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アマゾンジャパン社長の"日本市場攻略法"

プレジデントオンライン / 2018年2月1日 9時15分

アマゾンジャパンの存在感が年々高まっている。ヤマト運輸との配送問題、AIスピーカーの発売、金融分野への進出……。これからアマゾンはどこに向かおうとしているのか。日本進出翌年から社長を務めるジャスパー・チャン氏に、田原総一朗氏が直撃した――。

※本稿は、「プレジデント」(2018年1月29日号)の掲載記事を再編集したものです。

■ヤマト運輸の配送問題。どうなりました?

――アマゾンは最初、書籍販売のみでしたね。いまは取り扱う商品が増えた。

【チャン】私たちのミッションは、「地球上で最も豊富な品揃え」を実現すること。そのためには、オンライン上で求められるあらゆるものを探し、発見でき、購入できる場をつくること。もともと書籍にかぎるつもりはなく、それ以外のCDやDVDといったメディア、さらにファッション、ヘルス&ビューティー、その他消費者製品へと段階的に広げていきました。

――品揃えは日本独自? アメリカの本社と相談するのですか?

【チャン】ミッションや戦略はグローバル企業として同じものを掲げています。ただ、お客様に提供するサービスの内容や品揃えは各国で考えて決めています。実際、私たちが扱うほとんどの製品は日本のメーカーがつくったもの。私たちにとって大きなビジネスであるアマゾンマーケットプレイスでも、日本の販売事業者がさまざまな商品を出品しています。お客様にどうすればベストなサービスを提供できるかを、日本の人たちとともに考えています。

――「アマゾンプライム」は配送料無料などの特典が人気。会員数や売り上げはどれくらいですか?

【チャン】開示していませんが、大勢の方にご利用いただいています。

――アマゾンプライムで配達される商品は何種類あるんですか?

【チャン】現在は全世界で数千万種類以上あります。

――たくさん売れるのは素晴らしい。一方でラストワンマイル問題が起きて宅配業者が悲鳴をあげています。この問題、どうします?

【チャン】まず考えたいのが、これはアマゾンだけの問題ではないということ。オンラインショッピングはまずアメリカで、次にヨーロッパで成長しました。これらの地域でも、Eコマースの需要の伸びに従ってラストワンマイルのキャパシティを増やすことが求められるようになりました。いま同じことが日本でも起こりつつあります。それに対して、私たちは配送会社を1社に限定せず、複数の会社と協力して、その中でベストなソリューションを提供していきます。

――アマゾンがヤマトに代わる配送会社をつくったらどうですか。

【チャン】ソリューションは1つではありません。アメリカやヨーロッパの一部ではアマゾンに配送部門があります。自社のプロセスの効率化を進めたり、新たなテクノロジーを組み合わせることも必要で、さまざまなソリューションが考えられます。ただ、いまのところは複数の配送会社と組むことで対応するとしかいえません。

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ヤマト配送問題
ネット通販拡大を受けて宅配ドライバーの労働環境が悪化。人手不足が深刻化した。宅配便最大手のヤマト運輸は、17年10月に個人向け料金を値上げ。大口顧客に対しても値上げ交渉を進めている。

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■無人コンビニ「Amazon Go」。日本進出はいつ?

――リアルではアメリカで無人コンビニの「Amazon Go」を始めたそうですね。日本にはいつ上陸しますか。

【チャン】いまのところ「Amazon Go」はシアトルに1つのショップがあるだけ。しかもそこは社員を対象にして実験的に行っている店舗です。拡大するとしても、実験を通してもっとたくさんのことを学んでから。日本で展開する計画はまだ何もありません。

■AIスピーカーの「Amazon Echo」。日本での勝算は?

――アメリカではすでに売り出されていた「Amazon Echo」が、日本でも2017年11月から招待制で販売開始されました。これは何ですか?

アマゾンジャパン合同会社 社長 ジャスパー・チャン氏

【チャン】Alexa(アレクサ)という女性の名前がついたクラウドの音声サービスに対応したスマートスピーカーです。お客様がAlexaに何か質問をすると答えてくれます。今朝、私は「Alexa、今日の天気はどうなるの」と聞きました。すると、最高気温が13度で、最低気温が5度ですと答えてくれた。それで今日何を着ていけばいいか決められたわけです。

――天気を教えてくれるだけ?

