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もう子供を"弁護士"にしてはいけない理由

プレジデントオンライン / 2018年2月6日 9時15分

ハンドルもペダルもない完全自動運転車として話題を呼んだ「ウェイモ」の新型車。(共同通信=写真)

人がプログラムするのではなく、コンピュータが自ら学び判断する「ディープラーニング」が実現したことで、大勢の人間が失業する時代が10年後には現実のものとなりつつある。2人の識者に、これから「消える作業、残る仕事」について聞いた――。

■悲劇的な未来を、なぜ想像するのか

「おはようございます。昨日はお疲れ様でした。素晴らしいプレゼンでした。ただ、商談相手は決定までに時間がかかるという分析結果です。そこで保留にしていたC社への営業を優先しましょう。今日はまず……」

今日は何をするか。スマホを通じて仕事の内容は随時、送られてくる。資料作成、顧客回りの移動記録、顧客との会話、そして健康状態などはすべてデータとなり、AI上司はこのデータをもとに、営業成績を上げるように、社員の個性、その日の体調に応じた行動を指示してくれる。

「監視されているようで嫌だ」と言う先輩もいるが、俺はそうは思わない。AI上司は依怙贔屓はしないし、ご機嫌をうかがう必要もない。仕事終わりに飲みに付き合わされ、自慢話や愚痴を聞かされることもない。


近い将来、AIとロボットが飛躍的に進化することで、20年以内に日本人の半数が仕事を失う可能性があるという予測がある。本誌でもたびたび、なくなる仕事を記事にしてきた。それでもまだ大げさだと思う人もいるが、最初にデジカメがヒットした1990年代半ば、誰が本気でコダックが倒産する時代が来ると予想しただろうか。そしてそのデジカメもスマホ普及の影響で今や出荷台数はピーク時の5分の1。驚くスピードで産業地図は激変している。

「仕事消滅が最初にやってくるのは10年後の2025年前後、自動運転車普及による日本国内の123万人のドライバーたちの大量失業でしょう」と語るのはITに詳しい経営コンサルタントの鈴木貴博氏。カルロス・ゴーン氏も今年の9月の記者会見で、「自動車産業はこの先10年で、過去50年よりも多くの変革を経験する。自動車産業を大転換させる革命が近づきつつある」と発言している。

自動運転車の普及で仕事を失うのはドライバーだけではない。例えば事故が大幅に減ると、自賠責保険だけで補償が十分になり、自動車保険業も消えるだろう。

「世の中には今のビジネスの仕組みだから必要な仕事がたくさんあります。AIにとって代わられる仕事よりも、その周辺の仕事がなくなるインパクトは大きい」(鈴木氏)

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▼自動運転車普及のロードマップ
現在
ソフトウエアやセンサーによって、自動車や運転手の代わりに、駐車や適応走行制御(ACC)など、多くの機能が使えるようになる。
・短期(1~5年後)
2022年までに、ほとんどの車に周囲の物体を探知するカメラが搭載され、渋滞中でもACCが使えるようになる。
・中期(5~10年後
2027年までに高度なGPSとレーザーによる検知&測距テクノロジーで、他の車両を認識できるようになる。
・長期(10~20年後)
2037年までに、高速道路での自動運転が義務化される。人間が運転するのは細かい道だけになる。
・超長期(20~30年後)
2047年。自家用自動車がなくなり、無料で乗れる自動運転バスが運営される。また、富裕層向けに輸送サービス契約が始まる。
※『シグナル:未来学者が教える予測の技術』(エイミー・ウェブ/ダイヤモンド社)をもとに作成。

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ディープラーニングができるようになったAIは、他の分野で人間よりもうまく対処できるようになり、2030年ごろには、ほとんどの知的作業において人間のパフォーマンスを上回ると言われている。

「これまでは肉体労働のような単純労働しかできない人はダメ。特別なスキル、クリエーティブな発想を持つ人だけが生き残れると言われてきましたが、最近では、これまで頭がいい人がなる職業と言われてきた弁護士、トレーダー、医者といった高賃金の専門職が、まずAIに置き換わると予測されています」(鈴木氏)

2024年度に実用化を目指す、細胞を培養するロボット「まほろ」。(共同通信=写真)

AIやロボットが大量に出現して、世界の仕事が半分になったとしたら、我々の生活はどうなるのだろう。世界初の感情認識パーソナルロボットPepperの生みの親、林要氏はこう語る。

「ヒトは未来を想像することが比較的得意な生物です。未来を想像することは非常に難しく、AIでも簡単にはできません。それなのになぜヒトはできるのか。それは『決めつけ』をするからです。物事をフラットに捉え、未来を予測するのではなく、『これはこういうパターンだ』と当てはめ、バイアスのかかった予測の仕方をしているのです」

『ブレードランナー』『ターミネーター』『マトリックス』……SF映画で描かれる未来は暗い。それに共感する我々の脳とは?

