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定年後を充実させる「ゆる起業」の5原則

プレジデントオンライン / 2018年3月10日 11時15分

写真=iStock.com/Yuri_Arcurs

定年後の60~74歳までの15年間は、元気で好きなことができる「人生の黄金期間」。このときに無為に時間を過ごすのではなく、充実した第2の人生を送るにはどうすればいいのか。ベストセラー『定年後』の著者・楠木新さんなど3人に聞いた――。

■定年後も生き生きしている人は全体の2割程度

長い宮仕えを終え、やっと手に入れた自由。これからはのんびり好きなことをして過ごすぞと喜んだが……。

「定年後は確かに解放感があります。特に最初の1カ月は解放感に満たされます。ただ、それがピークで、半年もすれば現役時代との落差を痛感し始める。忙しく、人間関係がわずらわしくても、会社生活はそれなりによかったなと。定年後も生き生きしている人は全体の2割程度でしょうか」

こう語るのはベストセラー『定年後』の著者、楠木新さんで、大勢の定年退職者を取材したなかでの実感だそうだ。

定年6カ月後は雇用保険が切れる時期で、仕事を探し始める人も多いが、現実は厳しい。いままでのキャリアを生かせる仕事に就けるのは一握り。警備員など現場での仕事は需要が多いものの、体力に不安があるし、プライドも邪魔する。では、地域でのボランティアはどうか。「地域とのつながりがほとんどなかったオジサンがいきなりコミュニティーに参加するのは難しいでしょう」(楠木さん)。

しかたなく図書館や喫茶店で時間をつぶしたり、家でテレビを見てダラダラ過ごすことに。それが妻の負担となり、別名「主人在宅ストレス症候群」という心身症まで生まれている。

楠木さんは、定年後の60~74歳の15年間を「人生の黄金期間」と呼ぶ。1日の自由時間は11時間で、トータル6万時間もある。「この膨大な時間を有意義に使うかどうかが人生後半戦の大事なポイントになります」(楠木さん)。

とはいえ、前述のように再就職やボランティアはハードルが高い。そこで選択肢のひとつとなるのが、自分に適した自営や起業だ。「ボランティアに比べ、お金を稼いでいる人のほうが生き生きしています。より大きな義務や責任が伴うからでしょう」(楠木さん)。

自営や起業のためには助走期間が大切で、「できれば50代前半から準備したほうがよいでしょう」と楠木さんは助言する。楠木さん自身も、50歳から仕事と並行して執筆に取り組んできた。

■「ゆる起業」で、無理なく長続き

実際の起業には、株式会社、有限会社、NPО(特定非営利活動法人)団体などの方法がある。しかし、いずれにせよシニアの起業は、営業も経理も日々の雑務も全部1人でこなす、個人事業主による自営業に近いものが多い。

シニア世代の自営や起業を数多く支援する銀座セカンドライフ社長の片桐実央さんも、50代からの準備をすすめる。そして、片桐さんが提唱する方法が「ゆる起業」だ。20~30代の起業とは異なり、お金をたくさん稼いだり、株式の上場を目指すのではなく、シニア層のほとんどがやりがいを重視し、社会との接点や人生を楽しむことを起業理由に挙げているからだ。片桐さんは、次の「ゆる起業の5原則」を掲げる。

(1)本当にしたいと思えること
(2)やりがいを感じること
(3)経験を生かせること
(4)利益をあまり追求しないこと
(5)健康が一番であること

次に、具体的なビジネス内容を検討する段階で重要なのが、「好きなこと(やりたいこと)」「得意なこと(できること)」「お金になること(市場性)」という3つの分野に該当するものを書き出し、そのなかで重なり合うものを絞り込んでいく作業(図1参照)。「その領域で起業すれば、成功する確率が高まります」と片桐さんはいう。

さらに、SWOT分析(※)で事業の強みや弱みを分析し、具体的な事業計画書を作成する。これらの作業は3年ほどかけてじっくり行うことが大切で、「行ける」と判断したら、約3カ月を目安に具体的な起業準備を進める。

ゆる起業での開業資金はできるだけ少なくする。片桐さんが支援するシニア起業家の場合、平均100万~300万円が多く、日本政策金融公庫総合研究所の統計データもそれを裏付ける(図2参照)。

※事業の外部環境や内部環境を、強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)の4つのカテゴリーで要因分析するもの。

■開業のポイントは、固定費の抑制

「シニア起業の成功のポイントのひとつが、固定費の抑制です」と指摘するのが、起業コンサルタントで税理士・社会保険労務士・行政書士の中野裕哲さんだ。年間約300件の相談に乗ってきた経験だと、シニア起業は最初の1年で15%、2年目でその15%、3年目でさらにその15%が廃業する。3年以内に約4割が消える計算だ。

中野さんが挙げるスタートで成功するポイントは次の3つ。

(1)人員は基本的に自分1人
(2)シェアオフィスで十分
(3)HPやチラシなどをつくる際は業者から相見積もりを取る

要は固定費の抑制だ。「特に大企業出身の人は、最初から大風呂敷を広げたがります。見栄もあると思うのですが、非常に危険です。自営、起業を問わずに、注意しましょう」と中野さんは忠告する。

「廃業とは事業を諦めること。売り上げが伸びないなかで、毎月お金が出ていくのは精神的にきつい。固定費を抑えることで、諦めるまでの時間が延びます。そうやって長く続けられれば、成功の確率も上がります。資金繰りもしっかり管理しましょう」(中野さん)

何をビジネスにするかは、やはりキャリアを生かし、知識や人脈を最大限活用することが基本だという。これは開業資金を融資で賄う際に、金融機関も重視する。金融機関選びも大事だという。日本政策金融公庫などの政府系金融機関は無担保・無保証での融資を行っている。「公的機関の助成金や補助金制度も活用すれば、自己負担を抑えられます。なかにはHP作成で100万円を助成するものもありました」と中野さんはいう。

自営にせよ起業にせよ、きちんと段階を踏まえていけば成功へのハードルは低く、充実した第2の人生を満喫できる。ぜひ、挑戦してみては。

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中野裕哲
起業コンサルタント
V-Spiritsグループ代表を務め、年間200~300件の起業相談を無料で引き受け、起業家を数多く輩出している。
 

楠木 新
『定年後』の著者。京都大学卒業後、大手生保に入社。勤務と並行して、「働く意味」をテーマに取材・執筆活動を行う。2015年に定年退職。
 

片桐実央
銀座セカンドライフ社長
学習院大学卒業後、花王、大和証券SMBC勤務を経て、2007年に定年前後での起業支援会社の銀座セカンドライフを設立。
 

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(ジャーナリスト 田之上 信 撮影=小田駿一、石橋素幸 写真=iStock.com)

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