カルビー会長"報告は全部お金で表現して"
プレジデントオンライン / 2018年4月3日 9時15分
■抜擢されるのはどんな人?
エネルギッシュに動く経営トップのもとで日々、奮闘している人たちがいる。ビジネス書の読者の多くは、そういう人たちにこそ学べるのではないか。
そんな思いから『社長の「まわり」の仕事術』(インプレス刊)という本を書いた。取材したのは、カルビー・松本晃氏、DeNA・南場智子氏、ストライプインターナショナル・石川康晴氏、隈研吾建築都市設計事務所・隈研吾氏、中川政七商店・中川政七氏、サニーサイドアップ・次原悦子氏という6人の経営トップのまわりで仕事をしている13人だ。
今回は13人のインタビューの中から、「社長が“抜擢したい”と思う人の3条件」をピックアップしたい。
■「できる理由を考える」人
まず1つ目は、「できる理由を考える」という人だ。経営トップが口にするのは、やりたいこと。しかも、それは多くの場合で簡単にやれることではなかったりする。しかも、そんなことは経営トップ本人もわかっているのだ。だから「できる理由」を考えてくれる人は、常に必要とされる。
サニーサイドアップの社長室・副室長の谷村江美さんは、勤務していた大手コンサルティング会社の顧問先から、サニーサイドアップの次原悦子社長を紹介された。初対面から20分ほど話すと「ねぇ、あなた、ウチに来ない?」とおもむろに言われたという。
「次原はよく言っているんですが、できない理由を考えるんじゃなくて『どうしたらできるか』を考えてみよう、と。私もそれを信じています」
自分がいっぱいいっぱいのときに、新しいことが投げ込まれたりすると、「どうしてなのか」と感じてしまったり、それが顔に出てしまったりしかねない。しかし、マインドを変えることで、そうはならなくなるという。
「自分自身も含めて、いかに気持ち良く、上機嫌でいられるか。もちろん、気分が乗らないときもたくさんありますが、根底にはそんな姿勢があるべきだと思っています」
■すぐに「できない」とは言わない
ストライプインターナショナルの石川康晴社長は社会活動、文化活動をとても大事にしている。それらを管轄している文化企画部の部長、岡田泰治さんも、やってはいけないのは、「できない」と即答してしまうこと、と語っていた。
「どんなムチャぶりでも、やる前提で考える。考えた後に、問題がたくさん起こってくるので、もう都度都度、つぶしていけばいいんです。取りあえず大きなところから」
こう動いたけれど、このやり方は無理だった、というのはありだという。
「やる前に無理だ、と考えるのはNGですね。やろうとして動いて、結果ダメだったというのはある。でも、本当に100%ダメだった、というのは、ほとんどないですから。やり方を変えてできたとか、やるために形を変えたとか、それなら許容されますね」
ただ、まずは100を狙いに行くべきだ、と岡田さん。最初から、できそうなところで妥協することは許されない、と。
「石川も怒るかもしれないですね。声を上げたりはしませんが、声色でわかります」
世界的な建築家、隈研吾氏の隈研吾建築都市設計事務所で社長を任されている横尾実さんも「まずは、できるんじゃないか」と考える。
「本当に無理なら、隈自身が断っている。だから“そんなことは無理だ”とは考えないですね」
だから“ムチャぶりだ”と感じることもない。
「まぁ、自分なりに都合よく解釈して対応します。物事をあまり深刻に受け止めないことです(笑)。やっぱり楽しめないとダメだと思うので。特に建築は。ネガティブなこともポジティブに、都合よく解釈して。それが大事じゃないかと思います」
振り返れば、若い頃から、そんなふうに考えてきた。だからこそ、隈氏の信頼を勝ち得てきたのだ。
■2つ目は「手間がかからない」という人
社長が“抜擢したい”と思う人の3条件、2つ目は「手間がかからない」という人だ。経営トップにとって、面倒ではない、話が早い、わかりやすく付き合いやすいということだ。カルビーでフルーツグラノーラ事業を急成長させ、6年で執行役員フルグラ事業本部本部長に抜擢された藤原かおりさんは、資料を上司である松本氏好みにしておいたという。
「お金の数字が好きなんです。認知率とか、ブランドイメージとか、そういう数字にはこだわりはない。でも、市場規模とか、どこどこの売り上げがいくらとか、そういうことにはアンテナが立ちますね。『僕はどうでもいいことを記憶できないから、記憶してほしいことは全部お金で表してくれ』なんて冗談で言われたことがあるんですが、お金の数字はものすごく記憶されるんです。投資金額とか、一度聞いたら正確に覚えています」
■社長の言う通り、だけではダメ
ストライプインターナショナルの宣伝部部長中村雅美さんは、石川社長との仕事では、とにかく柔軟でいる、ということを心がけたという。
「言うことがどんどん変わるので(笑)。それこそ1分後に言っていることが変わることもある。極端に言えば。そういうときに、どれだけ『え~っ?』とならずに、目標とするゴールに向かって前向きになれるか、です。
そう心がけていても、「頭が固い」と石川社長から言われることがあった。
「ついつい反論してしまったからだと思います。なので、できるだけ柔軟に考えないと、と思っていました」
ただ、言われた通りにとにかくやればいい、といいうのとはまた違う。
「社長が間違えることもあると思うんです。一方で、その通りにしなきゃいけなかったこともあるんですけど(笑)。ただ、言う通りにやっちゃうと、社長から見てもダメなときもあるわけですね。『言った通りにしかしないなぁ』と」
逆に、物申して意見を言う人は、石川社長にとっても本当はウエルカムだという。
「考えがあったら、ちゃんと言ってほしい、という感じですよ。そこはちゃんと自分の意見を持っていたほうがいいと思います」
