日本が5000万人国家になるとどうなるか
プレジデントオンライン / 2018年5月10日 9時15分
※本稿は「プレジデント」(2018年2月12日号)の特集「仕事に役立つ『日本史』入門」の掲載記事を再編集したものです。
■人口減は「パラダイムシフト」を起こしてきた
日本の人口は2008年、1億2808万人をピークに減少に転じました。国立社会保障・人口問題研究所は「このままいけば2053年には1億人を割り込み、2115年には5056万人になるだろう」と推計しています。
国の将来がしぼんでいくようで寂しい印象を受けますが、日本の人口動態を見ると過去にも「縄文後・晩期」「鎌倉時代」「江戸時代中期」と、3度の人口減を経験していたことがわかります。
いずれも直前には大きな人口増の波があり、それをもたらした要因が失われるか限界に近づくことで、人口減に転じました。そして、人口の低迷/減少期には必ず、次世代の扉を開く“パラダイムシフト”が起きているのです。
たとえば、縄文中期まで日本列島は気候の温暖化が続き、狩猟採集の暮らしを営む人々を養うに十分な食糧がありました。ところが、縄文後・晩期には寒冷化が進んだために食糧不足になったのです。人口は26万人から8万人(諸説あり)へと3分の1以下に減りましたが、「水稲耕作」が始まると食糧を計画的に確保できるようになり、弥生時代の人口増加へとつながりました。
そうして奈良時代に人口は450万人ほどまで増えますが、平安後期には耕地拡大が限界に達し、頭打ちになります。さらに疫病や旱害に襲われて、鎌倉時代には2度目の人口減に見舞われるのです。この危機を乗り越えた要因は、在地領主による治水や新田開発が生産力を拡大させたことでした。
江戸中期には新田開発が限界に近づいたために、意図的に出生抑制を行ったり、晩婚化が進んだことが、人口減の原因となりました。これを打破したのは社会システムの近代化、例えば薪などの自然エネルギーから石炭石油など鉱物エネルギーへの転換でした。
■9000万人で人口減は止まる!?
現在は明治以降に始まった人口増が限界に達し、人口減に転じたところです。このトレンドには抗いがたく、何をしてもすぐには人口増には転じません。人口減の原因は何であり、どうすれば食い止められるのか、答えが見えているわけでもありません。
しかし、だからと言って何もせずにやり過ごすわけにはいきません。これからの時代に我々が何をするか/何を見つけるかで、次世代がどのような社会に生きるかが決まるのです。
自然エネルギーの普及が道を開くかもしれませんし、IT/IoT技術の進化が切り札になるかもしれません。私は行動経済学や心理学からのアプローチがヒントになると思っていますが、いずれにせよさまざまな模索・挑戦の中から答えが見つかるのだと思います。
2115年に5056万人という推計は、あくまで「このまま何もしなければそうなる」ということで、数字がひとり歩きしている感があります。そうした中、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部は「2040年までに合計特殊出生率2.07を達成すれば、2110年の人口は9026万人となり、その後の人口を横ばいに推移させることができる」という推計を出しました。
荒唐無稽と言う人もいますが、私は「何もしなければ5056万人だが、手を打てば9026万人までで食い止められる」という数字が示された意味は、大きいと思っています。つまり我々には、子や孫に残す社会の未来を選択する余地があるということです。
▼日本列島が経験した4度の人口減少とは
日本は過去3度の人口減を経験している。「平成の人口減」は4度目だ。
(1)縄文後・晩期は寒冷化による食糧不足が主な要因で水稲耕作が始まるまで続いた。(2)鎌倉時代は荘園制による誘因低下が主な要因で、市場経済化が進むと農業生産性が高まって解消。
(3)江戸中後期は新田開発や資源確保の限界が晩婚化や人口抑制をもたらしたと考えられ、近代化によって打破された。
(4)平成の人口減は何によって転換するだろうか
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静岡県立大学学長
1947年、静岡県生まれ。著書に『愛と希望の「人口学講義」-近未来ニッポンの処方箋-』ほか多数。
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(静岡県立大学学長 鬼頭 宏 編集・構成=渡辺一朗)
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