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"締め切り直前"に脅威の集中力が出るワケ

プレジデントオンライン / 2018年1月9日 9時15分

医師能力開発コンサルタント 森田敏宏氏

夏休み最終日、手つかずの宿題を片づけるため、驚くほどの集中力を発揮したことはないだろうか。そのメカニズムを、集中力に詳しい東京大学医学部卒のドクターに聞いた――。

■最大の罠は「時間はまだある」

子どもの頃、夏休みの宿題を新学期直前までやらずに、青くなった経験はありませんか。親から「まだ終わってなかったの!? 早くやりなさい!」と尻を叩かれ、泣きながら最後の1日で仕上げたという人も少なくないでしょう。

なぜ夏休みの宿題を先延ばしにしてしまうのでしょうか。時間の制限があるとはいえ、夏休みは期間が非常に長いため、「パーキンソンの法則」の罠にはまってしまうからです。英国の歴史・政治学者のパーキンソンが「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて使い切るまで膨張する」と指摘したように、「夏休みが終わるまでに終わらせればいい」と、時間はあればあるだけ使ってしまうものなのです。

人間の脳には、短時間だけ記憶する「短期記憶」と長期間にわたって記憶しておく「長期記憶」という機能があります。「短期記憶」は作業の手順の「段取り」を記憶します。作業をするときは、複数の作業の段取りを考え、それを短期間記憶し、順番あるいは並行して作業をこなしていきます。この段取りを考え、記憶し、段取り通りに実行する力を「ワーキングメモリー」といいます。そもそも人間の短期記憶は弱く、1度に覚えられるのは7つほどが限界といわれており、先延ばしにしている宿題の順位は低くなります。

ところが、夏休みも終わりになると頭の中は宿題以外のことを考える余裕はなくなり、宿題が最優先課題に浮上します。このため、宿題をやる気になり、集中できるようになるわけです。これは心理学で「締め切り効果」と呼ばれるもので、「この仕事は金曜日までに終わらせる」と区切りをつけ、時間の制限を設けたほうが集中力は上がるのです。

物事に取り組むにはやる気と集中力が大きく影響します。「締め切り効果」のように、追い込まれて集中力を高めるのではなく、自分で意図して集中状態に持っていければ、仕事でも余裕を持って自分のやるべきことができるようになります。

■自分流の「引き金」で、集中力を高める

そもそも何かに集中しようとしても、やる気が起きなければ集中はできません。やる気は、脳のA10神経からドーパミンというホルモンが出ることで起きます。これは楽しいときや楽しいことを考えている状態のときに放出されます。

しかし、仕事や勉強は楽しいことばかりでなく、苦しくてつらいことも多くあります。そのため、仕事に対するやる気を引き出すには、まず、目標や目的を設定することが大切です。何のために仕事をしているのかがわからないと、集中できません。目標とは、「会社の売り上げを何%アップする」「フルマラソンで4時間を切る」とか、数値化できるものです。目的は「会社の利益が増えることで社会に貢献する」とか、もっと漠然としたものです。

さらに目標を達成したら「ご褒美が出る」という仕組みをつくっておけば、想像しただけでドーパミンが出るようになります。「仕事が終わったらケーキを食べにいく」というふうに、ご褒美を与えるタイミングは作業後、早いほうが効果的です。

また、集中するきっかけをつくる、自分流の「引き金」を身につけるのもいいでしょう。例えば、仮面ライダーの変身ポーズは、パワーアップするために集中力を高める「引き金」と見て取れます。イチロー選手が、バッターボックスに入る際に必ず同じしぐさをするのも、集中モードに入るための儀式といえるでしょう。

■「脳の断捨離」で、小分けにして捨てる

やらなければいけないことがたくさんあるとき、あるいはありそうに感じているとき、頭の中が混乱し、やる気がなくなったことがあると思います。どんな仕事でも単独の作業で完結するものはあまりなく、たいてい複数の作業から成り立っています。それらをステップに分け、ノートや付箋を使って、頭の中にあることをすべて文字に書き出して「見える化」するとクリアになります。

漠然と「やらなければいけないことがいろいろある」と思っているだけでは、不安になり、面倒くさくなってしまうもの。小さなステップに分解した後は、一つ一つのステップに集中して片づけていくだけです。

集中してやるべきことを次から次へと片づけるには、ワーキングメモリーがパンクしないように、自分が本当にやらなければいけないタスク以外は、捨てる意識を持つことも大事です。私は「脳の断捨離」と表現していますが、毎朝自分の様々なプロジェクトを見直して、今日やらなければいけないものをピックアップして、それを最優先でやるという、「セレクト集中」を行っています。

面倒くさくてなかなか取りかかれない作業でも、実際に作業時間を測ってみると、案外短かったりします。例えば、経費精算の処理で、「30分くらいかかりそうだなあ。イヤだなあ」と思っても、やってみれば、半分の15分で終わるかもしれません。作業時間を毎回測ることで、心理的時間と物理的時間にギャップがあることがわかり、心理的な認識のほうを変えていけます。すると面倒くさいと感じる作業でも、すぐに取りかかれるようになります。

目標時間を設定すると、さらに集中力が増します。何度も繰り返すようなルーティンであれば、毎回記録の更新を目指しましょう。自己ベストが出たら、それ自体がご褒美になります。

また、集中力を維持するには、時間を短く区切り、作業モードと休憩モードに分けるようにするとよいでしょう。時間の長さは人によって異なりますが、私は25分作業して、5分休憩する「ポモドーロ・テクニック」と呼ばれるリズムを実践しています。

重要なのは、25分でやることは1つに絞ること。あれもこれもやろうとすると、集中できなくなります。そのためには、取り組むべき作業を短い時間に分割するといいでしょう。

そして25分経ったら、作業の途中でもやめます。「もう少しやりたかった」と思うぐらいの時間で区切ることで、5分の休憩後もやる気を維持できますし、短時間で作業を切り上げることで脳の疲れがたまりにくくなります。休憩する際は、作業から1度離れ、頭をリセットしましょう。体を動かしたり、瞑想したりしてリラックスするといいですね。

もし25分で終わらなかった場合は、休憩後も同じ作業を続けたほうがいいでしょう。休憩時間にも脳が働いているため、頭の中が整理されて、作業開始後にいいアイデアが出てくる可能性があります。どんなに調子がよくても、5分の休憩をはさんだほうが効率的なのです。

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森田敏宏
医師能力開発コンサルタント
東京大学医学部卒。医学博士。元東京大学医学部附属病院医師。メディカルインフォメーションジャパン代表取締役。心臓病の専門医として、東大病院の心臓カテーテル手術件数を10年間で50例から600例まで増やす。著書に『東大ドクター流やる気と集中力を引き出す技術』など多数。
 

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(医師能力開発コンサルタント 森田 敏宏 構成=吉田茂人 撮影=永井 浩)

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