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NHKアナが53歳で福祉職に転身したワケ

プレジデントオンライン / 2018年5月25日 9時15分

内多勝康・「もみじの家」ハウスマネージャー

先天的な病気や障害のため、たんの吸引や経管栄養などの「医療的ケア」が必要な子供が増えています。国の推計では約1万7000人。医学の進歩を背景に、10年前の2倍近くになっています。国立成育医療研究センターは子供と家族をサポートするため、2年前、東京・世田谷に医療的ケアを提供する短期入所施設をつくりました。初代のハウスマネージャーは元NHKアナウンサーの内多勝康さん。53歳での転身を決めた経緯を聞きました――。

■50歳を過ぎてから異業種への転職

私がハウスマネージャーを務める「もみじの家」は、公的な医療機関が運営する日本初の「医療的ケア児」と家族のための短期入所施設です。私は2016年3月にNHKを退職し、4月からこの施設の初代ハウスマネージャー(職場長)となりました。

番組の取材を通じて福祉関係に興味をもち、NHK在職中の2013年に社会福祉士の資格を取っていました。国立成育医療研究センター(以下、センター)の関係者から「もみじの家」ができることを知らされ、「ハウスマネージャーになりませんか」と声をかけられたときは驚きました。福祉の世界への道が開けて嬉しい気持ちもありましたが、50歳を過ぎてから異業種への転職です。もちろん悩みました。

ただ、私の中で徐々に「新しい現場に飛び込んでみたい」という気持ちが膨らんでいき、最終的にはお引き受けすることにしました。

医療的ケア児について、厚生労働省は「医学の進歩を背景として、NICU等に長期入院した後、引き続き人工呼吸器や胃ろう等を使用し、たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な障害児のこと」と説明しています。

在宅で医療的ケアを必要とする19歳以下の子供は全国に1万7000人以上います。ですから、このような施設を必要とするご家族は、日本全国にたくさんいらっしゃるわけです。そういう意味で「もみじの家」は各地に広がる支援モデルとなれるのかどうか、試金石としての注目も集めています。

当初は対象をセンターに通院しているお子さんとそのご家族に限定していましたが、開設して3カ月後から、どなたでもご利用いただけるようにしました。ただ、利用前に一度、当センターで診察を受けていただくことが必要です。

■医療的ケアは24時間、365日必要という現実

「もみじの家」は、センターの敷地内にあるため、医療的なサポートが保障されています。ケアスタッフには看護師が総勢15人おり、24時間態勢で常駐しています。

(上)光の変化、スライドの投影、波の動きを体感できるウォーターベッドなどを使って、楽しみながら五感を刺激する「スヌーズレン」を行える部屋も用意されている。(下)右側の台に子供を乗せた後、台を左の浴槽の上にスライドさせる。スイッチを入れるとお湯を張った浴槽の方が上昇し、子供は上下に動くことなく、お風呂に入ることができる。

宿泊していただくお部屋は、ご家族も一緒に泊まれるタイプや、お子さんだけの相部屋など、ニーズに合わせたいろいろなタイプをご用意しています。利用料は1部屋当たり2000円~4000円で、最長で1回9泊10日まで滞在できます。

一般浴室では温泉旅館に来たような雰囲気の中、広い湯船で家族一緒にお風呂を楽しむことができます。また、機械浴室では子供を上下に動かすのではなく、浴槽自体が上昇してくれるので、寝たまま落ち着いてお湯につかれます。

医療的ケアは24時間、365日必要とされることもあります。医療的ケア児を持つご家族、特にお母さん方のご苦労は言葉では言い尽くせません。

「もみじの家」をご利用いただくにあたり、入所初日の手続き時にお茶をお出しすると、「こんなにゆっくりとお茶を飲んだのは久しぶりです」とおっしゃるのです。裏返すと、たった一杯のお茶も落ち着いて飲むことができないほど、日常が厳しいということです。やはり、わが子の命に対する責任を一番背負っているのがお母さん方なのでしょう。

なのに、お母さん方は施設を活用して自分の時間を持つことにすら罪悪感を抱きがちです。

お母さんの時間も必要です。兄弟がいる場合は、兄弟が我慢していることもあります。「もみじの家」でお子さんが楽しんでいる様子を見て、「子供を預けて良かった」「預ける方が子供にとっても良いことなんだ」と思ってほしい。そうすれば、罪悪感に苦しむこともなくなると思います。

そのため「もみじの家」では、毎日、保育士と介護福祉士が中心になって朝夕に行う遊びの時間や、ミラーボールやウォーターベッドなどで五感を刺激する「スヌーズレン」を行う部屋などを活用して、子供たちの成長発達をサポートしています。活動中も常に看護師が必要なケアに当たりますので、安心して自宅ではできない経験をしていただけます。

■施設の広報活動と資金集めも課題

「もみじの家」の理念は、重い病気を持つ子どもと家族がその人らしく生きられる社会をつくることです。今後、各地にあるこども病院などの医療機関に同じような施設が増えていけば、支援を必要としている全国の方々が、もっと簡単にサービスを利用することができるようになるのです。

国立成育医療研究センター「もみじの家」。

4月で3年目に入った「もみじの家」は、まだまだ解決しなければならない問題が山積みです。中でも一番の課題が財政面です。

「もみじの家」はセンターの1部門として運営していますが、単体の施設として採算のとれる運営をすることが目標です。運営を安定させるためにどのような制度を新たに求めていくのか、第二、第三のもみじの家を誕生させるためには欠かせないテーマだと感じています。また、こうした施設の必要性を社会に訴えるための広報活動や、資金集めも必要です。

全く未経験の領域で、特に最初の年は戸惑ってばかりでしたが、丸2年が過ぎ、この施設を軌道に乗せるには長期的な視野が必要であることも学びました。この世界に入って、すべてが新しい挑戦で、挫折感を味わうこともありますが、大きなやりがいも感じています。

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内多勝康(うちだ・かつやす)
国立成育医療研究センター「もみじの家」ハウスマネージャー
1963年生まれ。86年東京大学教育学部卒業、NHKにアナウンサーとして入局。大阪局、東京アナウンス室、名古屋局、仙台局などで勤務。「生活ほっとモーニング」「クローズアップ現代」「首都圏ネットワーク」などのキャスターを務める。在職中の2013年に社会福祉士の資格を取得。16年3月にNHKを退職し、「もみじの家」(http://home-from-home.jp/)ハウスマネージャーに。

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(国立成育医療研究センター「もみじの家」ハウスマネージャー 内多 勝康 取材・構成=田中響子 ジャーナリスト)

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