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米朝会談後も朝鮮半島から"核"は消えない

プレジデントオンライン / 2018年3月24日 11時15分

呉 善花・著『韓国と北朝鮮は何を狙っているのか 核ミサイル危機から南北連合国家へのシナリオ』(KADOKAWA)

5月までに開かれる予定の米朝首脳会談。北朝鮮の核戦力放棄が焦点になっているが、拓殖大学教授の呉善花氏は「米トランプ大統領は、アメリカに届く長距離ミサイルの開発凍結さえ確認できれば、北朝鮮の現体制維持を保証したまま、核保有を容認する可能性がある」と指摘する。そうなれば日本の脅威は消えないことになる。これから想定される「最悪のシナリオ」とは――。

■トランプはなぜ金正恩の誘いに応じたのか

3月8日、ドナルド・トランプ米大統領は「北朝鮮が非核化の意思を示した」と評価し、5月までに北朝鮮が望む米朝会談に応じる、と表明しました。米朝会談でどのような話が交わされるにせよ、「非核化の意思」とは、実に曖昧な言葉というしかありません。こんな不確かな状態でアメリカが米朝会談に応じたことに、私は強い危機感を覚えました。

北朝鮮が「核放棄」を言明して米朝協定などを結び、非核化へ向けて一定の行動を示しながらも、すぐに協定を反故(ほご)にして核開発を続けるといったことが、これまでに何度もあったからです。たびたびの裏切りに苦汁を呑(の)んできたアメリカが、「非核化の意思を示した」という程度で会談に応ずるとは、いったいどうしたことでしょう。

これまで、北朝鮮は「核保有を認めないかぎり対話には応じない」、一方のアメリカは「核放棄をしないかぎり対話には応じない」と言い続けて、真っ向からの対立が一触即発の緊張下で行われてきました。その対立とは、そもそも何だったのか?

2017年の春ごろから、アメリカは北朝鮮に対してさかんに「レッドライン(超えてはいけない一線)」を主張し、レッドラインを越えたら武力攻撃もありうる、との姿勢をとってきました。その際、アメリカはどこがレッドラインかを曖昧にしていましたが、韓国の文在寅大統領は、それを懇切丁寧に北朝鮮に知らせていました。文在寅は、大統領就任100日を迎えて行った記者会見で、「北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)を完成させ、そこに核弾頭を搭載して武器化することになったら、それがレッドラインだ」と述べたのです(WoW Korea2017年8月17日)。

北朝鮮は、「核ミサイル開発は完成段階に達した、アメリカ領土を直接攻撃しうる能力をもった」と公言しています。しかし、実際に完成に近づいているとはいえ、おそらくまだいくつかの実験が必要で、「アメリカ領土を直接攻撃しうる能力」を完成させているといえないことは明らかです。それを承知のうえで北朝鮮は、「完成した」といっているのです。

写真=iStock.com/themotioncloud

この主張を額面どおりに受け取れば、「核開発はすでに終了した」ということになります。ということは、この「完成した」という公言によって、北朝鮮は「アメリカ領土を核攻撃しうる能力については完成させない」と暗に表明している、とも受け取れます。北朝鮮は、そこがアメリカのレッドラインであることを十分に心得ているからでしょう。

これまでアメリカは、北朝鮮の現体制容認を表明しており、体制崩壊の意図はない、求めるのは核放棄だけである、とたびたび発言しています。こちらもアメリカの主張を額面どおりに受け取れば、北朝鮮がレッドラインを越えないかぎり、北朝鮮の体制は事実上、アメリカに保証されたのも同然、ということになります。

今回の米朝会談の決定は、このレッドラインをめぐる攻防の終わりを告げるものでしかありません。最終的な朝鮮半島非核化への道を開くものとはならない、というのが私の考えです。

■北の核放棄も、米朝戦争も起きない可能性

韓国の要人はこれまで「北朝鮮が韓国を核攻撃することはありえない」との認識を示してきましたが、このレッドラインをめぐる攻防が終わっても、日本にとっての北朝鮮の核の脅威はまったく消えません。北朝鮮の核ミサイルは、すでに日本全域を射程に入れています。射程距離1300キロメートルの弾道ミサイルのノドンは、現在、数百基配備されていると見られますが、2012年時点ですでに50基が配備されていたといわれ、アメリカ政府は2013年4月、これらのミサイルに「搭載可能な小型核弾頭を保有している可能性がある」と日本に伝えてきています。

しかし、それにもかかわらず、アメリカはその危機がさらに進展することを本格的に防ごうとはしませんでした。その一方では自国防衛の危機、つまり、北朝鮮がレッドラインを越えることを、これ以上ない威嚇的圧力をはじめとするあらゆる手を尽くして、なんとしても防ごうとしてきたのです。

トランプ米大統領が、自国の国益にならないかぎり、諸国の軍事的な安全を保障する「保険国家」の役割をもうアメリカは続けない、という方針であることは、明らかであると思います。

米朝会談で何が話し合われるにしても、そこでは北朝鮮が核放棄をすることも、アメリカが北朝鮮の核を容認することもないでしょう。北朝鮮の核放棄がないかぎり、国連制裁はどこまでも続きます。とすれば、北朝鮮はどこかで音を上げて核放棄をするのか、あるいは打って出るのか。さらにはアメリカが北朝鮮への攻撃を敢行するのか、偶発的な衝突から本格的な戦争へと拡大していくことがあるのか……。