【チャン】日本のAlexaには265のスキルがあります。いま人気が高いのはニュースやミュージック。JR東日本や資生堂などほかのデベロッパーも開発にかかわっていて、たとえばAlexaに「XからYまで電車で行くにはどうしたらいいのか」と聞いたら、適切なルートを教えてくれたりもします。

――グーグルもAIスピーカーを出していますね。グーグルと比べてAmazon Echoはどこが優れているのですか。

【チャン】私たちは競合の動向にあまりフォーカスしていません。ただ、胸を張っていえるのは、日本のお客様のために長い期間をかけて1からAlexaを開発してきたということ。また、先ほど説明したようにすでに多くのデベロッパーが、Alexaのスキルキットを使ってスキルの開発をしてくれている点も強みだと考えています。

――アマゾンウェブサービス(AWS)が売り上げの柱として成長していると聞きました。どんなサービスですか。

【チャン】AWSはクラウドコンピューティングと呼ばれる、ITのインフラサービスをインターネット経由で提供するサービス。アメリカで06年に始まり、日本でも7年前から展開しています。ストレージやデータベース、IoTといった100以上のサービスを個人のお客様から法人顧客、政府、教育機関、および非営利組織まで幅広いお客様にオンデマンドで提供しています。

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Amazon Echo
音声だけでリモート操作できるスマートスピーカー。クラウド上の音声サービス「Alexa」に接続し、音楽の再生、天気やニュースの読み上げ、アラームのセットなど、日本語版は265のスキルを持つ。


Amazon Go
アマゾンがシアトルの本社に併設した、レジのないコンビニ。客は専用アプリをダウンロードして、入店時にスマホをかざす。レジで精算することなく、そのまま商品を持って店外に出ると自動的に決済ができる。

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■アマゾンはEコマースの会社ではないの?

――アマゾンはEコマースの会社だと思っていました。

【チャン】私たちは自分たちのことをテクノロジーの会社だと考えています。情熱を持ってお客様にフォーカスをして、彼らの利便性を高めるために、テクノロジーを使うのです。たとえば個人のお客様には、ショッピングをやりやすくするとか、おもしろいビデオを見つけやすくするということにテクノロジーを活用しています。法人のお客様にも、コンピューティングの世界で便利なサービスをいろいろと提供しています。

ジャーナリスト 田原総一朗氏

――AWSのユーザーは何社?

【チャン】企業数は公表していませんが、グローバルでは190カ国以上で数百万、日本では10万以上のお客様にご利用いただいています。私たちが数字をあまり開示しない理由は2つあります。1つは、ユーザーにとってあまり重要ではないから。お客様にとって大切なのは、あくまでもサービスの中身です。もう1つは、つねに成長を続けている会社だから。いまも始まったばかりのような感覚で、日々、サービスの改善に取り組んでいます。だから規模はあまり関係ないし、私たちも意識していません。その点をご理解いただければと。

――日本ではアマゾンの成長を尻目に、百貨店や小売店の売り上げが伸び悩んでいる。この現象をどう受け止めていますか。

【チャン】アマゾンが理由で売り上げが減っているわけではないのでは。小売業全体でのアマゾンの存在はまだまだ小さいものです。その中で私たちはお客様、そしてイノベーションにフォーカスをしている。最終的に決めるのはお客様です。

■金融分野への進出を加速させるのでは?

――脅えているのは小売業だけではありません。いま金融関係者は「アマゾンが金融業を始めるんじゃないか」と気にしている。実際、もうやっているんでしょう?

【チャン】いえ、自分たちが金融をやっているとは考えていません。

――将来、ライドシェア業界に参入する可能性はありますか?

【チャン】いまのところ、そういう計画はないです。

――でも、お客様は求めている。アマゾンのミッションに合うんじゃないですか。

【チャン】たしかにテクノロジーを使って解決すべき難しい問題はいろいろあります。ただ、世界にはプレーヤーがたくさんいて、アマゾンはその中の1つにすぎません。私たちはあらゆることをやるわけではなく、優先順位を設定しています。私たちにはアマゾンマーケットプレイス、アマゾンプライム、それからAWSという非常に大きな3つのビジネスがあります。さらにAmazon Echoも始まったばかり。これらはまだ成長の可能性が大きいので、しっかりフォーカスをしていきます。

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Amazonの融資サービス
2014年から、アマゾンマーケットプレイスに出品している法人事業者を対象に、運転資金の融資を行う「アマゾン レンディング」を開始している。

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■なぜチャンさんは、立ち上げすぐのアマゾンジャパンに?

――チャンさんの話を聞かせてください。香港のご出身ですね。

世界最大の河川アマゾンから名づけられたAmazon.comはその名の通り、あらゆるものが流通する場へと挑戦を続けている。ロゴにもその意思が表れている。2016年決算では、売上高は世界で1360億ドル(約15兆円)、前年比27%増。

【チャン】はい。父は中国生まれで、若いときに香港に移住しました。母は香港生まれ。父は小さな広告代理店を経営しており、母は看護師でした。両親の背中を見て、自分も起業家のようなプロフェッショナルなことをやりたいと考えながら育ちました。

――大学を卒業されて、キャセイパシフィック航空に入社、それからカナダのP&Gに転職される。

【チャン】大学の学部でエンジニアリングを学び、それを活かせる仕事ということで、当時、香港を代表する企業だったキャセイパシフィック航空を選びました。キャセイパシフィック航空ではエアラインプランニングオフィサーという職に就いていました。航空会社が所有する航空機を見ながら、さまざまな計画をする仕事です。P&Gに転職したのは1987年。洗濯用洗剤のカテゴリーでアナリストをしていました。香港返還のあった97年に北東アジア地域担当となり、日本に来ました。

――アマゾンジャパン入社は2000年。アマゾンジャパンができた年ですが、どうしてまだ何もない会社に?