「危なそうだと未来に不安を感じる人のほうが生き残りやすかったわけです。不安が必ずしも合理的でなくても、多くの人は未来に不安を覚える。特に見えないものには恐怖を感じます。でも、いったん触れると安心して、今度は逆に都合のいい方向に想像し始める。それが僕らの脳のシステムです。コールセンターの女性の声がきれいだと、美人だと思ってしまうように、脳は勝手にファンタジーを生み出すのです」(林氏)

■大失業時代到来。日本はどうなる?

大きく出遅れていると言われている日本のAI開発。現状を鈴木氏はこう解説する。

「トヨタ、パナソニックといった日本を代表する企業の研究開発費は約5000億円。一方、グーグル、アマゾンといったアメリカのIT企業の場合は約2兆円です。トヨタやパナソニックは自動車、家電そのものの開発に大半を使いますから、AIへの開発投資は数百億円くらいでしょう。つまり、数百億円対2兆円と投資金額の規模が全く違うのです」

林氏も「今も日本の産業を引っ張っているのは高度経済成長期を牽引してきた企業です。しかし、基本的に大企業は新しいことをやるのには向かない」と言う。

なぜ向かないのか。成長した会社はどうしても失敗しないことに価値を置いてしまい、チャレンジが苦手になる。一足先に立ちゆかなくなったアメリカがITで成功したのはスタートアップのエコシステムを選択したからだ。つまり多産多死するたくさんのベンチャーの中から突き抜けて伸びてきた小さな会社を大企業が買収するというシステムである。

「それが大企業の新陳代謝にもなるわけです。日本に何が必要かというと、まずスタートアップにきちんとキャッシュが回ること。もう1つはM&Aをした新規事業を伸ばすのは、スタートアップの経験者ですから、失敗を恐れずに大企業は人を送り込むべきです。この2つができれば、新陳代謝が促され、日本の閉塞感も薄れていくはずです」(林氏)

AI開発で後れをとった日本に未来はないのか。そんなことはないと2人は言う。

「AIでは圧倒的にアメリカに負けていても、日本はメカトロニクスには強い。ロボット産業が最後の砦になるでしょう。AIはアメリカに任せ、それを搭載した動く精密機械を製造することで日本は生きていくということになる」(鈴木氏)

「AIがロボットを造るというのはかなり先の話で、当面は人間がロボットを造る。そして複雑になればなるほど、システムとして成立させるには、すり合わせが必要になります。つまり〈情報の取得、情報の処理、運動〉の3要素をバランスよくすり合わせるというのは難度が高く、これを高次元でしかも大量生産できる国は多くありません」(林氏)

では、日本の製造するロボットが人間の仕事を奪い、仕事が一気に消滅するかというと、実はそういうわけでもない。ロボットは高度な機械部品の組み合わせだから、製造には相応の時間がかかる。性能がアップし、需要があっても物理的に生産できる台数がボトルネックになるのだ。

少子高齢化に伴う人口減少は避けられない。労働力確保のために移民をという声も聞かれるが、安易に移民を受け入れた後に大量失業時代がやってくれば、移民排斥運動が起きるのは想像に難くない。人口減少をむしろ好機として、ロボットで人手不足解消を図る方向にアクセルを踏んでいくべきなのだろう。

とはいえ、疑問はまだ残る。AIやロボットが働いて、いろんな製品を作り、交通機関を運行し、サービスを供給する。人が働かなくなるだけで、ほかは変わらない世界はユートピアなのかディストピアなのか?