現在のところ、いずれの可能性も排除できません。しかし、今回の米朝会談の決定で、いずれにもならない可能性が最も大きくなったと私は思います。核放棄をするかしないか、戦争になるかならないかではなく、北朝鮮が核放棄をせず、米朝戦争にもならない可能性が極めて大きくなった、ということです。

「どちらにもならない」状態が続くとすれば、これからどんなことが起こると考えられるでしょうか。この部分こそ、今後の北朝鮮の核問題で最も重要なところであり、拙著『韓国と北朝鮮は何を狙っているのか』(KADOKAWA)の核心のテーマであります。

■アメリカも韓国も在韓米軍の撤退を望んでいる

韓国の文在寅大統領はいま、国連の制裁方針に従う一方で、自国のミサイル防衛体制の強化にやっきになって励んでいます。それは、「韓国が自主防衛能力をもつことを条件に、現在、米軍が保持している軍事指揮権(戦時作戦統制権)を2020年代半ばまでに韓国に返還する」という、米韓の取り決めがあるからです。

軍事指揮権返還の時点で、米韓連合軍については解体することが合意されています。そうなれば、在韓米軍の撤退は時間の問題となり、国連軍も解散することで、韓国は晴れて北朝鮮と平和協定を結ぶことができます。文大統領の悲願である南北統一が、一気に現実性を帯びてくるのです。

この事態こそ、北朝鮮の核放棄も、米朝戦争も起きないとした場合、近未来に起こりうる現実にほかなりません。文大統領の狙いはまさにそこにあるわけですが、実は韓国だけではなくアメリカもかなり以前から、こうしたかたちを最終的な解決案として、朝鮮半島の戦略を展開してきたのです。

アメリカのアジア政策は、1969年のニクソン・ドクトリン以来、「アジア地域での軍事的な紛争には、アメリカは必要に応じて援助するが、関係諸国自身の努力によって解決することを第一義とする」という方針で展開されてきました。朝鮮半島については、「韓国主導の防衛体制構築、軍事指揮権の韓国返還、米韓連合軍の解体、南北平和協定締結」がその構想です。在韓米軍撤退を見据えたこのアメリカの戦略方針は、その途中で挫折はあったものの、一部がすでに実行されながら、現在に至るまで、一貫して生き続けています。トランプ政権の方針も、これと大きく変わりはありません。

ジミー・カーター元米大統領は1977年、韓国軍と北朝鮮軍の戦力は「互角」であるという判断から、「在韓米軍全面撤退計画」を打ち出しました。しかし、やがて「北朝鮮軍優位」との事実が明らかになると、この計画を保留しました。これは逆にいえば、アメリカが「韓国はミサイル防衛システムの完備によって、北朝鮮に対抗しうる自主防衛能力を備えた」と判断した時点で、在韓米軍撤退への道が開かれる、ということです。

■核を持つ「統一朝鮮」誕生という脅威

文在寅の韓国政権が描いている近未来シナリオは、「軍事指揮権返還→米軍撤退→南北平和協定締結」から「南北連合国家形成→南北統一国家実現」へという流れになるでしょう。この流れが、いつの日か起こるであろう流れであるのは確かです。また、現在の世界では、多くの諸国がこうした流れが起きることを望んでいるかもしれません。しかし私は、いまは歓迎どころか、なんとしてもそれを止めなくてはならないと考えています。

なぜなら、現状のままでの南北和平は、北朝鮮の核兵器と独裁体制をそのまま温存してしまうからです。そうなれば、北朝鮮の人権問題が解決されないことはもちろん、経済・文化のみならず南北の軍事・情報工作が一体化することで、日本に対して強大な「反日」攻勢が行われることが、容易に予想されます。

■日本にとっての「あるべき近未来」を考えよ

南北和平から南北連合国家形成という流れは、国際的には東アジアにおける一党独裁国家である中国の覇権を、より確かなものにしていくことでしょう。現在、中国の「一帯一路」構想を軸とする「中ロ朝韓」の新たな北東アジアブロックがかたちづくられようとしています。中国は当然、日本もこの従属下に取り込んでいこうとするでしょう。中国の「親日外交路線」への転換は、近未来の米軍撤退を十分想定しているからにほかなりません。

韓国の南北連合国家構想には、アメリカ歴代政権のアジア戦略、南北朝鮮歴代政権の統一政策、そして北朝鮮の核戦略が複雑に絡み合っています。いまこそ私たちは、その絡み合いを丹念に解きほぐしながら、韓国・北朝鮮が描く近未来シナリオへの分析を通じて、北朝鮮問題をめぐる「あるべき近未来」の姿を考えなければならないのです。

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呉善花
拓殖大学教授
1956年、韓国・済州島に生まれる。83年に来日し、大東文化大学卒業後、東京外国語大学地域研究科修士課程(北米地域研究)修了。現在、拓殖大学国際学部教授。デビュー作『スカートの風』(角川文庫)で注目を集め、『攘夷の韓国 開国の日本』(文春文庫、第5回山本七平賞受賞)、『朴槿恵の真実』(文春新書)ほか、著書多数。

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(拓殖大学教授 呉 善花 写真=iStock.com)

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