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「ラグビーW杯」で日本が勝つための条件

プレジデントオンライン / 2018年1月10日 9時15分

三宅義和・イーオン社長

2019年、ラグビーワールドカップが日本で開催される。前回大会で日本代表が強豪の南アフリカを破ったことで、ラグビーの人気も高まりつつある。東芝の元社長で、公益財団法人日本ラグビーフットボール協会の岡村正会長は「スポーツは勝たなければダメ」という。どういうことなのか。イーオンの三宅義和社長が聞いた――。(前編、全2回)

■ラグビーが持つ紳士的側面が見る人を魅了する

【三宅義和・イーオン社長】2019年に日本でのワールドカップ開催を控え、ラグビーを取り巻く環境は非常に盛り上がってきたと思います。私もラグビーファンとして楽しみにしているところです。そこで本日は、日本ラグビーフットボール協会の岡村正会長をゲストにお迎えしました。前回2015年のワールドカップでは、南アフリカを破りました。あれは感動的な勝利でしたね。

【岡村正・日本ラグビーフットボール協会会長】そうですね。ラグビーに限らず、スポーツは勝たないとダメですね。昨年11月に行われたオーストラリアとのテストマッチは、やや不甲斐なかった。前半だけで5トライを奪われ、3対35と大きくリードされてしまいました。後半に盛り返しましたが、30対63で破れてしまいました。

【三宅】私も観戦しましたが、客席も後半は特に盛り上がりました。観客は4万3000人超だったそうですね。

【岡村】テストマッチでは過去最高の観客動員数で、協会としても本当にうれしかったですね。

【三宅】そうはいっても、まだラグビーというゲームをあまり知らない人もいるかもしれません。岡村会長は東大のラグビー部出身だとお聞きしています。ラグビーというスポーツの魅力は何でしょうか。

【岡村】ラグビーは1チーム15人で戦うのですが、1つの戦略のもとに全員で攻撃し、全員で守る。要するに、攻守すべてに責任を持って、自分のポジションにおける仕事を達成しなければなりません。またラグビーには紳士のスポーツという側面があります。英語では「integrity(インテグリティ)」。これはラグビー憲章の最初に出てくる言葉で品位ということですが、ラガーマンにそれが求められます。この2つが大きな魅力なのではないでしょうか。

私の学生時代、東大はそれほど強いチームではありませんでした。そこで、全員で「タックルだけはきちんとやろう」と決めたのです。それを徹底して、周囲から「タックルの東大」と呼んでもらえるようになりました。

そもそも私が入学した年に東大は全敗でした。すると、2年目にキャプテンが「このままではラグビーをしている価値がない」と言い、自分たちと同じレベルの大学3校を選んで、「ここには絶対勝とう」と誓い合いました。そして、そのための戦略を練った。「ここと戦う際には、こうしよう」と1人ひとりの役割を決めて立ち向かい、3勝できました。

【三宅】素晴らしいですね。

【岡村】それは、やはり戦略が正しかったということと、その戦略に応じた個々人のスキルを上げる努力が実ったことの両方だと思っています。そういう意味で、全員が一丸となれるスポーツなのです。ラグビーは1人だけ卓越したプレーヤーがいたとしても勝てません。

■社会人になっても中高時代の英語の劣等感があった

【三宅】この対談では、ゲストの皆さんに英語との出合いをお聞きしています。岡村会長と英語との出会いはどのようなものだったのでしょうか。

【岡村】私は終戦の年、英語が世の中にあふれ出した1945(昭和20)年に小学校に入学しました。母親がこれからは英語が大事だと言って、小学校の高学年から近くの英語の先生のところに習いに行かせてくれました。

岡村正・日本ラグビーフットボール協会会長

そのおかげで、中学に入った段階では、ほかの生徒よりも多少英語ができるようになっていたわけです。今思えばそれが思いあがりだと思うのですが、「みんなよりも英語力がある」とうぬぼれて、予習・復習をサボっていました(笑)。

まあ、3年間は小学校時代の貯金でなんとかなったのですが、高校へ進んでからは逆に英語が苦手になりました。成績もだんだん他人に抜かれていくと、それが劣等感に変わり、大学入試も英語ではだいぶ苦労しました。それが現在でも英語に対するアレルギーのようになっています。

【三宅】そうなのですか。

【岡村】その後、東京芝浦電気(現東芝)に入社して、海外の仕事もあるものですから、会社が退けてから英会話スクールにも行きました。入社10年ほどして、アメリカのウィスコンシン大学へ留学の機会を与えられましたが、中・高時代の劣等感はずっとありましたね。

【三宅】とはいえ、MBA(経営学修士)の学位も取っていらっしゃいます。

【岡村】ビジネススクールでは、基本的にケーススタディがすべてです。要するに本を読まなければ話にならないわけです。当然、読む力はそれによって高くなります。けれども、成績の基準がクラスパーティシペーションといって、クラスでの議論にどれだけ参加できるかに置かれていました。これがなかなかできませんでした。

