上司から"イエス"を引き出す頼み方のコツ

プレジデントオンライン / 2018年2月14日 9時15分

齋藤孝『大人の語彙力大全』(KADOKAWA)

上司に頼み事をするとき、あなたはどのように切り出すだろうか。明治大学教授の齋藤孝氏は、「『今ちょっといいですか』は不適切。おすすめは『30秒だけいいですか』と時間を区切ることです」という。「お願い」を引き受けてもらえる頼み方の一工夫とは――。

※本稿は、齋藤孝『大人の語彙力大全』(KADOKAWA)の第2章「さりげなく使いこなしたい、大人の敬語」を再編集したものです。

■いやな気分がしない程度の持ち上げ方

ビジネス上の頼みごとは期日や責任といった負担が伴うものがほとんどなので、二つ返事でYESと言ってもらえるケースはほとんどありません。「考えておきます」と返事を引き延ばされたり、「それはそうと」と話をそらされたりする場合は、ほぼNOと考えていいでしょう。

頼みごとがとくに難しいのは、相手が目上の人の場合。ハードルの高いYESを目指すのではなく、NOと言われない頼み方、「まあ、そのくらいのことなら」「そう言うなら」くらいの答えを引き出すためには、いやみにならない程度に相手を持ち上げることが大切です。

「この件についてのお考えを聞かせてください」
→「この件についてのご賢察をいただきたい」
「ご理解いただきたく」
→「何卒ご高承いただきたく」
「ぜひ部長のご意見をお聞かせください」
→「お目が高い部長のご意見をお聞かせください」

「ご賢察」は、相手を敬って、その人が推察することをいう言葉。「ご高承」は、「理解する、了承する」を敬っていう言葉。「賢」や「高」がつくことによって、「賢いあなたのお考え」「すばらしいあなたのご理解」という意味の尊敬語になります。

また、「お目が高い」は「よいものを見分ける能力を持っている」という意味で、「目が利く」と同じ意味です。

これらの言葉によって、頼む相手に「他の誰でもない(誰かではダメ)、賢くてすばらしくセンスにあふれているあなただからこそ、お願いしたいのです」というメッセージを伝えることができるのです。

人は、自分のオリジナリティを評価されるとうれしいもの。“誰でもいい”ではなく“優れているあなただから”とさりげなく持ち上げることで、「そこまで言うなら」と思ってもらうことができます。たった一文字でそれができる言葉を使わない手はありません。

■やる気があると感じられる語彙を使う

昨今、企業で仕事をする人たち、特に部下を持つ人たちと話をすると、異口同音に言うのが「近頃の若者はやる気がない」ということ。ですが、日々大学生と接している私は、少し違った見方をしています。

授業の最後に次週までの課題を出しても、「えー」という否定的な反応がないかわりに、「はい!」という積極的な反応もない。「ちゃんとわかっているのだろうか」とこちらが不安になるほどです。ですが、いざ翌週になると、皆課題をこなしてきているのです。皆の前で発表するとなれば、自分たちなりに取り組んだ成果をしっかりプレゼンできます。

つまり、「やる気がない」のでも「実力がない」のでもない。ただ、「元気がない」だけなのです。しかし、年齢の高い人たちは、「はい! がんばります!」と分かりやすく元気のある人を「やる気がある」とみなす傾向があり、わかりやすく食いついてくれる若者を「見込みがある」と評価する傾向にあります。

つまり、目上の人から意見やアドバイスが欲しいときなどは、自分のやる気を見せる言葉をうまく使うといいのです。

「ご意見ください」

「後学のためにぜひご指導ください」
「よろしければ、ご教示いただけますでしょうか」
「何卒ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」

「後学」は、「将来自分のためになる知識や学問」のこと。「後学のために」と言えば、「今いただくアドバイスは、必ずや後々の仕事に生かします!」という前向きなニュアンスが伝わります。

「ご教示」は「教え示すこと」。「教授」は、学問などを継続的に教え授けることで、「教示」よりは時間をかけるイメージです。

「ご鞭撻」は「努力をおこたらないように強く励ますこと、いましめること」という意味です。

ただ単に「ご意見ください」と言うのでは、相手の負担を強いるだけになってしまいます。そこに、「自分はこんなにやる気がありますので、ぜひともアドバイスをください」と伝えることで、上司は意気に感じるというものです。

『宮本武蔵』などで知られる作家の吉川英治は、「我以外皆我師(自分以外は皆自分の師である)」という言葉を残しています。アドバイスやコメントをもらうというのではなく、教えをいただくという気持ちで頼むことが肝要です。

■相手にも自分にも負担をかけない“30秒相談”

上司に相談ごとがあるとき、「すみません。今ヒマですか?」と聞くのは言語道断です。だからといって、「すみません、今ちょっと時間ありますか?」と言うのも適切ではありません。相談される側は、時間のあるなしで相談を受けるかどうかを決めるのではなく、往々にして「相談内容が何か」で決めるもの。なぜなら、「面倒なことに巻き込まれたくない」「面倒なことで時間を取られたくない」というのが本音だからです。

ビジネスの世界においては、「時は金なり」が常識。他人の時間をムダに奪うことは罪であるという認識を持たなくてはなりません。

ですので、相談事は簡潔にすべき。「ちょっとご相談があるのですが」ではなく、「今30秒だけお時間いただけますか」と言いましょう。ただ単に「相談」と言うと、プライベートなことからビジネスの入り組んだ話まで、何が来るかと相手は身構えてしまいます。ですが、「30秒だけ」と言えば、内容はさておき30秒=短時間で解決するシンプルなことだと感じます。つまり、相談されるほうの負担が軽減されるのです。

私の感覚では、10年くらい前には「5分だけ」と言えば短時間というニュアンスだったのですが、その時間感覚が年々短くなっているような気がしています。5分、3分、1分、30秒と、「ちょっとだけ」と感じる時間が短くなっているのです。

30秒で実のあるコミュニケーションをするには、10秒で状況説明をし、10秒で質問をして、10秒で返答をもらう、というくらいでしょう。そんなに短い時間ではムリだと思うかもしれませんが、本当に必要なことだけをやりとりするには十分な時間です。

私自身も、大学で他の教授に確認や相談をすることがあります。互いに時間がなく、移動の合間に廊下ですれ違うときくらいしか会えない場合は、この「30秒相談」をします。

「○○先生、今30秒だけいいですか」
「あ、いいですよ」
「先日の△△の議案について、□□先生にご協力いただきたいのですが、話を通していただけますか?」
「いいですよ。あとで私から□□先生に一報入れておきますので、明日くらいに連絡してみてください」

こちらから「30秒」と言っているので、相手も、挨拶なしに用件だけを簡潔にやりとりしようという心構えをもってくれます。

「用件だけのやりとりでは心が通わない」と考えるのは、早計にすぎません。相手の時間を大切にしつつ、自分の時間も大切にする。かつ必要なやりとりを過不足なく済ませることができる。「30秒相談」は、互いの状況を理解しあっているからこそ成立するものなのです。

どんな頼み方をするか。どんな相談の仕方をするか。これらも、その場面に適した語彙力によるところが大きいのです。

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齋藤孝(さいとう・たかし)
1960年静岡県生まれ。明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。著書に『三色ボールペン活用術』『語彙力こそが教養である』(以上、KADOKAWA)、『声に出して読みたい日本語』(草思社)など多数。NHK Eテレ『にほんごであそぼ』総合指導。

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(明治大学文学部教授 齋藤 孝)

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