日本企業がアマゾンに"してやられた"理由

プレジデントオンライン / 2018年4月26日 9時15分

ジェフ・ベゾス アマゾン創業者兼CEO(写真=AFP/時事通信フォト)

米アマゾンが驚異的な成長をつづけている。なぜアマゾンは強いのか。日本で最初にアマゾンと対峙したセブン&アイHLDGSの鈴木康弘元CIOは、「アマゾンの収益モデルは日本の小売業とはまったく発想が異なる。日本の小売業は『客単価×客数』という尺度を使うが、アマゾンは『ライフタイムバリュー』を重視する」という。「ライフタイムバリュー」とは、どういう意味なのか――。

※本稿は、鈴木康弘『アマゾンエフェクト!』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■会社の利益を未来への投資に回すアマゾン

「地球上で最もお客様を大切にする企業」

それが、アマゾンの経営理念です。この理念は、業績の数字そのものに端的にあらわれています。

アマゾンの売上高は右肩上がりでのび、2016年の年間売上高は1360億ドル(約15兆円)に達します。

ところが、営業利益は約42億ドルで利益率は3%にすぎません。

2017年第3四半期(7~9月)の売上高は過去最高を記録しましたが、営業利益率はわずか0.8%でした。売上高が急速に拡大を始めた2000年代半ば以降の最終損益の推移を見ると、一貫して収支トントンが続いています。

アマゾンは、稼いだ利益の大部分をネット通販の値下げ、新規事業や物流網構築など長期的な投資につぎ込むからです。

そんな経営姿勢を、株主も高く評価しています。

アマゾンは上場企業でありながら、株主に配当を一度も払っていません。それでも、アマゾンの時価総額(2017年11月末時点)はアップルに次いで、世界第2位です。

現在、時価総額が1兆ドルにもっとも近いのは8823億ドル(同)のアップルですが、加速度的に成長を続けるアマゾン(同7147億ドル)のほうが先に到達する勢いを見せています。

配当がゼロであっても株主がアマゾンの経営姿勢を高く評価しているのは、株主利益優先より顧客利益優先の「カスタマー・セントリック(顧客中心主義)」のほうが長期的で継続的な成長につながると確信しているからでしょう。

■「最高のカスタマー・エクスペリエンス」

2000年代に入ってから、アメリカ企業の掲げる経営ビジョンのなかに、「最高のカスタマー・エクスペリエンスを提供する」という言葉を見かけることが多くなってきました。

カスタマー・エクスペリエンスとは文字どおり、「顧客体験」、ユーザーとしての体験です。アマゾンの本質をひと言であらわせば、「究極の顧客体験を提供する企業」ということができるでしょう。

本来、顧客一人ひとりが商品やサービスの購買をとおして求める「最高の体験」は画一的ではなく、それぞれ、趣味や嗜好、生活スタイルなどによって異なります。デジタル化の時代には、そのような顧客のあらゆる購買行動をデータとしてとらえることが可能になります。

企業などがビジネスなどを行うためのシステムやサービスをプラットフォームとして提供、運営する事業者をプラットフォーマーといいますが、アマゾンは、グーグル、フェイスブック、アップルを含めたデジタル時代の4大プラットフォーマーのなかでも、もっとも多くの顧客データを有しているといわれます。

第一に、顧客の購買データです。購買前に顧客がどのような商品を検索しているかという商品検索についても、アマゾンはグーグルをしのぐ強さを発揮するようになっています。

ある調査によれば、アメリカでユーザーがなにかを購買する際、検索エンジンとしてグーグルを使う割合は、2014~16年の2年間で55%から26%に半減したのに対し、アマゾンをつうじて検索する割合は38%から52%にまでのびているといいます(アメリカの金融サービス会社レイモンド・ジェイムズ社の調査より)。

アマゾンが特に強みを発揮するのは、こうした顧客データをもとにしたリコメンデーション機能です。

過去の商品検索や閲覧履歴、購入履歴などから、顧客一人ひとりの趣味や嗜好の傾向を探り出し、それに合致すると思われる商品をサイト上やメールで重点的に顧客一人ひとりに推奨する。

最先端のリコメンデーション機能を駆使しながら、顧客一人ひとりがオンラインで求めるあらゆるものを検索・発見できるような、世界でもっとも顧客重視の企業であることを目指す。それが、アマゾンです。

ただ、顧客中心主義という点では、わたしが10年間、籍を置いたセブン&アイグループもきわめて高いレベルにありました。

同じ顧客中心主義でも、アマゾンとセブン&アイグループとでは、どこがちがうのか。

わたしはあるとき、両社は発想が根本から異なることに気づかされました。

■セブン-イレブンはリアルの世界では最先端

セブン&アイグループのなかでも、もっとも顧客中心主義を徹底していたのは、セブン-イレブンでしょう。

そもそも、1973年のセブン-イレブンの創業がそうです。

鈴木敏文元会長が日本での本格的なコンビニエンスストアチェーンの立ち上げを提案したとき、「日本では各地でスーパーが進出し、商店街のかなりの部分が衰退している状況を見ても、小型店が成り立つわけがない」と社内外で猛反対されます。