「AIが仕事を奪う、ロボットが搾取すると思いがちですが、そうではなくて、賢くてお金を持っている人が、より稼ぐためにAIを使うという構造が恐ろしいわけです」(林氏)

今のまま市場原理に任せておけば、国民の1%が富裕層、49%が中流層で、残りの50%は仕事がなく生活保護に頼って生きる貧困層という社会になると言われている。それでも、富裕層が高額なプライベートジェットに高級タワーマンションを買い漁れば、GDPは変わらず、統計上は「経済は順調」ということになる。

「通過点としてはありうる話でしょう。流動性を放置すれば、資本主義は格差が加速度的に拡大します。でも、1%の人が大半の富を所有するという構図が人類全体の生産性をマックスにするかというと、そんなことはないはず。もっといい富の傾斜配分をつくったほうが、全体の生産性は上がるはずです」(林氏)

「大勢が失業したとしても、経済は変わらずに回る。そのときに富さえ配分されていれば、家も、生活に必要なものも手に入る。問題はいかに富を再配分するかです」(鈴木氏)

つまり、仕事がなくなること自体が恐ろしいというよりも、失業しても大丈夫な社会の仕組みづくりを構築できるかどうかが問題で、それが全く見えないから不安なのだ。

格差社会を是正するためにトマ・ピケティ氏は富裕層に対する累進課税、資産税の強化をと主張し、ビル・ゲイツ氏はロボットの働きに対して税金をかけるべきだと言っている。大失業時代の社会システムとして、多いのがベーシックインカム(BI)の導入をという意見だ。鈴木氏はその財源にAI、ロボットにも給料を支払い、それを国民に分配するというユニークな解決策を主張している。

今年の5月、将棋界の頂点・佐藤天彦名人を破った人工知能PONANZA。(共同通信=写真)

「かつて正社員にしか任せられなかった仕事が、今ではアルバイトでもできる時代です。正規雇用と非正規雇用の同一労働同一賃金が問題になっていますが、人間の10分の1のコストでAIやロボットが働いているのだから、そこまで含めないと本当の解決にはなりません」(鈴木氏)

最適な富の再分配こそAIの仕事かもしれないと言うのは林氏。

「資本主義というシンプルなルールは人間でも扱えましたが、社会主義的なものになると、人はバイアスの塊なので、自分たちではうまくコントロールできません。AIの情報収集能力が向上し、人間というものの理解が進めば、最適な富の傾斜配分の仕組みがつくれるかもしれません。『ホモ・サピエンスという生体システムはこのぐらいの配分にしておくとやる気を出す』というようなクラスタリングは得意ですから。僕らが幸せを感じるのは何かを診断してくれるものとしてAIは存在する可能性はありますし、もしかしたらそれこそが、AIの最大の仕事なのかもしれません」

今世紀の人類は、AIやロボットと共存し、仕事を分担しながら働くことになるだろう。そして拡大する格差をどう是正するのか。真剣に考え実行しないと、未来が不幸で惨めになることは間違いない。

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▼オフィスでなくなる部署、残る部署
なくなる営業部、中間管理職 残る営業マン
顧客を回り、現場の情報を集める営業マンの仕事はなくなりにくい。
なくなる経理部 残る総務部
労務管理はAIが担うだろうが、気配りが必要な総務の仕事は残る。
なくなる経営企画部 残る苦情対応係
苦情への対応、謝罪などは、ロボットの対応では納得されない。
なくなるマーケティング部 残る開発研究部
マーケティングはAIの得意分野なので、導入も早いと思われる。
なくなる法務部 残るCSR推進部
知的財産の所有権や判例など膨大なデータの検索はAIが得意。
なくなる秘書室 残るお抱え運転手
自動運転車が進むなか、お抱え運転手を雇い見栄を張る社長も登場?
※取材を基に編集部で作成

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林 要
1973年、愛知県生まれ。トヨタで「レクサスLFA」、トヨタF1開発のプロジェクトに携わる。2012年、ソフトバンク入社。人型ロボットPepperの開発に取り組む。15年独立し、ロボット・ベンチャー「GROOVE X」を設立。
 

鈴木貴博
1962年、愛知県生まれ。東京大学工学部卒業。ボストンコンサルティンググループ等を経て、独立。企業のコンサルティングに従事するなかで、人工知能がもたらす仕事消滅の問題とかかわるようになる。著書に『仕事消滅』ほか。
 

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(林 要、経営コンサルタント 鈴木 貴博 文=遠藤 成 撮影=岩田亘平 写真=共同通信)

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