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文藝春秋社長「文庫本の貸し出し中止を」

プレジデントオンライン / 2017年11月28日 15時15分

文藝春秋社長 松井清人氏 1950年、東京都生まれ。東京教育大(現・筑波大)卒。『週刊文春』、月刊誌『文藝春秋』の編集長などを経て、2014年から現職。

「図書館で文庫本を貸し出さないで」――。全国図書館大会での文藝春秋・松井清人社長の発言が大きな反響を呼んでいる。出版界を取り巻く環境は厳しさが続き、特に文庫本の売れ行き不振は深刻だ。販売金額は2014年から3年続けてマイナスとなり、ピークの1994年の7割にあたる1069億円に落ち込んだ。「文庫本の貸し出しが市場低迷の原因などと言うつもりはない」。そう明言する松井社長に、貸し出し中止要請の真意を聞いた――。

■貸し出しやめても急速に業績回復はしない

――発言後、図書館の利用者からの反響はどうですか。

【松井】年金生活者の方から会社に抗議の電話がかかってきました。私が受けた3人の方の1人からは「金のない高齢者に本を読むなということか」と言われました。図書館利用者に年金生活者が多いのはわかりますが、でも本が好きな方であれば、出版業界の実情をきちんと話せば理解してくれます。文庫本の元になった単行本の貸し出し中止や、文庫本を図書館に置かないようお願いしてるわけではありません。

――文庫本の売り上げの減少によってどのような影響があるのでしょう。

【松井】文藝春秋にとって文庫本は、収益全体の30%強を占める大きな柱で『週刊文春』を上回る大きな収益源です。わが社の文芸作品は『文學界』『オール讀物』などの雑誌に発表後、単行本化を経て、最終の形態として文庫本になります。文芸誌は年にそれぞれ億単位の赤字が出ており、単行本は月平均20冊を刊行して4~5冊しか黒字になりません。又吉直樹さんの『火花』のようなベストセラーは10年に1度出ればいいほうです。文庫本は屋台骨といってよく、販売減は文芸系出版社にとって死活問題。文庫本の大事さを伝えるために社外秘の数字も示したのです。

――文庫本の貸し出しをやめれば、その売り上げは回復しますか。

【松井】急速に回復するとは思っていません。あの発言で本当にお伝えしたかったのは「読書のマインド」です。せめて文庫本くらいは自分で買うという意識を持ってもらわないと、本を買う習慣が失われてしまいます。高価ですぐには自分で買えないという本は図書館で借りて読み、せめて安い文庫本は買っていただきたい。

15年の文庫の貸し出し実績を公表している都内の図書館のなかで、例えば荒川区では文庫本が一般書の約26%を占めています。貸し出し冊数が多い図書館は市区町村から評価されるというのは、蔵書は「資料的価値としてある」という図書館のあり方からしてもおかしなことだと思います。

■「無料で当然」のマインドを変えたい

――良書を発行し、作家を守るためにも文庫本は必要なのでしょうか。

【松井】例えば、新潮社が出版した松浦寿輝さんの『名誉と恍惚』という、装丁も工芸品のような単行本の価格は5400円。純文学としては高価格ですが、谷崎潤一郎賞を受賞しました。この作品を新潮社は、後世に残そうという強い意思のもとにつくられたのでしょう。

作家を守るためには、どうしても出さなければいけない良書があり、あまり売れなくてもそうした本づくりは、文芸系出版社の矜持とも言えます。文庫本の稼ぎがあってこそ、後世に残したい良書を出版し続けられるのです。

――デジタル社会の到来が、文庫本を借りて読むという流れを加速させているという指摘があります。

【松井】ネットの普及で、情報をはじめコミックやゲームもフリーで手に入り、無料で楽しめる社会になっています。利用者の意識も「無料で当然」とエスカレートしているのではないでしょうか。図書館には、そうした風潮に流されずに歯止めをかけてくださいとお願いしたいのです。私の発言が文庫くらいは借りずに買うという空気を醸成し、マインドを変えるきっかけになってくれればと思います。

(ジャーナリスト 吉田 茂人 撮影=横溝浩孝)

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