幸い私は、会社でのビジネス経験がそれなりにありましたから、ペーパーテストではいい点を取れました。アメリカ人の学生からは「お前はテストだけはできるけど、クラスでは黙ったきりになるのはどういうわけだ」と変人扱いされたものです。どうも、ビジネス人生で英語力を伸ばすのに失敗した気がしています。

【三宅】そんなことはないと思います。そうした経験をされた岡村会長からごらんになって、日本人の英語力が中学校、高等学校、大学と多い人で10年間も英語を学ぶわりには使えない、苦手だというのはなぜだと思われますか。

【岡村】留学先の大学には、もちろん日本人もいましたし、ラテンアメリカやヨーロッパの学生も数多くいました。そんな彼らと比べて、どうも日本人は正しい英語をしゃべろうとしすぎる。

私が、いまでも覚えているのは「お前の英語は耳に心地いい」と言われたことです。しかし、話す機会は極端に少ない。私が何か言おうと頭の中で英語の構文を組み立てているうちに、メキシコやブラジルの学生がどんどん発言してしまいます。それから、これは言い訳ですが、日本語というのはなかなか英語になりにくいところもあるのではないでしょうか。

【三宅】それはどのような時ですか。

【岡村】いまでもそうなのですが、例えば、ラグビー協会の集まりなどで、会長として英語でスピーチをしなければならない場合、日本語で原稿を書いて、さあ訳そうとすると、いい英文にならない。これからは論理的な日本語を勉強する必要があると思っています。

【三宅】確かに、そんな経験は私にもあります。

【岡村】やはり仕事でも会議でも、筋道を立てて英語を話す必要があります。とにかく、しっかり考え、質問し、発言するように心がける。そうでないと、相手に通じないことが往々にしてあります。それがまた、劣等感になってしまっている可能性もあるのではないでしょうか。

■スポーツは勝たないと注目されない

【三宅】これからの日本の英語教育改革の方向性もあるのでしょうが、まず正しい日本語を体得しないとダメです。日本語では、情緒的な発言しかできないのに、いきなり英語で論理的に話すというのは、そもそも無理です。日本語できちんと意見を言って、その理由をしっかり論理的に述べるという訓練が重要になってくるのでしょうね。

そこで思い出すのが、日本が4大会ぶり4度目の出場を果たした、2017年の女子ラグビーワールドカップでの香港戦勝利後のシーンです。齋藤聖菜キャプテンが、スポーツチャンネルの生中継でインタビューの最後に、「Thank you for supporting us. We will be back here four years later.」と堂々と言われましてね。80分走り回った後であれだけしゃべれるというのは、なかなかすごいと思うのです。

『対談(2)!日本人が英語を学ぶ理由』(三宅義和著・プレジデント社刊)

【岡村】それは立派ですね。ラグビーに対する情熱が言わせた言葉だと思います。女子の場合はまだ、男子以上にフィジカル面で世界との差が大きいと思います。それが決定的な差になっているのは事実だと思いますが、実際は男子と変わらないほど敏捷、俊敏な大変いいプレーをします。しかも、見ていても大変楽しい試合をしています。

女子サッカーが「なでしこジャパン」のワールドカップ優勝から盛り上がったように、スポーツは何と言っても勝たないと盛り上がりません。女子ラグビーは国内に本格的なリーグが存在しないこと、代表の強化試合の機会が少ないことなど課題が山積していますが、これから男子と同じようにフィジカル面で強くなっていけば、必ず世界レベルのチームになっていくと期待しています。

【三宅】男子はどうですか。

【岡村】2015年のロンドン大会は3勝1敗で、得失点差で決勝トーナメントに進出することができませんでした。2019年はそれ以上の結果を目指しています。具体的にはベスト8、ベスト4を視野に入れています。そのためにはオールジャパン体制で戦う必要があります。2016年秋から日本代表のヘッドコーチ(HC)を務めるジェイミー・ジョセフ氏には、2017年から「チームジャパン2019総監督」という新設ポストに就いてもらいました。この結果、ジョセフHCは、日本代表だけでなく、国際リーグのスーパーラグビーに日本から参戦する「サンウルブズ」のHCも兼務することになりました。オールジャパン体制で強化に臨んでいるところです。

【三宅】わかりました。活躍を期待しています。

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岡村正(おかむら・ただし)
公益財団法人日本ラグビーフットボール協会会長、東芝名誉顧問
1938年、東京都生まれ。東京大学法学部卒。大学ではラグビー部に所属。62年東京芝浦電気(現東芝)に入社。73年にウィスコンシン大学経営学修士課程を修了。94年取締役、96年常務を経て、2000年6月に東芝社長に就任。05年会長となり、日本経済団体連合会(日本経団連)副会長に就任。07年日本商工会議所の第18代会頭を務める。 2015年春の叙勲で旭日大綬章受章。

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(イーオン代表取締役社長 三宅 義和 構成=岡村繁雄 撮影=澁谷高晴)

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