西洋医学と漢方薬の効果的な組み合わせ方
プレジデントオンライン / 2018年3月31日 11時15分
■血管の老化防止に効果がある「EPA」
「男性は、男性ホルモンの分泌が低下し始める40代ごろから、内臓脂肪が増えやすくなり、血管の病気や糖尿病などにつながるメタボリックシンドローム(メタボ)の状態になる人が増えます」と糖尿病の専門医で、岡本内科クリニックの院長を務める岡本亜紀氏は話す。
岡本氏は、西洋医学の薬、漢方薬、サプリメントを組み合わせ、糖尿病などの生活習慣病の治療に当たっている。糖尿病患者の血管年齢を測ると、実年齢よりも10歳程度上まわる傾向があるという。
血管年齢は、血管の硬さと血管内皮の厚さから測定する。年齢が高いと、血管の柔軟性が低く、内径が狭いため血圧が高くなる傾向があり、吸収できないコレステロールの残骸が血管の中に沈着して脳梗塞や心筋梗塞などにつながりやすい。
血管の老化防止で、岡本氏が注目するのが、「EPA(エイコサペンタエン酸)」という脂肪酸だ。
主にイワシ、サバ、アジなどの青魚の脂に多く含まれ、血液をサラサラにする作用がある。血液検査で、肉に多く含まれる「AA(アラキドン酸)」に対するEPAの比率を見ると、血液がサラサラかドロドロかがわかる。この値が高いほど、血液がサラサラで血栓などができにくい。欧米人の平均は0.1、日本人の平均は0.4だが、0.7以上だと血液がサラサラの理想的な状態になる。
「血管の中では常に、内皮がはがれ小さな炎症が起きています。EPAにはその修復作用があり、1日に1800ミリグラムの摂取が推奨されています」と岡本氏は説明する。しかしこれだけの量を、毎日青魚などの食品から摂取するのは難しく、カロリー過多にもつながる。そのため同院では、薬である高純度EPAを処方している。EPAは、サプリメントとして市販されているものもあるが、処方薬とは成分の含有量や品質が異なるので注意が必要だ。
■疲れやすいのは「うつ」の前兆かも
同院は「男性外来」を開設しているが、来院者のほとんどが40~50代だ。きっかけとなる主な症状は「疲れやすくなった」。テレビなどに取り上げられて話題になったLOH(加齢男性性腺機能低下)症候群、いわゆる男性の更年期を疑って受診する人が増えているという。しかし血液検査で男性ホルモンの値を見ると、多くは低下が見られない。そのほとんどはLOH症候群ではなく、うつ病の前兆であることが多い。「軽いうつなら、漢方薬が効くことも多いです。漢方では、うつの前兆を『気滞(きたい)』、うつになると『気うつ』と呼びますが、気滞には半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)や柴朴湯(さいぼくとう)などが効果を示す場合があります」。
LOH症候群は、疲れやすくなるほか不眠、いらいら、性機能低下、頻尿などの症状が特徴だ。治療は、男性ホルモン(フリーテストステロン)の補充を行うこともあるが、岡本氏は「過剰摂取や副作用のおそれもあるため、当院ではアメリカから輸入しているDHEAというサプリメントを使います」と話す。このサプリメントは、男性ホルモンや女性ホルモンになる前の「前駆物質」であるため、必要な分しか男性ホルモンにならず、過剰摂取を防げる。
また、漢方では、加齢による体の変化、老化を「腎虚(じんきょ)」と呼ぶ。腎臓の老化に象徴されるが、それだけでなく、広く骨や脳、耳、生殖能力や排泄能力など全般の機能が低下することを指す。
■漢方薬では副作用が出ることも
老化による症状で多いのが、腎臓の老化による頻尿だという。「頻尿の原因は、腎機能低下の場合もあれば、前立腺肥大による尿道圧迫、糖尿病の場合もあります。原因によって治療も変わるので、気になる人はまずは病院で診察してもらいましょう」。
男性の老化は、頻尿のほか、耳鳴りや薄毛などさまざまな症状がある。ED(勃起不全)には、バイアグラやシアリスなどの薬を処方することもある。こうした男性力の衰えに対しても、「漢方では八味地黄丸(はちみじおうがん)や六味丸(ろくみがん)など、症状を改善する滋養強壮剤がいくつかあります」。
同院ではダイエット外来も開設しており、医師と管理栄養士による食事療法に加え、必要に応じて食欲抑制剤などの薬や、サプリメント、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)などの漢方薬も使う。「肥満の原因にもよりますが、基本的に副作用の低いものから使います。さらに、保険適用かどうかによって費用も変わるので、患者さんと相談しながら決めます」。
サプリメントは薬ではなく、栄養補助食品。岡本氏は「摂りすぎると害になるものもありますが、基本的に食品なので副作用はありません」と言う。一方漢方薬はあくまでも薬なので、副作用が出ることもある。ただ、同じ薬であっても、西洋医学の薬とは、根本的な考え方が違う。西洋医学の薬は、例えば「頭痛」であれば「痛み止め」を処方するなどの「対症療法」。一方漢方は、頭痛を引き起こす原因に働きかける根本治療を目的としている。
■医師の力量が問われる、漢方処方
漢方薬については、「長く飲まないと効かない」という誤解をしている人は多いが、「即効性のある漢方薬はたくさんあります」。たとえば、かかり始めの風邪やインフルエンザには麻黄湯(まおうとう)が向いている。冬に流行するノロウイルスには半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)がいい。更年期についても、早い人だと2、3週間で症状が改善するという。
特に風邪などについては、漢方は「かかり始め」と「治りかけ」に効くため、飲むタイミングが重要だ。また、漢方薬は患者の体質に合わせて処方するものなので、漢方に詳しい医師に相談しよう。
葛根湯(かっこんとう)などは市販薬を購入する人も多いが、市販薬と処方薬の違いは、有効成分の濃度だ。「葛根湯だと、処方薬は市販薬と比べ、3~5倍くらい濃いため、効きに違いがあります」。
漢方薬は中国など他国では、原材料を漢方医が自分で調合して作る。しかし日本の漢方薬は、独自の進化を遂げており、主に漢方薬メーカーのツムラが「こういう体形、体質の人の、こういう症状向けに」と、複数の成分を配合して作っている。それを医師が処方するため、複数種類の薬を処方しようとすると、異なる薬に同じ成分が含まれていて重複することもあるなど、使い方が難しいのだという。
漢方、漢方薬に詳しい医療機関を探すには、「漢方のお医者さん探し」といったウェブサイトで検索できる。岡本氏は、いい漢方医の見分け方として、「『漢方だけで何でも治す』という医師ではなく、漢方と西洋医学の『いいとこどり』をしてくれる医師がお薦め」と話す。
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・どこから始まる?
男性は40代ごろから男性ホルモンの分泌が低下し始め、メタボリックシンドロームのほか、頻尿など更年期の症状が現れる。
・最悪の場合は?
メタボは糖尿病、脳梗塞、心筋梗塞などにつながる。男性更年期はうつ病や睡眠障害を悪化させる可能性あり。
・予防、改善策は?
薬が有効。医師に相談し、体質と合った漢方やサプリメントを組み合わせ、副作用を小さく抑えながら状況改善に取り組む。
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医療法人社団OKM岡本内科クリニック院長
糖尿病専門医、医学博士。東京女子医科大学卒。専門分野は糖尿病、肥満症、脂質異常症、高血圧。同院では、漢方外来、サプリメント外来、男性外来なども設けている。
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(ライター 大井 明子 撮影=向井 渉)
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