同期に抜かれ人生のどん底で迎えた30歳
プレジデントオンライン / 2018年3月27日 15時15分
アストラゼネカ 執行役員 野上麻理●1992年、大阪外国語大学(現・大阪大学)を卒業後、P&Gジャパン入社。マックスファクタージャパンプレジデント、P&Gヴァイスプレジデントを経て2012年、アストラゼネカに転職。14年より執行役員。2児の母。
■生理用品担当者なのに生理が止まる
2012年まで在籍したP&G入社の日、同期を前に「私が一番に出世するから」と言い放った。他の同期は4月から3カ月間、サンフランシスコで生活を楽しみながら語学研修。ところが、外大出身で留学経験もある野上さんは英語が話せるので1日から仕事。
「めちゃくちゃ悔しくて宣戦布告しました(笑)」
やる気十分。でも、その前のめりが失敗の伏線になるとは。
4年目に同期一番で管理職に昇進。部下2人、売り上げの小さな洗剤のブランドマネジャーだったが、うれしかった。1年後、今度は主要ブランド「ウィスパー」のマネジャーに。部下は5人に増えた。部下は以前からウィスパーを担当し、ビジネスがよくわかっている。
あろうことか、「私の存在意義を知らしめねば」と部下の仕事すべてを管理する動きに出た。部下が出る会議にはすべて出席。もちろん自分の実務もある。朝の9時から仕事を始め夜の7時、8時、9時と延長しても時間が足りない。さらに10時、11時、12時と延びるが終わらない。「これは朝早く来るしかない」と、今度は出社が8時、7時と早くなる。
「ついには始発から終電までという恐ろしい仕事時間になってしまいました。生理が止まってしまい、研究開発の担当者から『新製品の試作品ができたから使ってみて』と言われても使えません」
働けど働けど成果は出ない。もがく日々が続く中、ふと仕事のできる女性上司を見ると部下に仕事を任せている。「なぜそんなに任せられるのですか?」と尋ねると、「だって、みんな賢いやん」。
その一言に大きな衝撃を受けた。今まで部下に疑いの目を向け、いちいち監視していた自分とは何たる違い。それからはだんだんと仕事を任せられるようになった。しかし不振に陥っていた間に昇進で同期に抜き返されていた。
「仕事の成果は出ないわ、同期には抜かれるわ、仕事ばかりしているから彼氏はできないわ、酒量は増えるわで、人生のどん底で30歳を迎えていました(笑)」
■出産後、ますます仕事にのめり込む
仕事で開眼すると私生活も好転した。31歳で結婚し子どもを授かる。6カ月の予定だった産休は3カ月に短縮した。産休前、生理用品以外のブランドも手掛けたいと社内アピールしていたら、化粧品ブランドの上司から「SK-IIのブランドマネジャーのポストが空いた」と言われ慌てて職場復帰。
32歳で長女、35歳で長男を産みながら、ますます仕事にのめり込んでいく。その裏の、夫の多大なる協力も見逃せない。
「まったくもって子育てが苦にならない人なんです。子どもたちも『病気のときいつもいてくれたのはお父さん』と言うくらい(笑)」
保育園に子どもを送るのは夫、迎えに行くのは妻とハッキリ役割分担した。野上さんは朝4時半に起きて6時ごろ出社し、夕方は6時に仕事を終え、子どもを迎えに行き、9時半に一緒に寝る。夫は野上さんが出た後に起き、野上さんが寝た後に帰宅する。
野上家が編み出した2交代制だが、インド人の男性社員から「なんて悲惨なんだ! 夫婦が会わないなんて」と言われた。
野上さんはアストラゼネカに転職してから“本物”のワーク・ライフ・バランス(WLB)を見ることになる。15年夏からスウェーデンで勤務をしたときだ。夫に「子どもたちに海外を見せてやりたい」と言うと、賛成してくれた。仕事で日本を離れられない夫を残し、子ども2人を連れ、呼吸器関連薬のヘッドとしてスウェーデンに赴任。
「みんな家族と一緒に自宅でご飯を食べるので、ふつうは5時、6時に帰り、金曜の4時にはオフィスに誰もいなくなる。私も子どもとの時間がたっぷりとれました」
ところが北欧の長く暗い冬が本格化した12月、長男の調子がおかしくなり、年明けには「日本に帰りたい」と言い始めた。長女のほうを心配していたので驚いた。
「中2の娘はインターナショナルスクールで英語がしゃべれないし友だちもできなくて、毎日『学校行きたくない』『頭痛い』って言ってましたから。息子は11歳で友だちとサッカーでもやっていれば何とかなると思っていたんですが」
野上さんが長女に「どうする?」と尋ねると、「私は帰れない。日本の友だちにはスウェーデンに行くとお別れしたのだから今さら恥ずかしくて」と言う。長男だけを送り返すことにした。
「夫は寂しくなって酒量が増え、食事もお総菜ばかり。健康診断にも引っかかっていました。息子が帰ると聞いてすごく喜びました」
男子チーム、女子チームに分かれての2年間。これも野上家らしいWLBの形だった。
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Q. 好きなことば
ピンチはチャンス
Q. ストレス発散
飲む
Q. 趣味
フルマラソン(自己ベストは3時間13分)トライアスロン
Q. 愛読書
『スラムダンク』(井上雄彦)
『さあ、才能に目覚めよう』(マーカス・バッキンガム)
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(Top Communication 撮影=藤井泰宏)
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