こうしたバランス感覚を、仕事をしながら身につけていったのだ。
■トップのビジョンにどうやれば一番早く届くか
カルビーの海外事業本部本部長、笙(しょう)啓英さんは、こんなことを語っていた。
「気をつけているのは、不必要な情報は入れないことです。不必要というより、無駄な情報です」
時間をもらって相談するときの話だ。松本氏が黙っていれば、特に問題はない。おや、と思ったら意見や指摘、質問が来る。
「松本が話したいことがあるときは、口を挟んではいけないですね(笑)。全部、出してもらって、それを受け止めてどうするか、というのが、僕の仕事ですから。自分の思いというのも当然あるんですけど、やるときにトップのビジョンと合っていないと意味がない。ビジョンに対して、自分の持っているやり方で、どうやったら一番早く届くのかな、というのがシンプルに自分の仕事だと思っていますから」
経営トップをよく見ているのだ。その上で、自分のアクションを起こすのである。
■3つ目は「サプライズがある」という人
社長が“抜擢したい”と思う人の3条件、3つ目は「サプライズがある」という人だ。経営トップにとって、ただ使いやすい人が抜擢されるのかと思いきや、必ずしもそうではない。面白みのある人、意外性のある人を、経営者は意外に好んで求めていると感じる。
例えば、DeNAで会長室に配属され、南場智子会長と仕事をしていた中井雄一郎さんは、営業からいきなり会長室への異動辞令がやってきた。さぞ緊張したのかと思いきや……。
「全然ないですね。僕はあんまり人にビビるとかないんです。誰だからどう、ということはないです。もう淡々と。これは成長の機会にはなりそうだ、と思いました。ある意味、唯一求めたのは、そこでしたね」
しかもこのマイペースを貫き通すのだ。
「外に行くときには、一応ついていくようにはしていますけど、『ついてくる回数が少ない』と言われています。これは別に行かなくてもいいかな、と思えるものは行かないんです。そうすると、『どうして来ないのか』と。そのくらい1人でやってください、と返していますけど(笑)」
必要のない随行に行くくらいなら、やるべき仕事をしていたほうがいい、というのが中井さんのスタンス。なんと直々の火鍋のお誘いを断ってしまったこともあるとか。
■社長にもズバズバ言う
ストライプインターナショナルのグローバル戦略ブランド「koe」の事業部部長に抜擢された篠永奈緒美さんも、サプライズな話をしていた。もともとズバズバとモノを言うタイプ。入社時点から、言えるキャラを形作ってきたという。
「入社のときから、宇宙人とか外国人みたいなイメージがあったようなんです。なので、ああ、じゃあ、もうそれでいこう、と思って(笑)」
ミーティングでも思い切った行動に出る。
「今日決めたいことをまず言います。時間がもったいないですから、石川が席に座らないうちに『今日のアジェンダは……』と話始めることも少なくないです。それから。ひとつ目の話が始まって長くなったりすると、もう切っちゃいます(笑)」
経営トップには時間がない。次のアポイントのためにミーティングが打ち切られてしまうこともある。時には、駐車場までついていったり、東京駅まで一緒に行ってしまったりしたこともあるとか。
■社長を「あっ」と言わせる
中川政七商店でデザイナー、さらには園芸ブランド「花園樹斎」のブランドマネジャーに抜擢された渡瀬聡志さんはこんなことを語っていた。
「うちの会社のモノづくりのやり方って、基本的に温故知新なんです。どんなタイプの温故知新をやっていくか、です。平たく言えば、こういういわれがあって、それを現代の流れの中に置くとどうなるか、と。それを、どのパターンで作っていくか、というものを常に意識しています」
ただ、一方でこだわっていることがある。
「“あっ”と言わせてやろう、というのは常にありますね。ヘンにまとめらないように考えています。割とまとまるタイプなので、そこは意識しています」
同じく中川政七商店の執行役員バイヤー、細萱(ほそがや)久美さんの言葉はとても印象的だった。入社10年。執行役員への抜擢は、およそ想像していなかった。
「本当に“商店”という規模のところに入ったつもりでしたし、いろんなモノづくりを学んでいこう、くらいのつもりでしたので。出世欲よりも、自分がやりたいことをやらせてもらいたい欲のほうが強いんです。やっぱりモノが大好きなので、いい商品を作って、お客さまに喜んでもらえる。それが、やりがいがあり、楽しい仕事です」
出世欲のない人が抜擢され、出世していく。これもまた、ひとつのサプライズであり、ひとつの本質かもしれない。優れた「社長のまわり」に、学べることは多い。
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ブックライター。1966年兵庫県生まれ。早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。経営、金融、ベンチャー、就職などをテーマに雑誌や書籍、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人超。著書に『書いて生きていく プロ文章論』(ミシマ社)、『JALの心づかい』(河出書房新社)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)他多数。
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(ブックライター 上阪 徹 写真=iStock.com)
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