【チャン】90年代の半ばから、インターネットが盛んに使われるようになり、さまざまなビジネスモデルが現れ始めました。このテクノロジーは、いろいろな人たちの生活を変えることができる。そこに非常に大きな可能性を感じていました。ちょうど日本に来ている友人を通してアマゾンの人たちに会いました。彼らは変化を起こすこと、お客様のためにリスクを取ることに高いレベルの熱意を持っていた。私もぜひこのチームの一員になりたいと思って00年12月に入社しました。サイトのオープンが11月でしたから、その直後ですね。

――何もないところから事業を始められた。なにが大変でしたか?

【チャン】苦労はいろいろありましたが、まず苦心したのはチームづくり。みな同じ情熱やミッションを持ち、お客様のことも同じように理解をする。そうしたチームを日本でつくっていくことが大変でした。

■アマゾンの社員はどんな人たち?

――アマゾンの社員には、どんなことが求められますか?

東京・目黒のアマゾンジャパン本社内の食堂。社員の誰かがワークポリシーである『Work Hard, Have Fun, Make History!』と書き込んだという。ハードワークのなかにも自らもチームも業務改善を繰り返して成長を楽しむ文化があるという。

【チャン】Work Hard, Have Fun,Make History――。創業者のジェフ・ベゾスがアマゾン設立のときに語った、アマゾニアンの行動規範です。「Work Hard」は、一生懸命働くということ。もちろんやみくもに頑張るだけでは意味がありません。お客様第一というミッションのためにハードワークします。「Have Fun」、つまり楽しむことも大切で、私たち自身が楽しみ、お客様に素晴らしさを伝えていきたいと考えています。最後の「Make History」も重要な考え方。私たちは前例のないことにチャレンジして、お客様の生活や人生にいい影響を与えようとしています。たとえばインターネットで商品を販売するのはアマゾンが初めてやったこと。さらにインターネットで販売した商品を非常に速いスピードで届けるサービスも、それまでありませんでした。これらはまさに歴史をつくったといえますが、これで満足していてはいけない。成し遂げるべきことの基準をさらに高めていきます。

■創業者の「ジェフ・ベゾス」。どんな人ですか?

――ベゾスさんは、チャンさんから見てどのようなリーダー?

【チャン】先見の明があります。いま私たちが掲げているミッションは創業当時と変わっていません。それを20年以上前に考えたのですから、ジェフのビジョンの正しさがわかると思います。もう1つ驚かされるのは、お客様に対する情熱。つねにお客様のことで頭がいっぱいという感じなのです。彼はいまでも個人のお客様からEメールで届いた問い合わせに直接答えています。また、革新への情熱もすごい。いまアマゾンはさまざまなイノベーションに挑戦していますが、その背景には積極的にリスクを取ろうというジェフの姿勢があります。次の四半期や来年といったタームではなく、もっと長期的な視野で投資ができるのも、彼の情熱があってこそです。

――チャンさんは、どのようなリーダーを目指されていますか?

【チャン】私はジェフのリーダーとしての資質に惚れてアマゾンへの入社を決めました。私もジェフのようなリーダーを目指したいです。

――一般的に外資系の社長は短期間で交代する。でもチャンさんは在任16年。いつまでお続けになりますか?

【チャン】とてもいいご質問ですね。でも、わからないんです。ただ1ついえるのは、私はいまでも毎日が「Day One(始まりの日)」だと考えています。「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」というミッションに向けて、毎日、新しいスタートを切っているつもりです。もちろん私には、アマゾンにおいて多くのリーダーを育てるというミッションもある。アマゾンにはリーダーシップの原則が14項目あり、私がなかでも特に重要だと考えているのは、つねにお客様のことを考えること。そして、何かを選ばなくてはいけないときに正しく判断すること。アマゾンでは1人ひとりがみなリーダーで、それぞれの仕事で素晴らしい仕事をしてくれますから、皆のリーダーシップを引き出していきたいです。

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ジェフ・ベゾス
Amazon.comの共同創設者兼CEO。プリンストン大学で計算機科学と電気工学を専攻。1994年にインターネット書店を立ち上げて、95年にAmazon.comとして正式にスタートさせた。資産総額は約11兆円で世界一。

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ジャスパー・チャン
アマゾンジャパン合同会社 社長
1964年、香港生まれ。86年に香港大学工業工学部を卒業後、キャセイパシフィック航空に入社。87年にカナダに渡り、プロクター・アンド・ギャンブル・インクに入社し、90年にヨーク大学でMBAを取得。2000年12月にアマゾンジャパンに入社し、2001年4月より現職。
 

田原総一朗
ジャーナリスト
1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。若手起業家との連載を収録した『起業家のように考える。』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。
 

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(ジャーナリスト 田原 総一朗、アマゾンジャパン社長 ジャスパー・チャン 構成=村上 敬 撮影=大槻純一)

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