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弁護士"公正証書遺言も簡単に無効になる"

プレジデントオンライン / 2018年4月18日 9時15分

いざというとき、自分の身を守ってくれるものは何か。その筆頭は「法律」だ。「プレジデント」(2017年10月16日号)の「法律特集」では、マネーに関する6つのテーマを解説した。第3回は「損する遺言・相続」について――。(全6回)

■なぜ弁護士に「遺言無効確認訴訟」の依頼が多いのか

遺言の形式には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つがある。このうち、最も確実なのが公正証書遺言だ。

理由は、法律の専門家である公証人が、証人立ち会いのもとに遺言書を作成するからだ。自筆や秘密証書遺言のように家庭裁判所における「検認手続き」も必要ないので、相続開始後、すみやかに遺言の内容を実現することができる。

ところが、そんな公正証書遺言であっても無効になる場合がある。まず、遺言内容が公序良俗に反したもの。また、第三者の「なりすまし」が判明すると、それも認められない。ごくまれとはいえ起きる可能性がないとはいいきれない。

さらに、遺言書作成上の手続きに不備があった場合も無効となる。まず、日付なし、何月吉日といった書き方は通用しない。遺言者の署名も不可欠。また、遺言者が遺言の趣旨を口授した内容を筆記した公証人が、読み上げの手続きを取らなかったことで裁判で争われたことがある。とはいえ、公正証書遺言なら公証人が介在し、証人2人以上の立ち会いが必要なので、そうしたミスはまず考えにくい。

それよりも、現実問題として切実なのが、遺言者の「遺言能力」がない場合だろう。実際、私ども弁護士への依頼で一番多いのは、認知症を前提とした遺族からの「遺言無効確認訴訟」だ。ただ、認知症や精神障害といっても、医学上の診断と法律概念での捉え方は微妙に異なる。

例えば「まだらぼけ」は医学的には認知症として扱われることもある。ただこの人は、時として正常な判断もできる。なので、その際に公証役場に出向けば、遺言の作成に問題はない。内縁の妻や同居していた子供が、遺言者に強く迫り、我田引水の自分に有利な遺言書を書かせてしまった場合に、果たして作成時に遺言能力があったのかが問題になる。

■「あの時すでに医師の認知症の診断はくだっていた」

裁判になった場合、公正証書遺言を持つほうが圧倒的に強い。訴訟を起こす側は「あの時点では、医師の認知症の診断はくだっていた」と、医師の診断記録などをもとに遺言の無効を訴えていくわけだ。裁判では、遺言作成当時の年齢や病状、遺言してから死亡するまでの間隔などが考慮要素となる。もっとも、すでに遺言者が亡くなっていることもあり、公証人への尋問だけが決定的に重要になるのだが、公証人はまず遺言能力がなかったとはいわないだろう。

もともと、遺言者の財産は個人のものだ。その意味でも故人の意思が尊重されるのが当然ともいえよう。それが不満なら「遺留分」の請求ができる。相続人としての子供の遺留分は4分の1だが、子供が複数なら、それを分け合うしかない。もちろん、公正証書遺言を作成したあとでも、遺言人を取り巻く生活環境が変化することも考えられる。その場合は「撤回」といって、新たに前の遺言と矛盾する内容の公正証書遺言あるいは自筆証書遺言をつくれば、そちらが優先される。

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長谷川裕雅(はせがわ・ひろまさ)
弁護士・税理士
東京永田町法律事務所代表。早稲田大学卒業後、朝日新聞記者を経て司法試験に合格。大手渉外法律事務所や外資法律事務所を経て独立。著書は『磯野家の相続』『モメない相続』など多数。

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(弁護士・税理士 長谷川 裕雅 構成=岡村繁雄)

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