それでも、「小型店でも顧客のニーズにきちっと応えていけば、経営が成り立ち、大型店との共存共栄が可能である」と、顧客を起点に発想することにより、創業に踏みだします。

セブン銀行の設立も同様でした。

元会長が、主にセブン-イレブンの店舗にATM(現金自動預払機)を設置するための銀行設立を構想すると、「銀行のATMも飽和状態にあるのに収益源がATMだけで成り立つはずがない」「素人が銀行を始めても必ず失敗する」……等々、猛反対され、容赦ない声が浴びせられました。

それでも、「コンビニの店舗にATMがあれば、顧客の利便性は飛躍的に高まる」という顧客起点のシンプルな理由から、前例のない、流通業による自前の銀行設立という困難に挑戦していきました。

こうしたサービスの拡大は、業容を順次拡大していったアマゾンの姿と重なります。

つまり、セブン-イレブンはリアルの世界においては、顧客中心主義の最先端を走っていたといえるでしょう。しかし、それはあくまでも、店舗をベースにした顧客中心主義でした。

■「ライフタイムバリュー×アクティブユーザー数」

一方、アマゾンも商材の幅をどんどん増やしながら、2005年からアマゾン・プライムという会員プログラムによる顧客の囲い込みを開始しました。

アメリカでのアマゾン会員は2017年7月には8500万人に達し、3年前の2800万人から3倍以上ものびています。このプライム会員のプログラムを見ているうちに、わたしが気づいたのは、アマゾンの収益モデルは日本の小売業のそれとはまったく発想が異なるということでした。

日本の小売業では、売り上げの増減を判断するとき、1店舗・1日あたりの「客単価×客数」を尺度とします。

そのため、1日に来店する顧客数と顧客の1回ごとの客単価をあげるための施策をいろいろと講じます。

一方、アマゾンは収益について、「ライフタイムバリュー×アクティブユーザー数」でとらえるのです。

ライフタイムバリューとは、「顧客生涯価値」とも訳されます。1人の顧客が特定の企業やブランドと取引を始めてから終わりまでの期間(顧客ライフサイクル)において、どれだけの利益をもたらすかを算出したものです。

これを顧客の側からとらえれば、ライフタイムバリューの高い顧客は、生涯にわたって得られる価値や満足度が高いということができます。

一方、アクティブユーザーとはもともとはIT用語で、要は利用頻度が高いユーザーのことをいいます。

1日の利用客数や1回ごとの利用額を増やすこと以上に、ライフタイムバリューの高いアクティブユーザーを1人でも増やすことを重視する。それが、アマゾンの収益モデルです。たとえば、「客単価×客数」の収益モデルでは、1回の購買単価が1000円の顧客と100円の顧客とでは、前者のほうが収益に貢献したことになります。

■既存の流通業とアマゾンの最大の違いとは

これに対し、アマゾンでは、1回の購買単価が100円であっても、10回利用してくれる顧客はライフタイムバリューが高いと考えます。

また、「客単価×客数」の収益モデルでは、1週間に3回買い物をしてくれた顧客は延べで「3人」とカウントされます。Aという顧客が3回来店しても、AとBとCの顧客がそれぞれ一回ずつ来店しても、来店した客数は「3人」です。

そして、この来店客数を増やすにはどうすればいいかが課題となります。

一方、アマゾンの「ライフタイムバリュー×アクティブユーザー数」の収益モデルでは、Aという顧客が1週間に1回買い物をしてくれても、3回買い物をしてくれても、Aという顧客は「1人」です。

そして、その「1人」をライフタイムバリューの高いアクティブユーザーへと育てるためにはどうすればいいかを考え、稼いだ利益を商品の値下げやいまあるサービスの質の向上に投資し、顧客の体験価値を高めていく。

たとえば、ビデオ配信サービスもそうです。アマゾンがビデオ配信サービスのため、2017年にオリジナルの映像コンテンツ制作に投じた予算は45億ドルと、アメリカのビデオストリーミング大手、ネットフリックスの60億ドルに迫るといいます(『日経ビジネス』2017年10月2日号より)。

その体験価値を高めるため、アマゾンは今後も、商材をどんどん増やしながら、プライム会員に提供するサービスを量、質ともに向上させていくでしょう。

もし、Aという顧客の立場で考えたとき、「客単価×客数」を高めようとする収益モデルと、「ライフタイムバリュー×アクティブユーザー数」を重視する収益モデルのどちらに魅力を感じるかといえば、後者になるでしょう。

これが既存の流通業とアマゾンの最大の違いといえるでしょう。

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鈴木康弘(すずき・やすひろ)
デジタルシフトウェーブ社長
1987年富士通入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。96年ソフトバンクに移り、営業、新規事業に携わる。99年ネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役就任。2006年セブン&アイHLDGSグループ傘下に入る。14年セブン&アイHLDGS執行役員CIO就任。グループオムにチャネル戦略のリーダーを務める。15年同社取締役執行役員CIO就任。16年同社を退社し、17年デジタルシフトウェーブを設立。同社代表取締役社長に就任。デジタルシフトを目指す企業の支援を実施している。SBIホールディングス社外役員も兼任。

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(デジタルシフトウェーブ社長 鈴木 康弘 写真=AFP/時事通信フォト)

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