハイリスクな仕事には、相応の報酬を払うべき」という考えは医療界でも広がりつつある。

産科・外科・救急などの多忙分野やへき地医療で「当直月10回以上」を覚悟すれば、「30歳、年収2000万円」が可能な時代である。私が属する麻酔科も確かな技術があればフリーランス医師として「3連休で40万~50万円」を稼ぐことできるので、「医学部卒業後5~10年で完済」とは、現実的な返済プランである。もちろん医療界にも働き方改革が必要だが、他人の嫌がるキツい仕事を積極的に引き受けてスキルを磨き、睡眠不足に耐える体力、そして強い意志があるという人ほど、報酬が多くなるのは間違いない。

【7:本人は勉強に専念、親は学費や受験情報の収集を】

医学部受験は情報戦でもある。各医学部の定員はもともと80~140人と少なく、さらに推薦・AO・一般・地域枠など複数の入試方法が入り乱れていて、その仕組みが毎年のようにコロコロ変わる。受験生がネット検索などで情報収集し始めると、勉強不足となるリスクが大きい。

というわけで、学費値下げ傾向にあるものの数千万円の負担となる私立大医学部を目指す狙う覚悟が親子ともにできたならば、受験生本人は少しでも学費の安い大学に入るべく勉強に専念し、親は地域枠・奨学金・銀行ローン・受験スケジュールなどを調べることをお勧めしたい。

(フリーランス麻酔科医、医学博士 筒井 冨美)

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